日本で注目を集めている「ウェルビーイング(Well-being)」。では、学校におけるウェルビーイングとは、具体的にどのようなものなのでしょうか?世界でも幸福度ランキングの上位を誇るフィンランドでは、ウェルビーイングを軸にした教育が広がっています。学校におけるウェルビーイングは、生徒が自らのアイデアを表現し、主体的に学ぶことを促す創造的な学びと深く結びついています。
今回は、ヘルシンキ中央駅から電車で約20分の場所にあるKulosaari Secondary Schoolを訪れ、フィンランドの学校におけるウェルビーイングの実践を見学してきました。数多くの発見があった中で、特に印象的だった10のポイントをご紹介します!
1.フラットな教師と生徒の関係
フィンランドでは教師と生徒の関係性が非常にフラット。廊下を歩いているだけで、教師と生徒が気さくに会話を交わす姿が何度も見られました。フィンランドでは教師は、ただの指導者ではなく、生徒の悩みや心配事に耳を傾ける存在。また、校長先生でさえ、生徒との距離が近いのが特徴です。
Erika先生 💬「校長先生が一人ひとりと向き合う姿勢が、学校全体の文化をつくっていると感じます。週に一度、食堂で生徒たちと交流する時間を設けており、ほぼすべての生徒の名前を覚えているんですよ。フィンランドでは、教師と生徒が気軽にコミュニケーションを取れる関係性が築かれています。」
2. 教師の役割は“ガイド”である
フィンランドの教師は、生徒を厳しく管理するのではなく、あくまで“ガイド”として生徒の学びをサポートしています。このスタンスが、生徒の自律性や自己肯定感を高める要因となっていると思います。
💬「私は、生徒たちに未来のためのスキルを教えたいと考えています。生徒を測ることやテストをしたいとは思いません。もちろん、テストには目的があるのは理解していますが、それだけに依存する必要はありません。」
3.生徒からも評価をもらう機会を得る
フィンランドの教師は、各コースの終了後に生徒から匿名でフィードバックを受け取る機会(任意)があります。匿名であることで、正直な意見を聞けるようにしています。
💬「私自身の視点から言うと、自分がどの方向に進むべきか、どのようにさらに成長すべきかを知るための指針が必要です。実際に、私が授業で発展させてきた多くのことは、学生たちからの提案に基づいており、それらはとても理にかなっていると思います。」
4.過剰なプレッシャーを避ける
フィンランドでは、試験は教育の一部に過ぎず、生徒の学びや成長を確認するための補助的な手段と考えられているため、試験が必要最小限に抑えられ、生徒を追い詰めない教育が行われています。一方で、18歳の大学入学資格試験(マトリキュレーション試験)が唯一の「ハイステークス試験」として生徒にストレスを与えている点が課題となっています。教師もこの負担を軽減するため、評価方法や試験の在り方について議論を進めています。試験による過剰なプレッシャーを避け、生徒の自己肯定感を損なわないことが重視されています。
💬「“試験で生徒を追い詰めていないか?試験は教師にとってどんな目的を果たしているのか?” これは教師同士でも話し合うテーマです。試験が学びのすべてではありません。教師は試験をしなくても、生徒が学んでいるかどうかを知ることができます。むしろ悪い成績が自己肯定感を下げる要因になりかねません。」
5.プロセス重視の評価と生徒の成長
フィンランドの教育では、試験結果だけに頼らず、生徒の学びのプロセスを重視した評価が実践されています。例えば、Erikaさんが担当する8年生の授業では、以下のように評価が構成され評価基準(ルーブリック)を生徒たちに事前に共有し、評価方法を明確にしています。
<評価の構成>
💬「ルーブリックは非常に明確なので、生徒たちにも事前に共有しています。生徒たちは『ああ、こういう基準で評価されるんですね』と理解し、私は『そう、その基準をもとに学びを積み重ねていくんだよ』と伝えています。」
6.みんなで創り上げる学校
生徒や教師、さらには卒業生までもが学校づくりに関わっています。廊下の展示物は、生徒たちが授業で作成したプロパガンダ的要素を含む作品。校章は、卒業生によってリニューアルデザインされたもの。学校の庭のデコレーションは、管理人さんのアイデアで彩られ、学校を構成するさまざまな要素が、関わる人々の手によって形づくられているのが特徴です。
7.それぞれに必要な空間とサポートの提供
フィンランドの学校では、教師や生徒が安心して働き、学べる環境を整えるための特別な配慮がされています。特別支援教育の教師には、専用の支援スペースが用意され、必要なサポートを提供できる環境が整っています。高等部の生徒には、リラックスして過ごせるアトリウムスペースが設けられ、学習の合間に落ち着ける場所として活用されています。また、心理士、カウンセラー、看護師などが集まるウェルビーイングの廊下があり、学校生活で教師や生徒が必要なサポートを受けられるようになっています。さらに、生徒たちが自由にくつろげるコミュニティスペースもあり、ピアノを弾く生徒がいたり、のびのびとした雰囲気の中で過ごすことができます。
8.一人ひとりの働き方を尊重する柔軟性
フィンランドでは、教師が自身のライフステージや事情に応じて働き方を選べる柔軟性も大切にされています。職場全体で教師の学びや研究を支援する文化が根付いており、柔軟な働き方や支援体制を通じて、教師が心身ともに健やかに働ける環境が整えられています。
💬「教職から5~6年ほど離れ、教育の専門職に携わった後、ライフステージの変化を機にペースを落とす必要があると感じ、この仕事に応募しました。柔軟性のある職場のおかげで博士課程の研究も進められています。」
9.個々の生き方を尊重する環境
フィンランドの学校文化の特徴の一つに、教職者としての役割だけでなく、個々の生き方や価値観が尊重されていることが挙げられます。たとえば、Kulosaari Secondary School では、事務員の方が飼っている犬が学校の事務室にいて、教員たちを温かく迎えてくれるそうです。このように、日常の中で自然と多様な価値観を受け入れる姿勢が、学校全体のウェルビーイングにつながっているように感じられます。学校はただの学びの場ではなく、互いの個性を尊重しながら、心地よく過ごせるコミュニティのようです。
10.信頼関係に基づく学校文化
学校全体で築かれる信頼関係も、ウェルビーイングを支える重要な要素です。教職員同士が互いをリスペクトし、助け合う姿勢が、働きやすい環境づくりに寄与しています。話の中で、一緒に働く人たちをリスペクトする姿勢がとても強く感じられました。
💬「私たちはとても密接な関係を築いています。たとえば、事務作業を引き受けてくれるスタッフや設備を整える管理人など、全員が信頼関係の中で支え合っています!」
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フィンランドの学校を見学すると、日本の学校とは異なる多くの点に気づかされます。フィンランドの教育が目指しているのは、単に生徒の成績を向上させることではなく、生徒たちが自分の可能性を信じ、学び続けられる環境を整えることなのかもしれません。
試験は必要最小限に抑えられ、教師は厳しく管理するのではなく、ガイドとして生徒に寄り添う。この教育スタイルは、生徒の自己肯定感を高め、未来に必要なスキルを育む土壌を創り出しているのかもしれません。
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