2026.05.27│STEAMレポート

【特集】国内で進む高校教育の転換。ここ5年で生まれた「学びの再設計」

2022年度に高等学校の新学習指導要領が全面施行され、「総合的な探究の時間」や「情報Ⅰ」の必修化など、高校の学びは大きな転換期を迎えています。さらに現在、2027年の次期改訂に向けた議論も進められており、STEAM教育や探究的な学びへの期待はますます高まっています。

こうした流れの起点の一つとなったのが、2021年の中央教育審議会答申です。これを受け、文部科学省は2022年度から「学際領域に関する学科」「地域社会に関する学科」など、普通科以外の新たな学科を高校に設置できるようにしました。以降、全国各地で「STEAM」や「探究」を冠する新学科・新コースの設立が相次いでいます。

しかし、変わりつつあるのは制度だけではありません。カリキュラムの中身や学びの空間、評価の在り方そのものを見直す動きも広がっています。

STEAM JAPANでは以前、文部科学省 高等教育局長の合田哲雄氏に、次期学習指導要領の方向性や「好きを諦めさせない教育」についてお話を伺いました( 好きを諦めさせる教育は、終わりにしよう。文部科学省 合田哲雄氏インタビュー)。

そこで語られた「学びを教科の中に閉じず、社会に開いていく」というビジョンは、いま全国の高校現場で具体的な形を取り始めています。

本記事では、こうした高校改革が加速したここ5年間(2021年〜2026年)に始動した、高校段階の教育改革事例6つを、STEAM JAPAN編集部でピックアップ!民間主導の新設校から公立校の自己変革、地域資源を活かしたSTEAMプログラム、そして「学びの空間」から教育を変えようとする取り組みまで、「次世代の学び」の現在地をお届けします!

「社会と接続する学校」への転換──3つの新設・改編事例

最初に紹介する3校に共通しているのは、学校が「教科学習を完結させる場所」から「社会との接点を持つ学びの拠点」へと、その役割を広げようとしている点です。地域・企業・専門家といった外部のリソースを積極的に取り込みながら、新しい学びの形を模索する動きが始まっています。

① 15歳から「つくる」と「起こす」を学ぶ──19年ぶりの高専新設

神山まるごと高専(徳島県神山町/2023年開校) 公式サイト

Sansan株式会社代表の寺田親弘氏を中心とする起業家グループが発起人となり、徳島県神山町に開校した5年制の私立高等専門学校です。国内の高専としては、2004年の国立沖縄工業高等専門学校以来、19年ぶりの新設となりました。

同校が掲げる目指す人物像は「モノをつくる力で、コトを起こす人」。カリキュラムは「テクノロジー×デザイン×起業家精神(アントレプレナーシップ)」の3領域を柱としており、ソフトウェア・ハードウェアの技術だけでなく、それを社会に届けるためのデザイン思考やビジネスの素養を複合的に学ぶ構成です。

学びのスタイルにも特徴があります。同校が大切にしているのは「β(ベータ)メンタリティ」という考え方。完璧なものを目指して動けなくなるのではなく、未完成の段階でもまず形にし、フィードバックを受けながらアップデートしていく──ソフトウェア開発の発想を学びのプロセスそのものに組み込んでいます。全寮制・1学年約40名という少人数の環境で、現役起業家による特別講義も展開されており、「手を動かしながら、社会とのつながりの中で学ぶ」姿勢が学校全体に貫かれています。

過疎化が進む地方の町に、全国から生徒が集まる学校が誕生したこと。それ自体が、教育が地域の在り方を変える可能性を示しているのかもしれません。

▶ STEAM JAPANでは、同校の開校時に事務局長の松坂孝紀氏にインタビューしています。学校づくりの経緯や、子どもたちに必要な力についてのお話はこちらから:【祝・開校!】神山まるごと高専インタビュー

探究の時間を週6時間に──実践重視のカリキュラムを展開

FC今治高等学校 里山校(愛媛県今治市/2024年開校) 公式サイト

元サッカー日本代表監督の岡田武史氏が学園長を務める私立高校である同校は学校法人今治明徳学園の矢田分校を改編する形で、2024年4月に開校しました。「キャプテンシップを持った人材の育成」を教育理念に掲げています。

カリキュラム上の大きな特徴は、多くの高校で週1時間程度にとどまる「総合的な探究の時間」を週6時間に拡張している点です。火曜日と金曜日の午後をすべて探究活動に充て、里山スタジアムや地域の企業をフィールドにした実践的なプロジェクト型学習(PBL)を展開しています。

午前中は座学で基礎的な学力を担保しつつ、午後は学校の外に出て学ぶ──という時間割の構成も特徴的です。評価面では定期テストを廃止し、問いに向かう姿勢や思考力を重視した方針を採用しています。校則についても生徒が主体的に策定する方式をとるなど、生徒の自律性を軸に据えた学校運営が試みられています。

