2026.08.07│STEAMレポート

【日産財団理科教育成果発表会2026】これからの理科教育を映す、受賞4校の挑戦

2026年7月31日、東京・大手町のサンケイプラザで、公益財団法人日産財団による「2026年度 日産財団理科教育成果発表会」が開かれました。理科教育に取り組む学校を支援する「理科教育賞」の大賞候補4校が、それぞれの実践を発表する場です。

2026年度の選考対象は、2025年度に理科教育助成を受けた全国34校。選考委員会はそのなかから4校を大賞候補として選び、この日の発表と質疑を経て、大賞と優秀賞を決定しました。

久村理事長はあいさつで、財団の役割は助成金を出すことにとどまらないと述べ、「優れた実践や成果を広く共有し、次の学びや新しい挑戦につなげていく」ことに意義があると強調しました。昨年度から「贈呈式」を「成果発表会」へと名称を改めたのも、その考えに基づくものです。

4校の発表に通底していたのは、身近な制約や環境を探究の入り口へと変える発想でした。理科を教科書のなかで完結させず、地域や社会、子どもの生活へとつなぎ直す——そのための工夫が、それぞれのかたちで語られました。

バラ100品種・200株を無農薬で育てる 理科の学びを「まちづくり」へ

「持続可能なバラ栽培とまちづくりへの参画」について発表する伊奈町立小針北小学校の阿久津教諭(提供:公益財団法人日産財団)

埼玉県の伊奈町立小針北小学校(発表者:阿久津教諭)は、「持続可能なバラ栽培とまちづくりへの参画」をテーマに、無農薬・循環型のバラ栽培と3Dプリンターを組み合わせたSTEAM教育(科学・技術・工学・芸術・数学を横断する学び)に取り組んできました。校内で育てるバラは100品種・200株にのぼります。

当初は、薬剤散布や剪定など失敗が許されない作業を教員が担い、子どもの体験が観察にとどまっていました。そこで、課題の発見と検証を重ねる学習と、STEAMの視点から価値を創造する学習の2つを柱に、児童主体の探究へと転換します。助成金で3Dプリンターや微生物培養設備などを整え、校内の雑草と米ぬかから堆肥を自作したり、納豆菌・乳酸菌の培養液で無農薬の病気予防を行ったりと、理科の見方・考え方を実生活の課題解決に生かしていきました。3Dプリンターで制作した鉢などを「小針北小バラまつり」で販売し、約1,000人が来場、売上は約19万円に達しました。

質疑で「教師主導から児童主体へ、どうバランスが変わったか」と問われると、阿久津教諭は、株数が増えて「少し失敗しても大丈夫」という状況が生まれ、地域や保護者、卒業生の応援体制が整ったことで、子どもに委ねられるようになったと答えました。

理科室が3年間使えない制約から生まれた「マイクロスケール実験」

普通教室でのマイクロスケール実験の実践を発表する鶯谷中学高等学校の甘利教諭(提供:公益財団法人日産財団)

岐阜市の鶯谷中学高等学校(発表者:甘利教諭)は、校舎の建て替えで理科実験室を約3年間確保できない状況に直面しました。実験を諦めようという声も上がるなか着目したのが、ごく少量の試薬と小さな器具で行う「マイクロスケール実験(マイクロスケール・ケミストリー)」です。普通教室でも実験ができるうえ、短時間・少人数で一人ひとりが手を動かせるため、生徒の集中と参加が高まりました。硫化水素の性質を問う定期テストで正答率100%を記録するなど、学習効果もうかがえます。効果は教員間や他教科にも波及し、英語科と連携した授業も生まれました。

甘利教諭は、通常の実験を「一部の生徒にとっては花火大会のようなもの」——雰囲気を楽しむだけで自分ごとになっていない——と表現し、マイクロスケール実験を「線香花火のようなもの」と語ります。「一人ひとりが自分の花火を持ち、最初から最後まで丁寧に観察をし、その小さな火のなかに感動すら覚えている」。マイクロスケール実験は生徒の心に火を灯すものだと考えていると、甘利教諭は実践を続けていく決意を語りました。

