テキサス州にあるマグネットスクール* SETA(Space and Engineering Technologies Academy)のHigh Schoolのキャンパスを訪問してきました。
SETAのプログラムは、学生の進路選択とその柔軟性、カリキュラムの構造、教員研修、学生の社会との関わり、そして学校の課題解決を重視した内容で成り立っています。今回の訪問レポートでは、特にエンジニアリングデザインプロセス(EDP)の活用を中心に、 SETAにおける教育プログラムのポイントをPick Upし、日本のこれからの教育のヒントを探ります。
(*マグネットスクール: 特定の学問分野や教育プログラムに特化した公立学校のこと。通常の公立学校のカリキュラムに加えて、特定のテーマや専門分野(例:科学、技術、工学、数学(STEM)、芸術、言語学、国際関係など)に焦点を当てた教育プログラムを提供)
SETAでは、学生が進路を変更したいと感じた際に柔軟に対応できる仕組みをとっています。例えば、機械工学を選んだ学生が途中で「想像していたものと違う」と感じた場合、コンピュータサイエンスに切り替えることが可能になります。このため、全ての学生が1-2年生の間にコンピュータサイエンスを履修することを必須としています。これにより、どの進路を選んでも基礎的な知識を持ち、進路変更がスムーズに進むようにしています。
カリキュラムは、シーケンシャル(順序立てた)な学びを重視しています。EDPは新入生の段階で集中的に指導され、その後の学年での学びの基盤として活用されます。具体的には、以下のステップを通じてEDPが教育に取り入れられています。
• 問題の定義:学生が解決すべき課題を明確にする
• 条件と制約の明確化:課題解決のための条件や制約を設定する
• アイデアの創出と評価:複数の解決策を考え、その中から最適なものを選ぶ
• プロトタイプの製作とテスト:選んだ解決策を試作し、テストを行う
• 改良と最適化:テスト結果に基づいて改良し、最終的な解決策を完成させる
これにより、EDPをベースとして効率的に授業を進めることを可能にしています。また、EDPの導入により、学生はシステマティックに問題解決能力を養うことができていると言えます。
学生は実践的なプロジェクトを通じてEDPを学びます。例えば、ロケットの設計と製作に関するプロジェクトでは、学生は与えられた仕様に基づいてロケットを設計し、校内競技会に参加します。この取り組みで、EDPの各ステップが実際の製作活動に応用されます。具体的な例として、以下のような活動が行われています。
• ロケットの設計
• プロトタイプの製作
• テストと改良
• 競技会での発表と評価
授業時間を効率化するため、フリップド・クラスルーム(事前学習と理解)を採用しています。学生は予め自宅で講義ビデオを視聴し、教室では実際の問題解決やプロジェクト作業に集中します。これにより、教員は学生が直面する具体的な問題に対して理解促進など個別サポートを行うことができます。
教員のスキル向上と最新知識の習得を目的として、NASAとのパートナーシップが活用されています。NASAのインストラクショナルコーチによるトレーニングや、ヒューストンでの研修が行われています。また、教員は契約日数の一部を使って企業でのシャドーイングを行い、最新の業界動向を把握しています。これにより、教室での指導内容が常に最新で実践的なものとなるよう努めています。
コロナ禍で一時中断されていたインターンシッププログラムも再開され、学生は企業での実務経験を積むことができます。例えば、航空宇宙産業関連の企業では、高校3年生が現場での実習を通じて、実際の業務を体験します。このプログラムは学生にとって非常に重要であり、将来のキャリア選択に大きく寄与します。
企業側は、将来的な人材採用になる可能性を見据えて、積極的に協力をしています。
学生は独立してプロジェクトに取り組む機会が与えられます。例えば、ロボティクスのクラスでは、特定の目標を達成するためにロボットを設計・製作する課題が出されます。このようなプロジェクトは、学生の創造力と問題解決能力を養うために非常に効果的です。また、進行管理のためのチェックポイントやルーブリックを用いることで、学生が計画的にプロジェクトを進められるようサポートしています。
学校は地元企業やコミュニティとの連携を重視しています。例えば、学生が設計した実験が国際宇宙ステーションで実施されるプログラムに参加するなど、地域社会とのつながりを強化しています。また、企業の課題解決に向けたコンペティションを通じて、学生が実社会の問題に取り組む機会を提供しています。
SETAでは、教育機関との公式なパートナーシップも進行中です。例えば、高校3年生と4年生が航空機整備士の資格取得に向けた教育を受けるために、外部の専門機関での学びを提供しています。このような取り組みにより、学生が高校卒業後にスムーズにキャリアに移行できるよう支援しています。
学校の管理者は教育現場での課題として、コンテンツの迅速な習得と企業との連携の難しさを挙げています。例えば、セキュリティクリアランスが必要な職種では、学生が若い頃からクリーンな記録を維持する重要性を強調しています。このような情報を提供することで、学生が将来のキャリア選択において有利になるよう支援しています。
テキサス州のこのマグネットスクールでは、柔軟な進路選択、実践的な学び、教員の継続的なスキルアップ、そして企業との連携を通じて、学生の将来のキャリア形成を支援している様子が存分に見受けられました。エンジニアリングデザインプロセスを効果的に活用し、学生が実践的なスキルを身につけることを重視されています。
昨今の日本でも、地域社会や産業界との連携を強化し、学生が(模擬課題ではなく)リアルな社会課題に取り組む機会を提供し続けることが求められています。日本でもそうした実社会とつながる学び、実際の課題の発見と解決につながる学びが広がってきているので、こうしたアメリカの事例は一つの参考になるかもしれません。
*STEAM教育プログラムの導入相談は、こちら から
名称: Space and Engineering Technologies Academy (SETA)
公式サイトはコチラ
所在地:テキサス州 サンアントニオ
学年構成:高校(9年生から12年生まで)