2022年6月に誕生した東京にあるドルトン東京学園中等部・高等部のSTEAM棟。日本全国でも珍しい、STEAM教育に特化しSTEAM Center(STEAM棟)と名付けられたこの建物は、学校での学びにどのような影響をもたらしているのでしょうか?今回は、STEAM JAPAN編集部が実際に学校を訪問し、ドルトン学園の安居校長先生にご案内いただきながら、その特徴について詳しくお話を伺いました!
安居校長:まず初めに、ドルトン学園のSTEAM棟は、学びの探究を支えるために、機能的な構造を持っているのが特徴です。1階は「クラフト・ラボラトリー」として、ものづくりや創造的な活動を行うスペースになっており、プロトタイピングやデザイン、ハンズオンの実験が可能な環境が整っています。3階には「サイエンス・ラボラトリー」が設けられ、最先端の設備を活用しながら、生徒たちは高度な研究や科学的探究に取り組むことができます。2階の「ラーニングコモンズ」は、学習活動の基盤となる場で、学びの設計・探究・発表を支えています。この構造により、生徒は自ら学びをデザインし、探究し、発表するという効果的な学習サイクルを生み出すことができます。
安居校長:STEAM棟では3Dプリンターや電子顕微鏡といった高度な機器が、特別な許可なしに自由に使える環境が整っています。使い方がわからないときは、各教科の先生がフロアを巡回しているため、質問すればサポートが受けられます。こうした環境の中で、生徒たちは試行錯誤を繰り返しながら、実践的なスキルを身につけています。
ユニークな取り組みとして、「実験器具をマスターした生徒が教える役割を担う」仕組みを導入しました。特定の機器の使い方を覚えた生徒は、「私は教えられるよ!」という意味のマグネットを貼り、他の生徒が気軽に質問できるようになっています。この仕組み自体も、もっと上手く活用できるようにQRコードをつけてみたり試行錯誤をしながら改善していってるところです。
安居校長:STEAM棟の建設プロジェクトでは、多くの試行錯誤がありました。各教科の先生たちに「今の環境で足りないものは何か?」を徹底的にヒアリングし、そこから2年ほどかけて、先生たちが自分たちの専門分野において理想の学びの環境を提案し、それを実現するための議論が重ねられて今の形があります。完成してからも進化し続けているのも特徴です。設備や机の配置も、当初の計画通りに固定されるのではなく、実際の使用状況に応じて柔軟に変更されています。
ドルトン学園では、学校の場作りにおいて、「決められた用途や形に縛られない」という考え方が根本にあります。学びの最適な形は常に変化するものであり、それに合わせて環境も調整され続けるのです。足りない部分があれば、リフレクション(振り返り)を行い、改善を繰り返しながら、より良い学びの場へと進化させていく。「これまでこうだったから」という理由で現状維持を選ぶことはありません。一度すべてを見直し、時には大きく方向転換をすることもあります。大事にしているのは、「必要ならゼロから作り直す」という発想です。
安居校長:現在、多くの学校で探究活動が行われています。しかし、「こういう探究をすれば評価される」「このやり方が正解」といった予定調和的な探究が根付いているのも事実です。本来の探究とは、型にはまらず、正解のない問いに向き合うこと。それは、試行錯誤を繰り返しながら、未知の領域に挑戦するプロセスそのものです。しかし、教育の現場では、「大学入試が変わらないから教育も変えられない」「社会の価値観が変わっているようで、本当は変わっていない」といった理由で、従来の学びの枠を超えられない状況が続いています。
私たちが目指しているのは、本質的な学びのあり方を問い直し、「本物の探究学習」を実現すること。 生徒たちが主体的に問いを立て、自由に学び、試行錯誤しながら自らの道を切り拓いていけるような環境をつくることが、これからの教育に求められています。
固定化された学びの枠を超え、生徒が主体的に探究できる環境を提供し続けるドルトン学園東京のSTEAM棟。これからも、生徒たちが問いを立て、自由に学び、未来を切り拓いていくための場として、STEAM棟は進化し続けていきそうです!
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