生成AIが「考える時間」を奪う時代、教育はどう変わるのか—EDIX東京2026 鈴木寛氏講演レポート

2026年5月13日から15日にかけて、東京ビッグサイトで日本最大の教育総合展「第17回 EDIX(教育総合展)東京」が開催されました!EDIXは、学校・教育委員会から企業の研修部門まで、教育に関わるあらゆる関係者が集まる場で、30以上のセミナーと約350社の展示が行われています。

その基調講演に登壇したのが、東京大学公共政策大学院教授・慶應義塾大学特任教授で、元文部科学副大臣の鈴木寛氏。「日本の教育の現状と展望〜新たな学習指導要領の策定に向けて〜」と題した60分の講演は、生成AIの影響から新学習指導要領の方向性まで、多岐にわたるテーマが語られました。

その中でSTEAM JAPAN編集部が特に注目したのは、生成AIが「考える」という行為を代行する時代に、子どもたちの「深い思考」をどう守るのかという問いです。本記事では、この視点を軸に講演の内容をお届けします。

「宿題が成立しない」——100年続いた学びのサイクルが崩れている

「EDIXで毎年講演しているが、今年ほど新しい話がある年はない」——冒頭から、力のこもった言葉で講演は始まりました。

講演で示された「子どもの生活と学びに関する親子調査2025(ベネッセ教育総合研究所・東大社会科学研究所データ)」によれば、日本の高校生の6割、中学生の3割、小学生の1割がすでに日常的に生成AIを使用しています。一方で、教員の授業での生成AI活用率は世界で最も低い水準。子どもたちのほうがはるかに先を行っている現実があります。

中でも深刻なのが「宿題」への影響です。授業で学び、自宅で宿題を通じてじっくり考える——この100年以上続いてきた学びのサイクルが、生成AIによって根本から崩れつつあるというのです。宿題を生成AIに任せる生徒はもう黙殺できないレベルにまで広がっていると語られました。

ここで問われているのは、単に「宿題をどうするか」という話ではありません。子どもたちが頭をフル回転させて集中的に考える機会——すなわち「認知的負荷」がかかる時間——が、急速に失われているという構造的な問題です。

【出典:鈴木寛氏EDIX東京2026  講演スライドp.45「認知的オフロード問題→いかに集中を作るか?」】

AIが肩代わりするのは「作業」だけではない

講演の中で、今回注目したいのが「認知的負荷(cognitive load)」という概念です。記憶、計算、情報の編集、集中的な思考、議論、詳細な観察——これらはすべて脳に負荷がかかる行為です。生成AIは、そのうちのかなりの部分を肩代わりできてしまいます。便利になる一方で、脳が「鍛えられる」機会が減っているということでもあります。

OECDのDigital Education Outlookでも、「汎用的な生成AIツールは学習のために特別に設計されているわけではない」と指摘されています。教育的な設計なしに生成AIを使えば、パフォーマンスは上がっても実質的な学習成果にはつながらない——これはOECDの見解であり、講演でも同じ問題意識が共有されました。

これまでの教育は「授業=内容理解、自宅学習=認知的負荷」という役割分担で成り立っていました。しかし自宅で大人用の生成AIが自由に使える今、家庭学習で認知的負荷をかけること自体が困難になっています。だからこそ、「集中して考える時間」を学校の中でどう再設計するかが、最大の論点になっているのです。

【出典:鈴木寛氏EDIX東京2026講演スライドスライドp.59-60「放課後改革・充実は、授業改革に匹敵するインパクト」】

「対話」と「放課後」——深い思考が生まれる場を再設計する

では、認知的負荷がかかる時間をどう確保するのか。講演で示された方向性の一つは、「対話的な学び」の時間を意識的に増やすことです。教員とのチュートリアルや生徒同士のディスカッションは、自然と頭がフル回転する場面です。一方通行の講義では得られない深い思考が、対話の中で生まれる。だからこそ、授業時間の中で「対話に使える時間」をどう確保するかが重要になります。

もう一つ、見落とされがちな視点として強調されたのが「放課後」の再設計です。講演で紹介されたデータによると、授業時間は年間845時間、放課後の時間は年間834時間。ほぼ同じ規模の時間がありながら、放課後の教育的な設計にはこれまで十分な注意が払われてこなかったといいます。

「『好きを見つけ、得意を伸ばす』主戦場は、放課後にある」という講演スライドに示されたこのメッセージは、STEAM教育の実践を考える上でも示唆に富むもの。授業の中だけでなく、放課後という「余白」の時間にこそ、探究や創造の芽が育つ可能性がある。その時間を、AIに奪われない形でどう守り、豊かにしていくかが問われているのかもしれません。

「哲学」はAIに任せられない

講演の中で印象に残ったのは、慶應義塾大学での公共哲学の授業から紹介されたエピソードでした。

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