マネックスグループ 松本社長特別インタビュー 『創造的・論理的に考える力を養う教育の場を作りたい』

近年、注目を集めるSTEAM教育事業に参入されたマネックスグループの松本社長に、なぜ金融事業に新たに教育事業を加えられたのか、現在の教育についてのお話を伺いました。

ーSTEAM教育事業に参入されたキッカケや経緯についてー

 きっかけは、2つあります。1つは2020年の2月に、当社毎年恒例のお客様感謝Dayで、一人のご高齢のご婦人に会い、自叙伝をいただいたことです。約2000人のお客様が帰宅されるのを見届け、ご挨拶を終えて、退場しようと螺旋階段を上がっていくと、一人のご婦人が待っていました。マネックス証券で運用したお金で、ご自身の生きてきた証にと自伝を作り自費出版できたと1冊をくださいました。本の内容に、私への感謝の言葉も入っていました。

 こちらを拝読させていただくと非常に心にくるものがありました。私達のサービスはお客様の資産を増やすことが目的ではなく、「増やした資産でお客様がしたい(自己実現)ことを助けている(サポートしている)」のだと気づきました。仕事冥利に尽きますね。その後、昨年の4月に当社の企業理念を書き換え、「未来の金融」に加えてお客様の「生涯バランスシートを最良化する」ことを目指すことを新たな挑戦として掲げました。資産を増やすだけでなく、その人のやりたいことを含めて人生全体が最良化するようサポートしていく。例えば、健康であることは、無駄な時間やお金を使わないことであり、バランスシートの最良化に含まれます。

 きっかけの2つ目は、大人になる前に論理的な考え方ができるようになることは、より良いお金の使い方を知ることができたり、より良い仕事に出会えることに繋がるのではないかと感じることです。生涯バランスシートを良くしようと思うと、そもそもロジカルに考えることができるようにすることが大切なのではないかと思ったんです。ちょうど前述の2020年頃に参加していた『選択する未来2.0』でもSTEAM教育に注目したこともあり、これはもしかすると、非常に重要な点なのではと思ったわけです。

―松本さんご自身の(いま振り返ると)STEAM教育だったなと思われている体験や、いわゆる学校の『公教育』に対して感じていらっしゃったことを教えてくださいー

 先ほど申し上げた経緯の中、株式会社ヴィリング(編集部注釈:STEMON運営事業社)の中村氏に出会いました。
中村氏と多くの議題に関して話をした中で、私が自然と幼少期から行なっていたことが、STEAM教育と通じるものがあるということに気づきました。それは、小学生の頃から、扇風機や時計、電子ラジオや自転車まで、様々なものを分解しては一から組み立てることを繰り返していました。戻せるものもあれば戻せないものもありましたが、そこで、自然とさまざまな仕組みを学べたと思います。

 また、両親が出版社出身で家中に本が溢れていて、家の天井まで、とにかくたくさん本があるんです。その中でも、幼少期の私は、本棚の下の手が届く段に置いてあるルビつきの本を読んでいました。小説だけでなく、園芸や美術に関する本などたくさんの分野の本がありました。それらを読んで、なるほど、イチゴはこうやって栽培するのか、などいろんな分野に触れることができ、そして想像することができました。こうしたことも、論理的・創造的に考えることと繋がっていったと思います。

 ちなみに、両親から特段よく言われていた言葉などはあまりないのですが、5歳くらいの時に、父親から言われたことで、多大な影響を受けたことが1つあります。当時、何かで怒られた時に「先生が言ったから。」と父親に言ったんです。そうすると烈火の如く怒り始め、「お前は、先生がやれって言ったら、どんな悪いことでもやるというのか!」と言うのです。あまりの父の怒りに触れ、幼な心に「先生や誰かの言うことが全てなのではなくて、言われたことに対して自分で考えなければいけない・自分で責任を持たなくてはならない」と感じました。自己責任や自己判断の重要性を強烈に植え付けられた出来事でした。まさに、これらの「自分で考えて、自分で行動すること」というのは、STEAM教育のキーポイントにも繋がっている部分かと思います。

―これからの時代、どのような人材が必要と思われているか。また、松本さんご自身が、どのような人材と一緒に働きたいか等教えてくださいー

 世の中にはいろんな人材がいて、社会の発展にはそのいろんな人材が必要だと思います。STEAM教育で伸びる子もいれば、そうでない子もいると思います。STEAM教育が向いている子は少なからず一定数いると考えていて、そういう子どもたちに提供していきたいと考えています。仕事をしていて思うのが、論理的に考えられる人が意外と少ないということです。課題を見つけたら、感情的でなく、論理的に考えられる力を持っている人材が増えてほしいので、論理的に考えられる力、自分で考えて解決まで創造する力を養う教育の場を作っていきたいと思います。

 2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の行動経済学によれば、証券業界で働く合理的に物事を決めていそうなトレーダーであっても6〜7割の人間は感情で判断し動いているのだそうです。それだけ、ロジカルな考え方ができる人は少なくて、だからこそ論理的に考えられる人は社会的にとても大事な芯であり、個人的には1つのツールとしてその人の大きな武器になると思います。ロジカルに考えることもできる子どもや人材がもっと増えても良いと考えています。

―受験に関係ないからという理由で学校の授業以外のこと(自分のやりたいことやアウトリーチ活動など)を親に止められたといった子たちも実際にいます。こうした未来あるSTEAM人材に、松本さんだったらどのような言葉をかけたいと思いますか?―

 最終的な人生はあなた自身のもの、先生も親も最終的には人生の責任を取ってくれないので、自分自身で考えるしかないですよ、と声掛けしたいですね。

私の場合は、小学校の終わりぐらいの頃には、放任となりました。親からは、「あなたの人生だから」と。それはすごく大切なことで、自分で考えるしかないと気づかされました。

 親や先生は、自分たちの枠にはめ込もうとしすぎている傾向にありますよね。子どもの意見や人生の邪魔をしないであげて欲しいですね。

私自身の学生時代はどうだったかというと、最悪な生徒だったと思います。小学生5年生では立たされてばかりで、大学の授業もほとんど出ませんでした(笑)。そんな中でも、知的欲求や知的好奇心はあったので、私なりに独学で勉強していました。

私みたいな子どもは、現在の日本社会にももちろんいると思いますし、教えるとか叩き込むような手法の教育方法ではなくて、本人が吸収できる環境を用意することが大切だと思います。

ー最後にー

 私には夢があります。学習用のインターネット総ルビ図書館を作りたい。様々な分野の多くの方に協力をいただかないといけないですが、ルビを振ったいろんな本が、そこには溢れている。そんなインターネット空間です。

 天才と言われるような子は、ほっといても一人で本を読みます。海外では、アルファベット26文字が読めたら、年齢は関係なく、いくらでも様々な文献を読むことができます。しかし、日本の天才児たちは「漢字」が読めないと、本を読むことができません。そのため、総ルビのある本ばかりの図書館を作ることを考えています。

これによって、子どもたちが幼い時から、自然とさまざまな本に触れることができて、知識や興味の幅が広がるだけではなく、自分なりに論理的に考えて、解決へと導く創造力を育むことに繋がると願っています。私自身も、手の届く場所にルビのあるいろんな分野の本があって、想像力と創造力を膨らませてきました。

ぜひ、そういう環境を未来の子どもたちのために作りたいです。