『山田進太郎D&I財団 STEM(理系)高校生女子奨学金』立ち上げへの想い

今夏、メルカリCEO山田進太郎氏が、STEM女子高校生へ奨学金を行うため新たな財団を立ち上げたと発表されました。その奨学金対象者の選出はなんと「抽選」であるそう。財団を共に立ち上げ、STEM(理系)女子の支援に取り組むことになった経緯について、メルカリの共同創業者でもある富島 寛氏にお話をお伺いしました。

富島寛氏 プロフィール

早稲田大学卒業。
2013年に共同創業者としてメルカリを設立。2016年にはUS展開のためサンフランシスコに移住。 その後東京に戻り、2019年退社。

メルカリCEOの山田進太郎さんとの関係性や財団・立ち上げへの想いをお聞かせください

2013年にメルカリCEO山田進太郎と共にメルカリを創業し、その後メルカリのUS展開のためアメリカに渡りサンフランシスコに滞在していました。

アメリカでは、人種や性別に関係なく、エンジニアやデータ分析・AIなどなどの分野で活躍している人々を目の当たりにしていました。日本に帰国して、ちょうど日本のメルカリでも外国人エンジニアの採用が強化されていきました。その後、多くの外国出身の方が加わりかつ活躍していく流れをみていました。一方、メルカリは実際のお客さまが女性の方が多いにもかかわらず、女性のエンジニアがまだまだ少ない……その後、私はメルカリを離れるのですが、そういった現状認識はあったので、山田からこの財団の立ち上げの話を聞いたときは非常にピンときました。

そもそも、メルカリでは女性に限らず、ダイバーシティ&インクルージョンを進めています。その中で「女性のエンジニアを増やす」という取り組みを具体的に行うにあたり、そもそも女性のエンジニア自体が少ない。それであれば、そもそもなりたいと思うような人を増やさなければならず、会社の利益になるかどうかという視点以外の、長期的な取り組みとして取り組むことが必要でした。そこで、山田は「個人の活動」として今回の財団立ち上げをしようと決意し、賛同した私も参画する流れとなりました。

財団立ち上げに賛同した理由は二つあります。
まずは、近年の「新型コロナウイルス」が起こったことがきっかけの一つです。

東日本大震災の時は何もできないことに無力感がありました。今は、その時とは自分の状況が違うので、何か自分にできることをしたいと寄付を始めましたが、自分にはもっと直接的な支援の方が向いているのではないかと感じました。もちろん自分が取り組めるものは限られているので、寄付は寄付としては継続します。 

もう一つの理由は、
実際、日本の経営者層・政治家には男性が多く、女性の社会進出が遅れているというのは既知のとおりです。
ジェンダー問題は、自分の中で課題感は持っていましたが、自分が簡単に取り組める問題でもないようにも思い傍観していました。そこに山田からの話があり、奨学金財団の立ち上げという形で、自分にできそうなやり方でこの社会問題に関わることができるなら、ぜひこの立ち上げに賛同したいと思いました。

(聞き手:STEAM JAPAN編集長 井上祐巳梨)

ジェンダー格差、STEM女子教育推進の課題をどのように考えますか?

多くの社会問題は、その当時は合理的だったにもかかわらず、時代が変化したのに仕組みだけ残ってしまってるようなものだと考えます。
例えば、昔の男性は外で仕事、女性が家の中で家事や子育てをするといった男女の働くべき姿も、その当時は合理的だった可能性が高いです。ですが、様々な技術の進歩や環境、時代の変化によって、女性が働きやすい環境に変わってきました。

以前より男女が同じように社会の中で、活動できる状況になってきていると思います。でも、そこに教育や社会の状況が追いついていないということだと思います

日本全体の中学の成績を見比べると、男女において理系科目での差はありません。にもかかわらず、 OECDの調査では、日本の女子の理系分野への進学は先進国の中でも最も低いという結果が出ています。ここに何か問題があると考えています。

あらゆるダイバーシティの問題にも関わってきますが、自分と似たような人・同じ性別の人を評価しがちであり、自分とは近しくない人々の中には飛び込みづらい、行きづらいという傾向があります。
現在、理系の職業に就く女性や理系に進学する女性が少ないから、この現状を見て理系に進学する女性も少ない。そういうループに入ってしまっていると思います。そんな中で、自分の子どもや担当生徒に理系分野を薦めない親御さんや先生もいるという話も聞きました。

10年前、20年前と比べると進化し、変わってきてはいますが、まだまだ時間がかかると思っています。

女性がその分野に現状少ないから、理系に進もうとする女性も少ない。というこのループをすぐに止めることも難しく、急速な変化を与えるのもなかなか難しい。ですが、女子の理系分野への進学・社会での活躍、選択できる範囲の拡大、視野の拡大に、今回のこの奨学金財団の立ち上げが関わっていければ、嬉しいと思っています。

奨学金は、どんな方を対象としていますか?どんな方に応募してほしいですか?

