【イギリス】 女子のためのサイバーセキュリティ大会を開く理由

生活の様々な面でデジタル技術の利用が増える中、ウイルスや不正アクセスといったサイバー攻撃について報道されることも増えてきました。その脅威にたち向かうべく、イギリスでも2016年に国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)を設置したり、19億ポンドの予算を投じてサイバーセキュリティ戦略の5カ年計画を出すなど、取り組みを進めています。そのイギリスでは、NCSCが女子生徒のためのサイバーセキュリティ競技会を主催しています。

競技会の名前はCyberFirst Girls Competition。日本での中1に相当する学年の女子生徒を対象としています。参加者は四人のチームで競い、地域ごとの予選・準決勝ののち、トップ10チームが競う決勝が行われます。2017年から行われており、オンラインで行われた2021年大会には全国から6500人以上の女子生徒が参加しました。

出題される内容は基本的にコンピュータサイエンスのカリキュラムに準拠しています。公開されている例題を見ると、暗号の解読やパスワードのクラッキングにかかる時間の計算などが出題されています。2021年大会の決勝では、IoT機器がマルウェアに感染したという架空のシナリオをベースに、暗号やネットワークなどの知識を問う課題が出題されました。

この競技会は、NCSCが行なっているCyberFirstというプログラムの一部です。CyberFirstは11〜17才および大学生を対象に次世代のサイバーセキュリティの担い手を育てるプログラムです。大学進学のための経済的支援や無料講座など、幅広い形での活動を行なっています。年代別のサマーコースも開催しており、学年に応じてコンピュータサイエンスに親しむための内容からサイバーセキュリティに深く踏み込んだ内容まで学べるようになっています。

基本的には、これらCyberFirstのプログラムは男女両方を対象としています。そもそもNCSCが若者の教育に力を入れている背景には、サイバーセキュリティ人材の不足があります。イギリス国内だけで、2022年までに約100,000のサイバーセキュリティ関連のポストが空白になるとみられており、若者にサイバーセキュリティを将来の選択肢として視野に入れてもらうことが課題となっているのです。

その上で特に女子生徒に特化した取り組みを行う背景には、女性の数の少なさがあります。サイバーセキュリティ分野では、世界全体の従事者のうち女性は10%程度と、かなり限られています。また、そもそもSTEM分野の職業に従事する人のうちの女性の割合はイギリスでも少なく、2017年のデータで23%に留まります。このような背景を受けて、子ども、特に女子を対象として様々な取り組みが行われているのです。

CyberFirstでは他にも日本の中1〜中2にあたる女子生徒にフォーカスしたCyberFirst Girls Development Daysというイベントを行なっています。ある企業の情報流出の原因を突き止めるという筋書きをベースにロールプレイング形式で行われるもので、その中で暗号や進入テストなどの項目に触れることができるようになっています。

デジタル技術とはますます切っても切り離せない生活になっていく中、早いうちからサイバーセキュリティについて学びを深め、力を発揮できる場所があることの重要性は高まっていくかもしれません。