【イスラエル】スタートアップ国家を支える教育とは?

中東の地中海に面する国イスラエルは、建国が1948年とまだ歴史は浅く、人口は約900万人とかなり規模の小さな国です。しかしその一方で、先進技術大国としても知られています。「スタートアップ国家」でもあり、6000近いスタートアップ企業があるとされています。さらに、NASDAQにリストされた企業数でもアメリカ、カナダに次いで第3位。そんなイスラエルでは、どのような教育が行われているのでしょうか?

イスラエルの教育制度

イスラエルでは、5〜18才が義務教育の対象で、無料で教育を受けることができます。また日本とおなじく、小中高がそれぞれ6年、3年、3年となっています。カリキュラムは政府によって定められていますが、教材などの選択はある程度学校にも自由が与えられています。

イスラエルの特徴が、多文化国家であることです。2020年の統計では、人口の74%がユダヤ人、21%がアラブ人、5%がその他となっています。そのため、学校もそれぞれの背景にあったものが用意されています。大きく4つの種類に分類され、大多数の生徒が通う国立学校、ユダヤ教に重点をおいた教育を行う国立宗教学校、アラビア語でアラブ・ドルーズの文化に重点をおいた教育を行うアラブ・ドルーズ校、そして様々な宗教的背景を持つ私立学校があります。アラブ系・ユダヤ系で学校は分かれていますが、カリキュラムは基本的に同じです。

コンピュータサイエンス教育のパイオニア

イスラエルは、コンピュータサイエンス教育(CS教育)が進んだ国でもあります。高校でのカリキュラムとして取り入れられたのは1970年代中ごろで、なんと50年近くも行われているのです。当初は科学の一教科としては認められておらず、授業を行なっている高校も限られていましたが、1980年代後半から見直しが行われました。その結果CS教育は科学の一教科として扱われるようになりました。

イスラエルの高校では1つ以上の科目(数学、英語、歴史など)を深く学ぶ必要がありますが、現在はCSもその一つに含まれており、大学入学試験の科目としても試験を受けることができます。授業は分野・段階ごとに分けて構成されており、基礎、ソフトウェアデザイン、理論などに分かれています。それぞれ90時間ずつ時間が割り当てられており、かなりしっかりと学べる体制がうかがえます。

さらに今年7月、イスラエル教育大臣らは、幼稚園から中学でもSTEM教育を取り入れていくと発表しました。中学校でのコンピュータサイエンスとロボットについての試験的なプログラムも近く開始されます。今後、STEM分野をになう人材の早くからの育成が進みそうです。

学びの機会としての兵役

学校教育に加えてSTEM分野の教育の面で重要な役割を果たしているのが、イスラエル国防軍(IDF)での兵役です。イスラエルでは、18才以上のユダヤ系国民に対して男子が3年、女子が2年の兵役が定められています。多くの人は、高校卒業と大学入学の間に兵役を行います。高等教育を受けるのは遅くなりますが、この期間が、技術的な知識を得て、STEM分野のプロとなる機会を提供する場となっているのです。

IDFはSTEM分野の教育プログラムや設備を保有しており、選別されたメンバーはここで新たな技術にふれ、時に数ヶ月にわたるトレーニングを受けます。また、兵役前に大学での専門教育を受けることができるAtudaという特別プログラムも用意されています。このプログラムに参加すると、兵役が数年追加される代わりに大学でSTEM分野などの専門知識を学ぶことができ、大学卒業後は軍でその知識を活かしたポジションで働くことになります。

このような直接的な影響に加え、間接的な影響として、軍の慣習がスタートアップ企業との相性が良いこと、人脈が形成されることも指摘されています。


このように、イスラエルがスタートアップ国家となった背景には、テクノロジーを重視する学校のカリキュラムに加えて、イスラエル特有の事情もはたらいているようです。兵役の裏には周辺国との緊張状態がありますが、専門的な教育を受ける前に実践の場を体験できるという点では、日本にも見習える部分があるのかもしれません。

参考

カテゴリ:世界のSTEAM教育
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