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STEAM JAPAN AWARD 2026の審査結果が発表されました。今回は、受賞プロジェクトの中から日産財団賞を受賞した取り組みをご紹介します。
「STEAM JAPAN AWARD 2026」において【日産財団賞】を受賞したのは、豊田工業高等専門学校のロボコン経験者5名で結成されたチーム「Kanro AI」です。
彼らが開発したのは、下水道管点検ロボット「Pipe Eye」。AIとLiDARを使って、人の入れない管の中を無人で点検するという挑戦です。日本の地下に広がる「老朽化したインフラ」という見過ごされがちな課題に、身近な気づきから出発し、自治体や専門企業との連携にまで踏み込んだ点が高く評価されました。
今回は、チームのメンバーと、STEAM JAPAN AWARDを協賛する公益財団法人日産財団の坂元さん・中村さんが参加しオンラインでインタビューを実施。プロジェクトの背景や開発の手応え、今後の展望についてお話を伺いました。

チームKanro AI:
とても驚きました。社会課題を解決するという点を評価していただけて、とても嬉しく思っています。ありがとうございます。
「Pipe Eye」は、下水道管を自動で点検するロボットです。日本にはおよそ50万kmの下水道管がありますが、そのうち約9割は人が入ることのできない管です。Pipe Eyeはカメラとセンサーを搭載して管内を走行し、画像を認識しながら異常を自動で検知します。対象としているのは5年に一度の定期点検で、AIが自動でレポートまで作成してくれるので、それを提出するだけで点検が完結する。人手のかかる作業を、短時間で一貫して行えるのが特徴です。
チームは豊田高専のロボコン経験者5名で構成されています。5年生の先輩がチームリーダーを務め、その後輩にあたる4年生のメンバーが集まりました。プログラミングやAI、組み込み系のプログラム、筐体のCAD設計、回路設計と、それぞれが専門の役割を担い、ロボコンで培った技術をこのロボットに持ち寄っています。

チームKanro AI:
きっかけは身近なところにありました。チームリーダーの家の近くに浄水場があり、日頃から関心を持っていたんです。
下水道について調べると、現状の深刻さが見えてきました。豊田市上下水道局の協力のもとヒアリングをすると、老朽管は全国ですでに4万キロ。20年後には4割が寿命を迎えます。更に、日本の下水道管の9割は細い管であり、人が入って点検することはできません。実際の点検現場では、作業員が狭い車内に1日8時間も閉じこもり、小型ロボットを手動で操作。さらに、現場を支える技術者の半数以上が50代を超えている状況でした。
ベテランの『勘と経験』による点検は、もう限界が来ていることを、知り、「これは自分たちがロボコンで培った技術で解決できるはずだ」と確信したんです。
さらに、昨年、埼玉県八潮市で起きた道路の陥没事故のニュースを見て、下水道管の点検という課題が、日本全体の社会課題の解決につながると感じ、「これを自分たちの技術で何とかしたい」という思いで開発を始めました。