「何を調べているのか」を見失わせない——思考をフローチャートで可視化

デジタルツールによる思考の可視化について発表する高槻市立奥坂小学校の諏訪教諭(提供:公益財団法人日産財団)

大阪府の高槻市立奥坂小学校(発表者:諏訪教諭)は、「論理的思考力を育む理科教育」として、実験の手順や思考の過程をデジタルツールで可視化する実践を発表しました。手順が増えると子どもは作業に追われ「今、何を調べているのか」を見失う——その課題意識が出発点です。

プログラマー出身の諏訪教諭は、「どんな複雑な仕事も、イエス・ノーの積み重ねで書ける」という発想を授業に持ち込みました。カップうどんの作り方をフローチャート化する導入から始め、子どもたちは実験計画を自分で最適化していきます。5・6年生7クラス220名を対象としたアンケートでは、「友達の考えが理解しやすくなった」に90.6%が肯定的に回答しました。特別支援学級の6年生は「去年は実験をしていても、何をしているのかわからなかった。今は意味がわかるから実験が楽しい」と話したといいます。一方で、「なぜその手順が必要か」を自分の言葉で説明する力には次の課題が残ると、率直に語りました。

学校まるごと「生き物ミュージアム」で原体験から主体性を育てる

「生き物ミュージアム」の取り組みを発表する奈良市立平城西小学校の春日教諭(提供:公益財団法人日産財団)

奈良市立平城西小学校(発表者:春日教諭、校長:西口)は、「原体験を重点に置いた理科・生活科教育」として、学校全体を生き物とふれあえる環境に整える実践を発表しました。研究の出発点は、見つけたクワガタの世話をしようと石を探しに行き、見つからずに戻ってきた1年生の姿だったといいます。

活動は「出会う・関わる・調べる・広げる」の4段階で展開されました。昆虫が苦手な子には無理強いせず、休み時間に好きな子が観察を始める様子を周りが見て、少しずつ自分から触れるようになる——そんな「日常」づくりを重ねます。ビオトープを自由に遊べる場所にする提案が安全上の理由でいったん却下されると、児童が危険箇所を調査し、改善策を示して実現にこぎつけた場面もありました。質問調査では、生き物への興味だけでなく「自分たちで環境をより良くしたい」という主体的な願いが育っていることが確認されたといいます。

大賞は伊奈町立小針北小学校!地域と社会につないだ探究を評価

大賞を受賞した伊奈町立小針北小学校の表彰の様子(提供:公益財団法人日産財団)

大賞候補4校による成果発表終了後、選考委員会にて大賞を伊奈町立小針北小学校に選定。選考委員長は、(1) 校内にとどまらず地域を巻き込んだ活動であること、(2) 社会課題の解決に取り組んでいること、(3) 単なる栽培にとどまらず3Dプリンターの活用など多面的であること、(4) 単年度で終わらせず継続を見据えていること、の4点を評価に挙げました。大賞には賞状・トロフィーと副賞100万円、優秀賞の3校(鶯谷中学高等学校、高槻市立奥坂小学校、奈良市立平城西小学校)には副賞各50万円が贈られました。

大賞を受賞した阿久津教諭は、「子どもたちはSTEAM教育を目的とするのではなく、手段として使い、自分たちの目標を達成するために努力してきました」とあいさつしました。

4校の実践は、身近な制約や環境を出発点に、子どもが自ら問いを立て、試行錯誤し、その学びを教室の外へと広げていく点で共通していました。理科の知識を「使える力」へと橋渡しするこうした取り組みは、これからの探究学習やSTEAM教育が目指すかたちなのかもしれません。

本記事で紹介した4校は、いずれも日産財団の「理科教育助成」を受けた実践です。2027年度の募集はすでにスタートし、今年からは「課外活動」「地域・社会活動」の部門も加わりました。「次はうちの学校でも」と感じた先生は、ぜひ募集要項をご覧ください。


▶ 関連記事:日産財団「理科教育助成」2027年度の募集がスタート! 「課外活動」「地域・社会活動」へ対象を拡大