【インタビュー】経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課長(兼)教育産業室長 浅野大介氏

日本の教育産業の未来に携わる、経済産業省 教育産業室。2018年に有識者会議として「未来の教室」とEdTech研究会を立ち上げた。デジタル技術を活用した教育技法であるEdTech(エドテック)。そして、時代の変化に合わせた新しい教育「未来の教室」に向けた教育改革の柱として、「学びのSTEAM化」「学びの自立化・個別最適化」「新しい学習基盤づくり」の3つの柱が提案された。初代室長の浅野大介さんに、教育改革の柱のひとつ「学びのSTEAM化」の重要性について伺った。

経済産業省商務・サービスグループ サービス政策課長(兼)教育産業室長
浅野大介氏プロフィール
 2001年入省。資源エネルギー、物流、危機管理、知的財産、地域経済、マクロ経済分析等の業務を経て、2015年6月より資源エネルギー庁資源・燃料部政策課長補佐(部内総括)、2016年7月より大臣官房政策企画委員としてサービス政策と産業保安政策の部局再編を担当し、その際に教育産業室の発足を企画。2017年7月より大臣官房政策審議室企画官、10月より教育産業室長を兼務、2018年7月より現職。

「STEAM教育」との出会い

STEAMとの出会いは、僕が室長になった初期の段階に出会った、ピアニストで数学教育者の中島さち子さんとカーレーサーの井原慶子さんとの会話でした。その後、去年の1月から経済産業省で、「未来の教室」とEdTech研究会という研究会を立ち上げました。

もともとSTEMという言葉は聞いたことがあって、その後に知ったSTEAMについては、僕の中では最初からART(アート)ではなく、ARTS(アーツ)、つまりリベラルアーツだと理解しました。僕は幸福な人間社会を創るセンスや論理というか、真・善・美だと捉えています。ARTSがベースにあって、STEMが掛け合わされて初めてパワーが生まれるわけです。例えば、STEMでロボットを作るにしても、そこにARTSがあればアームの動き一つで誰かを幸せにしたり、世の中を変える価値を生み出したりできる。それがSTEAMだと理解をしています。

STEAM的教育を彷彿させる国内の実験校

近代日本の教育改革には「大正自由教育」「戦後自由教育」「ゆとり教育」と3度の総合学習ブームがあり、STEAM教育の原型だったと思います。今回のSTEAMは4度目の山と思っていますが、一貫して総合学習の実践が続いている学校もあります。

長野県伊那市の伊那小学校がその一つ。今年、ここを視察して衝撃を受けました。生徒は、鳥や豚、羊を飼って、野菜を育て、醤油や味噌を作る。これらのプロジェクトに一日の大半を費やしますが、その中に算数も国語も理科も社会も溶け込んでいる。45分ごとにチャイムが鳴って思考を切ることもない。プロジェクトの中で教えられない内容だけ講義形式で教える枠組みで、それが70年ぐらい続いているのです。児童達は自ら「問い」を持てる生徒に育ち、活きた知識を身につける。これはSTEAMだと思いました。個人的には、ここにエンジニアリング要素が入るとさらに面白くなると思いました。こういう取組の本質がしっかり理解され、全国に広がるにはどんな教育政策が必要か、あれ以来、日々妄想しています。

経済産業省として取り組めること

経済産業省としては、教育産業におけるイノベーションを応援することで、学校も含めて学び方が大きく変化するきっかけを作りたいです。STEAMの教育プログラムを作ってくことを、教育産業と大学等の研究機関、さらには諸々の産業の現場と一緒に後押ししたい。あとは学校の先生達もその輪の中に入ってほしい。

そうすることで、STEAM教育のコンテンツが開発されていくコミュニティを豊かに育てたいですね。探究を頑張ろうとする学校の先生方が求めているのは、やはり大学や企業の先端研究の題材や人材との出会いなんです。だからSTEAM教育のコミュニティづくりを進めます。学校や研究機関の先生たちが一緒になって、構想やプログラムの話をしているところに、教材のプロである教育産業の人たちが参加すれば形にできるはずです。そこで、『STEAM JAPAN MAGAZINE』には、そういった情報の発信機能やコミュニティ形成機能に期待したいと思っています。

教育産業の中でも、この1年くらいでSTEAMに本腰を入れる動きが始まりつつあります。STEAMとか探究とかいう言葉に保護者が反応して、我が子の未来のために必要だと思ってお金を払おうと思う世論形成も重要。そのためにも、どういうメッセージを僕らは発するべきなのかなと考えたりもします。

STEAM教育普及後の日本の未来

子ども達には、疑問を率直に口にし、自由闊達にものを言えて、様々な人とともに価値創造に取り組めるようになってほしい。意味のある議論のできる大人が増えなければ、この社会にイノベーションなどなかなか起こるわけもない。STEAM教育を通じて、情報を編集し、知恵を生み出す習慣を身につけた子ども達は、何かを創り出す習慣ができているはずだから、自分で知恵を出して、必要な人たちを集めて、自分でプロジェクトを作れる。そうなれば、日本からいろいろ新しい価値が世界に発信されるようになっていくんじゃないかと。

あとは、国際社会における「うるさい日本人」という新しいキャラ設定もできるようになるかと。今の日本は、国際会議でも最初のアジェンダ設定力に課題が大きい。最初のアジェンダ・ファイトの段階で相当存在感のある日本人が出てくると、変わるでしょうね。今の子どもたちがSTEAM教育で変わり始めたとして、社会が日本人の変化を目の当たりにするのは20年後や30年後かもしれない。でも、今やらなければ、さらに出遅れる。

全国の先生に伝えたいメッセージ

疑問や提案を躊躇なく口にできる子ども達を育てて欲しいですね。先ほどの伊那小の事例にもあるように、今の学校教育法・学習指導要領の体系の中で、時間割や教科や単元を編集すれば高度なSTEAM教育は可能で、要は、やるだけなんですよ。教育現場の取組を、僕ら経産省は文科省と一緒に応援をしたいと思っています。