チームKanro AI:
技術面での強みは3つあります。
一つ目は、LiDARによる完全自動走行です。管の中心を通って自己位置推定を行いながら自動で点検します。また、複数台を同時稼働させることで何倍ものスピードで点検が可能です。
二つ目は、AIによるリアルタイム異常検知です。広角カメラで管内を撮影しながら、AIが異常を走行中に自動で検出。発見すると速度を落とし、より精密なデータを取得します。
三つ目は、データの一括デジタル管理です。AIの異常判定の確認を行うだけで、ワンクリックで報告書が作成できます。また、アプリにより点検映像・AI判定結果・異常写真を一括管理。地図上にまとめることができます。蓄積したデータは将来、劣化予測にも活用できます。さらに従来一カ月かかっていた報告がワンクリックで可能になります
これによって、人手を6人から2人にすることができます。点検量を3倍にすることで、コストの削減と効率化により点検コストを80%削減できます。
チームKanro AI:
これは高専という環境を生かせた部分です。豊田高専には環境都市工学科があり、その先生が豊田市の上下水道の方と関係性を持っていました。そこで、その先生にお願いして、連携を依頼させていただいたんです。
実証実験は、実際に豊田市で行わせていただきました。その場で下水道管の点検業者の方ともお話しでき、実際にロボットを動かしてもらったところ、とても評判が良く、「今すぐ導入してみたい」という声までいただけました。あのときは大きな達成感がありました。
チームKanro AI:
ロボットを一度、まるごと作り直したことです。実証実験を重ねる中で、走行しながらリアルタイムにカメラ映像からひび割れを認識するには、もっと改良すべき点があると分かりました。そのためには設計を見直して二号機をつくる必要がある――そう気づいて、急ピッチで作り直しました。短い期間でしたが、作っては試し、また直すというサイクルを回せたことが、大きな発見につながったと思います。
日産財団・中村さん:
私は、この技術がとても好きなんです。実は私自身、かつて路面下の空洞――陥没の予兆をどう見つけ出すか、というスクリーニングの研究開発に携わっていたことがあります。しかも、八潮の陥没事故が起きた場所は、私が社会人になりたての頃に立ち寄ったことのある一帯で、勝手にご縁を感じてしまいました。当時、自分の研究してきた技術を生かしきれなかった悔しさもあるだけに、学生のみなさんがこの領域に注目し、しかも背景の情報をこれだけ詳細に調べ上げてくれたことに、大きなインパクトを感じました。
決め手は、自動で点検し、情報を返し、解析まで自動で行うという、「人の手間を省く」という目的に、技術がよく合っている点です。「やりたい」という思いを、きちんと技術に落とし込めている。その姿勢がとてもいいと思いました。
日産財団・坂元さん:
もう一つ素晴らしいと思ったのは、一人ではなかなかできない技術を、きちんと寄せ集められている点です。水道管理企業、上下水道局のような組織が興味を示して協力してくれる関係になったのは、課題設定がしっかりしているからこそだと思います。
しかも、その連携を、先生を介してつくっていった。これはとても大事なことです。同じ話でも、誰が言うかによって、受け止める側の価値はまったく変わります。何でも自分でやろうとせず、周りの人をうまく巻き込んでいく。そうやって仲間が芋づる式に増えていく力は、社会に出てからもきっと役に立つはずです。

チームKanro AI:
高専は、ものづくりにとってとても良い環境だと思っています。受験勉強に追われることが基本的にないので、ロボコンなど、一つのことに打ち込める時間がとても大きいんです。それに、回路に詳しい人やAIに詳しい人など、周りに詳しい人がたくさんいて、その人たちから刺激を受けられる。だから「やってみたい」という気持ちが自然と生まれてきます。環境だけでなく、周りの人たちからの刺激も含めて、今があるのだと感じています。
日産財団・中村さん:
新しいものを世の中に実装していくうえで大切なのは、いかに応援者を集めるかだと思います。応援にはいろいろな形があって、一番分かりやすいのはお金ですが、それだけではありません。人と人とのつながり、ネットワークがとても大事なんです。技術を極めるのと同じくらい、そこも極めていけると、夢に近づいていける。AIの時代だからこそ、人とのつながりが効いてくるのだと思います。
チームKanro AI:
こういうコンテストに出る機会があれば、もう絶対に挑戦するべきだと思います。参加することで、いろいろな社会課題が見えてきますし、技術力のある人がコンテストに出ることで、見える世界がぐっと広がる。今回、参加して本当にそう感じました。中学生のみなさんには、ぜひ高専に来て、いろいろなコンテストに出て、社会の役に立つものを作ってほしいと思っています。
地下に静かに広がる「老朽化」という見えにくい課題に、身近な気づきから目を向け、ロボコンで培った技術を持ち寄って形にする。さらに先生を介して企業や自治体を巻き込み、現場で検証するところまで踏み込んだ姿は、STEAM JAPAN AWARDが応援してきた「社会とつながる学び」の確かな広がりを感じさせます。
身近な気づきが、地域、そして社会全体の課題解決へとつながっていく。問いを立て、自分たちの力でコラボレーションを行い解決の実践をしていく皆さんを、STEAM JAPAN AWARDは引き続き応援していきます。次回以降のSTEAM JAPAN AWARDも、ぜひご期待ください。
関連リンク:
・STEAM JAPAN AWARD 2026 受賞作品はこちら
・公益財団法人 日産財団:https://www.nissan-zaidan.or.jp/