スポーツ・地域・ビジネスが交差するリアルな環境の中で、生徒たちがどのような力を身につけていくのか。開校3年目を迎えた同校の今後に注目です。

創立150年の伝統公立校が新学科を設置

公式サイトより

兵庫県立篠山鳳鳴高校「STEAM探究科」(兵庫県丹波篠山市/2024年新設)

1876年(明治9年)創設で、2026年に創立150周年を迎える兵庫県内有数の伝統校です。文部科学省の「新時代に対応した高等学校改革推進事業(普通科改革支援事業)」の採択校として、2024年度に「STEAM探究科」(単位制)を新設しました。従来の普通科総合科学コースを改編したものです。

DXハイスクールにも指定されており、探究ルームには3Dプリンター、3Dスキャナー、レーザーカッター、ドローンなどの先端機器が整備されています。こうしたツールを活用しながら、地元・丹波篠山の地域課題にアプローチする探究活動が行われています。

この事例が示唆に富むのは、新設校や私立校だけでなく、少子高齢化や定員割れに直面する地域の伝統ある公立校が、自らカリキュラムを刷新するという選択をした点です。同様の課題を抱える全国の自治体や学校にとって、一つの参考事例になるのではないでしょうか。

「テーマ」と「空間」から学びを変える──3つのアプローチ

続いて紹介するのは、カリキュラムの再設計とは少し異なる角度から教育の転換に挑んでいる3つの事例です。「宇宙」や「研究都市」といった地域ならではのテーマで教科横断を実装する試み、「学びの空間」そのものを再設計するアプローチです。

「日本で最も宇宙に近い高校」が挑む、教科横断型STEAM

特設サイト より

大分県立国東高等学校「SPACEコース」(大分県国東市/2024年新設)

 公式サイト / 特設サイト

大分県国東市にある県立の総合型高校が、2024年度から普通科に「SPACEコース」を新設しました。同校が掲げるキャッチフレーズは「日本で最も宇宙に近い高校」。大分空港がアジア初の水平型宇宙港(スペースポート)となる計画が進む国東半島に立地しており、この地域ならではの文脈を活かしたSTEAMプログラムが展開されています。

カリキュラムの軸となっているのがオリジナルSTEAM探究プログラムです。宇宙という視点から地球・地域の課題解決を考える探究学習で、1年次には全科・全コースの生徒が履修します。SPACEコースに進んだ生徒は、2・3年次に「SPACE探究」としてさらに深化した学びに取り組み、人工衛星データの活用や英国コーンウォール州の学校との国際共同探究なども計画されています。

特に注目したいのは、「宇宙」というテーマが普通科だけでなく専門科にも横断的に広がっている点です。総合選択科目「SPACE Science」として、普通科ビジネスITコースの「宇宙観光商品化」、園芸ビジネス科の「宇宙栽培植物」、環境土木科の「Space土木」、電子工業科の「宇宙技術開発」といった科目が設けられ、生徒はそれぞれの学科の特性を活かしながら宇宙関連の学びを選択できます。STEAM教育が掲げる「教科横断」を、一つのテーマで制度として実装した好例と言えるでしょう。

さらに、同校は全国から生徒を募集しており、県営の寮「夢道寮」や国東市が運営する無料塾「夢道塾」など、遠方からの進学を支える環境も整備されています。地域の宇宙産業というリアルなアセットと教育を接続させたこの取り組みは、地域資源を起点としたSTEAMカリキュラムの設計例として、他の地域にもヒントを与えるものではないでしょうか。

「科学の街」の研究資源を学びに接続する──工科高校からの転換

公式サイトより

茨城県立つくばサイエンス高等学校(茨城県つくば市/2023年開校・2025年普通科新設)

日本最大級の研究学園都市・つくば市に誕生した県立高校です。旧・つくば工科高等学校の4学科を統合した「科学技術科」1学科の学校として2023年に開校し、2025年度にはSTEAM教育や文理融合型カリキュラムを導入した普通科を新設。現在は科学技術科(3学級)と普通科(3学級)の2学科体制で運営されています。

科学技術科では、ロボット・情報・建築・化学生物の4領域から専門分野を選択でき、大学や研究機関との連携による「科学国際セミナー」なども実施されています。各領域にはサイエンスアドバイザー(計8名)が委嘱されており、専門的な助言を受けながら課題研究に取り組める体制が整っています。

新設された普通科も特徴的です。文理融合型の選択科目に加え、データサイエンスを活用した「理数探究」を設けるなど、従来の文系・理系の枠にとらわれない学びが展開されています。DXハイスクールにも指定されており、電子顕微鏡や分析機器など大学研究室レベルの設備環境が、普通科の生徒にも開放されています。

注目すべきは、この学校が「つくば」という立地の強みを最大限に活かしている点です。つくば市には産業技術総合研究所(産総研)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、国土地理院、農研機構など150以上の研究機関が集積しています。つくば市では「つくばSTEAMコンパス」というプラットフォームを通じて、こうした研究機関の研究者と学校教育をつなぐ取り組みが展開されており、つくばサイエンス高校もこうした地域の科学教育エコシステムの中に位置づけられています。

