2026.07.23│STEAMレポート

名久井農業高校の探究に学ぶ、生徒が自ら動き出す仕組み

青森県立名久井農業高等学校の環境研究班は、STEAM JAPAN AWARDをはじめ数々のコンテストで成果を挙げ続けてきた。生徒数およそ100名という県内でもっとも小さな農業高校で、なぜ生徒たちは自ら動き、学び合い、成果を生み出し続けられるのか。「一人一課題」の研究スタイルや、一年生から研究に加わる「Jr.制度」の背景について、環境研究班顧問の木村亨先生にSTEAM JAPAN編集部がお話を伺いました。

木村 亨(きむら・とおる)先生|青森県立名久井農業高等学校 環境研究班 顧問

2009年に同校へ赴任し、花を育てる「草花班」を経て、2014年より「環境研究班」を率いる。大学では野菜の病気(植物病理)を専攻。STEAM JAPAN AWARDをはじめ、国内外のコンテストで生徒とともに数々の成果を挙げてきた。

県内でいちばん小さな、農業高校

STEAM JAPAN編集部: まずは、名久井農業高校と木村先生ご自身について教えてください。

木村先生: うちの学校は青森県の太平洋側、八戸市の隣にある南部町にあります。青森県内の農業高校は、昔は七校ほどありましたが、子どもの数が減って、今は四校。そのうちの一つです。生徒数は100名ちょっとで、県内でいちばん小さな学校です。各学年二クラスの少人数ですが、緑が豊かでとてもきれいな環境ですよ。学科は生物生産科と環境システム科の二つで、私は環境システム科に所属しています。

青森県立名久井農業高校

STEAM JAPAN編集部: 環境システム科は、どのような特色を持つ学科なのでしょうか。

木村先生: 農業と工業を組み合わせているのが特徴です。授業の半分は、電気や配管といった本当の工業の内容で、工業の先生が教えています。もう半分が、私たちのような栽培に関わる分野です。農業科の教員は学校全体で10人ほど、環境システム科には工業と栽培の先生が合わせて5〜7人いますね。もう一つの生物生産科のほうは、野菜や果樹、加工など「食べ物を栽培して加工する」ことが中心です。農業高校ですから、やはり食料生産が基本にあります。

STEAM JAPAN編集部: 地域との関わりも深いのでしょうか。

木村先生: はい、もう昔からのパイプがあります。町の役場から農家の方まで、連携のネットワークができあがっていて、「こういう品種を作ってほしい」「これをどう活かせるか」といった相談をお互いにしています。町の特産品を学校がアイデアから形にして、ふるさと納税の返礼品になったりもしていますよ。全国の農業高校は、だいたいそういうものだと思います。

草花班から始まった、環境研究班

STEAM JAPAN編集部: 木村先生ご自身は、どのような経緯でこの研究班に関わるようになったのでしょうか。

木村先生: 私は2009年にこの学校へ赴任して、最初は「草花班」を担当していました。花を育てる研究班です。当時の生徒たちと、草花にLEDの光を当ててみるような、当時としては少し変わった研究を6〜7年ほど続けていました。その後、2013年に「環境システム科」という新しい学科が学校にできることになり、私もそちらへ移ることになったんです。草花班という名前は環境システム科には合わないので、2014年に「環境研究班」と名前を改めてスタートしました。研究班としての活動そのものは赴任した頃から続いているので、もう十数年になりますね。

環境研究班の本拠地である温室

STEAM JAPAN編集部: もともとのご専門は何だったのでしょうか。

木村先生: 私は農家の出ではなくて、大学では野菜の病気を勉強していました。ですから、環境のことは最初はまったくわからなかったんです。だからこそ、子どもたちと同じ目線で、一緒に手探りしながら進めてきました。

一人一課題、全部を自分でやる

STEAM JAPAN編集部: 生徒の研究は、どのような形で進めているのでしょうか。

木村先生: 「課題研究」という授業があります。これはどの高校にもある科目ですが、うちは時間数が全国的に見ても多くて、二年生で週に四時間、三年生でも同じだけあります。生徒は二年生になるときに好きな研究班を選んで、二年間かけて自分の好きなテーマに取り組みます。一クラスがだいたい四つの班に分かれていて、自然環境まで含めて扱う環境研究班、養液栽培などに特化した栽培の班、工業の先生と一緒に取り組むものづくりの班、といった分野があります。私が見ているのが環境研究班です。

STEAM JAPAN編集部: 一つの班の中では、グループでテーマに取り組むのでしょうか。

木村先生: 普通はグループで一つのテーマを立てるのですが、うちの班はそれをやめました。三人一組にすると、どうしても一人が代表になって、残りの二人は後ろからついてくるだけになりがちなんです。だから全部分解して、一人につき一つのテーマにしました。自分で研究して、自分でまとめて、自分で発表する。誰かがやってくれる、という状況をなくしたわけです。今年は六人いるので、六つの研究が同時に動いています。もちろん、収穫で手が回らないときなどは「お互いさま」で助け合いますが、基本は一人ひとつです。

