【北欧】個人を尊重するスウェーデンの教育「あなたはどうしたい?」

世界で最も個人主義的な国の一つとして知られている北欧に位置するスウェーデン。この記事では、北欧スウェーデンの教育がどのように子どもたちの主体性を育み、社会全体のイノベーションを支えているのか、スウェーデン現地でのインタビューも交えてご紹介します!

イノベーションが進むスウェーデン

スウェーデンでは、教育や社会全般において、自己決定を重視する文化が根付いています。スウェーデンは2024年のOECD「国際成人力調査(PIAAC)」で、読解力、「数的思考力」「状況に応じた問題解決能力」の3分野で世界3位にランクイン。また、2023年と2024年の「グローバル・イノベーション・インデックス(GII)」では、スイスに次いで2年連続で世界第2位に選ばれ、イノベーション先進国としても注目を集めています。

では、スウェーデンがこのような成果を上げている背景にはどのような教育があるのでしょうか?この記事では、スウェーデンの教育がどのように子どもたちの主体性を育み、社会全体のイノベーションを支えているのか、スウェーデン現地でのインタビューも交えてご紹介します!

国際成人力調査(PIAAC)

参照:⽂部科学省・国⽴教育政策研究所 https://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/pdf/02_PIAAC_CY2_point2.pdf

グローバル・イノベーション・インデックス(GII)

参照:Global Innovation Index Database, WIPO, 2024. https://www.wipo.int/web-publications/global-innovation-index-2024/assets/67729/2000%20Global%20Innovation%20Index%202024_WEB3lite.pdf

個人が尊重されるスウェーデン社会「あなたはどうしたい?」

スウェーデンでは、「個人の自立」がさまざまな政策の基盤となっており、個々の自立した選択がとても大切にされています。実際に日常生活でも、「あなたはどうしたい?」と尋ねられる場面が多く、日本の集団を重んじる文化とは異なり、一人ひとりの希望や意見がより尊重される社会です。こうした価値観は、幼少期の教育にも深く根付いています。例えば、スウェーデンの保育園では、日本のように子どもたち全員が同じ活動をするのではなく、子どもたちがそれぞれ「何をしたいか」を自分で考え、それに応じて先生がサポート。給食に至っては、ビュッフェ形式で提供されることもあるそうで、子どもたちは自分が食べたいものを自由に選ぶことができます。先生が必要に応じて栄養面でアドバイスをすることはあるようですが、ここでも基本的には「何を選ぶか」は子ども自身に任されています。

これはほんの一例ですが、このような環境で育つ子どもたちは、自分の意思を表現し、それに基づいて行動する力を自然と身につけていきます。主体性を育む様々な仕組みが、スウェーデンの個人を尊重する文化と結びつき、社会全体を形作っているかもしれません。

多様な個人を支えるスウェーデンの教育システム

スウェーデンの教育システムが一人ひとりの自由や個性を尊重する中、そこに必要なサポートを提供する仕組みも特徴です。たとえば、スウェーデンの公立高校にはさまざまな学力や文化背景を持つ生徒たちが学校生活を送っていますが、それぞれのニーズにどのように応えているのでしょうか?

□スウェーデン公立高校の「ピラミッド型」サポートシステム

個人の学びをサポートする一つとして、シェレフテオにあるバルダー高校では、生徒一人ひとりの学びを支えるために、段階的な「ピラミッド型」のサポートシステムを提供しています。

01 長期休暇中の補習

  1. より多くのサポートが必要な生徒に対しては、長期休暇中にも補習を行い、継続的な支援を提供します。

02「Studio」での補習

  1. 週2回、授業後には、「Studio」と呼ばれる補習時間を設けています。ここでは数学、スウェーデン語、英語を個別にサポートします。誰でも自由に参加可能ですが、教師が特に必要だと判断した生徒には積極的に参加を促します。

03 授業中の個別サポート

  1. 必要な生徒には授業中に適切な支援を提供します。たとえば、ディスレクシアの生徒には、ホワイトボードのテキストを自動で読み上げる機器や紙ベースの教材が用意されます。さらに、必要に応じて専属の教員も配置されます。

04 わかりやすい授業と観察

  1. 授業では明確で体系的な指示や説明を心掛け、生徒の理解を深めるとともに、モチベーションを高める工夫がされています。
  2. 特別な支援を必要とする生徒がいないかを観察し、どのようなサポートが必要かを見極めることも重要な役割です。

実際に、スウェーデンのシュレフテオにあるバルダー高校の授業を見学すると、同じ内容であっても、先生が生徒一人ひとりをよく観察し、状況に応じたサポートを提供し、クラスごとに異なるスタイルで進められています。先生はガイド役として生徒たちの学びを柔軟にサポートすることで、個々のニーズに合わせた授業を実現しています。

□多様な文化的背景を持つ生徒への母国語クラス

スウェーデンは移民国家としても知られるように、多様な文化的背景を持つ人々が共に生活しています。例えば、シェレフテオでは、スウェーデン語以外の言語を母国語とする生徒に対して「母国語クラス」が提供されています。このような支援は、個々人の“やりたい“を叶え、個人の多様性を尊重するだけでなく、すべての子どもが平等な学びの機会を得られる学校生活環境を作り出しています。

▼バルダー高校の多言語ユニットの責任者 Ola先生からのコメント(幼稚園から中等教育までの多言語教育を監督)

「多様な文化を持つ多くの先生や保護者と協力するのは簡単なことではなく、時間がかかります。しかし、さまざまな文化について学び、その中で何が大切とされているかを理解し始めると、次第にその文化を持つ人々とも良い関係を築けるようになります。完璧ではないかもしれませんが、その努力が信頼を生み、これが協力の鍵だと感じています。私はスウェーデン的な視点だけで物事を決めることはしません。親やその文化が示す価値観に耳を傾け、それをスウェーデンのカリキュラムにどう組み込むかを模索しています。時にはそのプロセスが制約を伴うこともありますが、私はその挑戦を楽しんでいます。」

学び方だって人それぞれ、個人の選択に合わせていく

個人の学習レベルや文化的背景の違いだけでなく、現代の子どもたちの学び方は大きく変化しています。スウェーデンは、ICT先進国として知られていますが、ICTの普及によりスマートフォンやタブレットが情報源の主流となり、本を読む習慣が薄れているそう。これにより、読解力や知識を得る力への影響が懸念されスウェーデン政府がICTの積極的な活用を見直す方針を掲げていますが、一方で、紙の本を読むことだけが知識を得る方法ではないという考えもあります。

▼バルダー高校IB(国際バカロレア)プログラム校長 Sara先生からのコメント

知識の基盤をどのように築くかは個々の自由であり、紙の本だけでなく、オーディオブックやデジタル教材といった多様な方法が活用されるべきだと考えています。重要なのは、今の時代に必要な力が何かを考え、身につけること。例えば、AI技術が生活の一部となっている現代では、フェイクニュースが溢れる社会の中で正しい情報を見極める力、批判的思考(Critical Thinking)を身につけることが不可欠です。学校では、そういった時代にあった授業を提供していく必要があります。」

スウェーデンの教育は、個人の自立や主体性を重んじる文化や、多様性を受け入れる制度を基盤に築かれています。この教育の在り方は、単に個人を育てるだけでなく、社会全体にイノベーションを生む土壌を形成しているように感じられます。日本がイノベーションを推進するうえで、スウェーデンの事例は多くの示唆を与えてくれるはず。未来を担う次世代の教育を考える上で、スウェーデンから学べることは多いのかもしれません。

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