工科高校からの改編という経緯は、全国で進む専門高校の再編にも示唆を与えます。専門的な設備や技術教育の蓄積を活かしつつ、普通科の新設やSTEAM教育の導入によって、より幅広い生徒層にリーチする──こうしたアプローチは、同様の課題を抱える自治体にとって一つの参考になるのではないでしょうか。

▶ つくば市のSTEAM教育の取り組みについては、STEAM JAPANでもレポートしています:つくば市「つくばSTEAMコンパス」2025年度実施レポート

⑥「予定調和を超える」ための空間設計──STEAM棟が生む学びの循環

ドルトン東京学園 中等部・高等部「STEAM Center」(東京都調布市/2022年竣工) 公式サイト

2019年に開校した、学校法人河合塾学園が運営する中高一貫校。米国発祥の学習者中心の教育メソッド「ドルトンプラン」を日本で導入した学校として知られています。2022年6月、校内にSTEAM教育に特化した施設「STEAM Center(STEAM棟)」が完成しました。

この施設が興味深いのは、学びのプロセスそのものが空間設計に反映されている点です。1階の「クラフト・ラボラトリー」ではプロトタイピングやハンズオンの実験が行われ、2階の「ラーニングコモンズ」では学びの設計・探究・発表を支える場が広がり、3階の「サイエンス・ラボラトリー」では高度な研究に取り組むことができます。「つくる→学ぶ→深める」という循環が、建物の構造として可視化されているのです。

注目すべきは、3Dプリンターや電子顕微鏡といった高度な機器が、特別な許可なしに生徒が自由に使える点です。さらに、特定の機器の使い方をマスターした生徒が他の生徒に教える仕組みも導入されており、生徒同士の学び合いが自然に生まれる設計になっています。

安居長敏校長はSTEAM JAPAN編集部の取材に対し、「本来の探究とは、型にはまらず、正解のない問いに向き合うこと」と語っています。STEAM棟の建設にあたっては各教科の教員に「今の環境で足りないものは何か」を徹底的にヒアリングし、約2年をかけて理想の学びの環境を議論した上で設計されました。完成後も机の配置や設備は使用状況に応じて柔軟に変更されており、「学びの場自体がつねにアップデートされ続ける」という考え方が貫かれています。

「何を教えるか」だけでなく、「どのような環境で学ぶか」が教育の質を左右する──STEAM棟の実践は、学校施設の在り方を考える上でも多くの示唆を含んでいます。

▶ STEAM JAPAN編集部による訪問レポートはこちら:予定調和を超えた探究学習へ!ドルトン東京学園STEAM棟で広がる自由な学び

6つの事例が問いかけるもの

6つの事例を俯瞰すると、いくつかの共通テーマが浮かび上がります。

一つは、学校と社会の接続です。神山まるごと高専の起業家ネットワーク、FC今治里山校の地域企業との連携、国東高校のスペースポートという地域アセット、つくばサイエンス高校の研究機関との接続──紹介した学校はいずれも、外部の知見やリソースを取り入れることで、学校の中だけでは完結しない学びの環境を構築しようとしています。

もう一つは、教科横断の実装です。STEAM教育において「教科横断」はしばしば理念として語られますが、それをカリキュラムや制度の中にどう落とし込むかは、多くの現場が悩むポイントです。国東高校が「宇宙」というテーマで普通科・専門科の垣根を越えた学びを展開している事例や、ドルトン東京学園がSTEAM棟という物理的な空間で教科の壁を溶かしている事例、つくばサイエンス高校が工科高校の専門設備を普通科にも開放しながら文理融合型のカリキュラムを構築している事例は、異なるアプローチで同じ課題に向き合っています。

そして、評価と学びの設計。FC今治里山校の定期テスト廃止、神山まるごと高専の「βメンタリティ」、ドルトン東京学園の「生徒が生徒に教える」仕組み──いずれも、「正解を効率よく覚える」ことを前提とした旧来の学びの設計から距離を取り、試行錯誤や主体性を重視する方向へと舵を切っています。

さらに、専門高校の再編と進化という視点も見逃せません。つくばサイエンス高校が工科高校から科学技術科+普通科への転換を図ったように、既存の専門高校の蓄積を活かしながらSTEAM教育へと進化させるアプローチは、全国の専門高校が今後直面するテーマでもあります。

生成AIの急速な普及により、知識の習得そのものの意味が問い直されている2026年現在、学校に求められる役割は「知識のインプット」から「社会に対する問いの創出」へと移りつつあるように見えます。今回紹介した学校の取り組みが今後どのような成果を生み出していくのか、STEAM JAPAN編集部では引き続き注目していきたいと思います。


STEAM JAPANでは、探究・STEAM教育・PBLに関するプログラム設計、カリキュラム開発及び企画運営、伴走支援等を行っています。「自分たちの地域・学校でも取り組んでみたい」とお考えの自治体・学校関係者は、お気軽にご相談ください。

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出典・参考

本記事は、各学校・機関の公式サイト、プレスリリース、および関連報道に基づき、STEAM JAPAN編集部が構成したものです。

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