今回は、2022年4月に高校入学予定で女性であること、日本国内の高等学校理数科、令和3年度スーパーサイエンスハイスクール指定高等学校、または高等専門学校を受験し入学予定(中学校からの内部進学者を除く)の方が対象となっています。初年度ではこうした対象になっています。まだ検討中ですが、来年度以降は対象の幅を広げていければいいなと考えております。

選抜の方法は抽選になります。書類選考もありますが、基本的にちゃんと書いてい不備の有無程度のチェックとなります。

 なぜ抽選なのか。狙いとしては、
・誰でも好きなことに挑戦できる状況を増やしたい。
・優秀な方はもちろんですが、興味のある人に気軽に応募してほしい。
裾野を広げるのが目的です。なので、とにかく気軽に応募してほしいですね。
奨学金の機会を得て、理系に進むという選択肢を現実に考えてくれる人が増えたら嬉しいです。

日本は、国としてどのようにSTEM系女子を応援をしていくのが望ましいと考えますか?

私たち財団の目標は、現在18%という理系への女子学生の進学率を、2035年度までにOECDの平均値である28%まであげたいと思っています。私たちの活動を通して、興味・関心を持つ人を増やして社会的なムーブメントにしたいと考えております。理系女性が少ないということを課題と捉え、政府も含めて国としてもっと積極的に取り組む課題になれば嬉しいです。

思い切った方法では、韓国では、研究者に女性比率(パーセンテージ)を決めて、女性を増やすということをしています。少し強引な感じもあるように感じるかもしれませんが、女性が少ないというループを断ち切るには、このような取り組みも必要なのかもしれないですね。それを今の日本でやるのがいいのかは置いておいても、大胆な取り組みと着実な取り組みの両方が必要だと感じます。

母親が理系出身だったり、中高生の理系科目の先生に女性教師が含まれていると、理系分野への進学率が増える傾向ということもデータとして出ています。環境がその人の選択に大きな影響を与えているということなので、ここに関しては様々な方法を試してみる価値はあると思っています。

財団でも今後クラウドファンディングなども組み合わせて、多くの大人が関わるようにしてムーブメントになればいいと思ってます。単発的ではなく、長期的な取り組みとして様々な方と協力していきながら、ぜひ挑んでいきたいです。

女子学生にメッセージをお願いします

文系にも理系にもそれぞれに良いところがあって、その中でも理系分野・STEM分野は、世界を前に進めたり、人や地球を救うことができたりできる素敵な仕事が多いと思います。社会や世界を、具体的に良い方向に変えられる力がそこにはあります。とても夢のある仕事が多く、素晴らしいことだと思っています。女性がこの分野で少ないことは、ある意味チャンスだと捉えてみるのもいいかもしれません。女性ならではの視点や特性が価値を発揮しやすいとも思います。 

もし、様々な理由でSTEM(理系)分野への進学を躊躇しているのであれば、抽選なので気軽に今回の奨学金に応募してみてほしいですし、応募しなくても、オンラインイベントなど含めて当財団でも違う団体が主催のものでもいいので何か参加してみて、少しでも考える機会を増やして頂ければなと思います。

〜STEAM JAPAN編集部より〜

優しく、力強くそして熱く、これからの女子学生に様々な可能性を広げていくこの財団の立ち上げへの思いをお話しいただきました。こうした課題に様々な面で、いろんなところからアプローチをし ていく、そしてそのウェーブを広げていくというのは非常に重要なことであるとお話を伺っていても感じました!

こちら、週末には女子中学生向けのオンラインイベントがあり、さまざまな女性たちのロールモデルの 話を無料で聞くことができます。(*要登録)
そして、奨学金の応募は9月末まで!
興味のある方はこちらのサイトをご覧ください。

これがキッカケで、世界を救うような女子がこの国から誕生するかもしれません。

参考サイト

オンラインイベント情報 : https://www.shinfdn.org/posts/event20210822

財団のHP : https://www.shinfdn.org 

財団やイベントの関連サイト : https://drive.media/posts/30986