無口な生徒を、話せる子に

STEAM JAPAN編集部: 一年生から研究に加わる「Jr.制度」は、どのような発想から生まれたのでしょうか。

木村先生: 実はこれ、研究そのものよりも「もう少し元気に喋れる子どもを育てよう」という意味で始めた制度なんです。このあたりの子は本当におとなしくて、一生懸命考えてはいるのですが、それを口に出すのが苦手なんですね。急に変えるのは無理ですから、一年生のうちから研究したい子を仲間に入れて、一緒に発表したり活動したりしていけば、少しずつ変わっていくのではないか、と。

Jr.制度(先輩による指導)の様子

STEAM JAPAN編集部: 課題研究は二年生からですから、一年生には正規の研究の場がないわけですね。

木村先生: そうなんです。一年生は部活もまだ決まっていない時期ですから、希望する子がいたら私たちの研究室で面倒を見ましょう、と募集したのが始まりです。Jr.は所属する学科を問わず参加できて、一年間かけて研究し、最後にどこかで発表してもらう。その機会は私たちが用意します。毎年、数人が手を挙げてくれて、放課後にまるで部活のように来て活動しています。

STEAM JAPAN編集部: 学年をまたいだ関わりは、意識してつくっているのでしょうか。

木村先生: かなり意識してくっつけています。授業の中では学年が分かれてしまうので、それ以外の場をつくるんです。ポスターセッションの大会に向けては、先輩が放課後に残って後輩に「こういう質問が来るよ」と教えたり、後輩に発表させて先輩が先生役になって質問したり。農業クラブの県大会に三年生が出場するときも、二年生の後輩を同じグループにくっつけます。夏休みには研究とは別に、みんなで集まって遊んだりもしていますよ。私は、先輩後輩の「斜めの関係」が大事だと思っています。先生との縦の関係だと、どうしても相談しづらい。でも兄貴分になら相談しやすいんですよね。

探究は、何十年も前から

STEAM JAPAN編集部: 生徒たちがこれほど主体的に動く土台は、どこにあるのでしょうか。

木村先生: 農業高校では、そもそも「研究して、まとめて、発表する」というのが学びの一つのスタイルなんです。一年生の授業の中に、研究の仕方やまとめ方、発表の仕方を学ぶ科目があります。植物を育てると収穫まで時間がかかるので、一年に一回しか試せない。それを一年、二年、三年と毎年繰り返していく。中学生の頃に、農業高校を出たお兄さんお姉さんから「楽しいよ」と聞いて、最初からやってみたいと入ってくる子も多いんです。

STEAM JAPAN編集部: 「探究」という言葉が広まる以前から、その文化があったのですね。

木村先生: 農業高校の全国の発表会は、今年で77回目になります。戦後からずっと続いていて、県大会、東北大会、全国大会とあります。ですから「探究」と言われるようになっても、私たちは何十年も前からやってきたことなので、特に困ることはありませんでした。昔は評価してもらえる場が年に一回のその大会くらいしかなくて、少しつまらなかった。それがここ数十年でコンクールがたくさん増えてきて、STEAM JAPAN AWARDもその一つです。自分たちの研究がどれくらいのものなのかを試すために、どんどん参加するようになりました。

三年続く受賞と、全国から集まる視線

STEAM JAPAN編集部: 環境研究班(&Jr.)は、STEAM JAPAN AWARDでも三年続けて受賞されています。毎年、新しい研究で応募を続けられるのはなぜでしょうか。

木村先生: 一人ひとつテーマを持っていますし、一つの研究が終わると、その次のものがどんどん出てくるんです。だから毎年、途切れることなく応募できるんですね。

直近3年の受賞作品


FLORA HUNTERS AQUA(STEAM JAPAN AWARD 2023-2024)

2023-2024|Gold賞 水を有効利用するミスト栽培システムの開発(FLORA HUNTERS AQUA)

超音波発生装置でミスト状の水を1日に数回だけ根へ届ける、節水型の栽培システム。複数の野菜での対照実験を通して、水の有効利用と高品質な野菜生産の両立を検証した。

STEAM JAPAN AWARD 2023-2024 受賞者一覧


栽培環境班&Jr.(STEAM JAPAN AWARD 2025)

2025|日産財団賞 霧化分離による水耕栽培廃液の再利用(栽培環境班&Jr.)

世界に広がる水耕栽培の廃液が水質汚染を招く点に着目。霧化分離技術で廃液を水と養液に分け、再利用・資源化の可能性を示した。

STEAM JAPAN AWARD 2025 受賞者一覧


環境研究班&Jr.(STEAM JAPAN AWARD 2026)

2026|アイデア賞 不毛の地を食糧生産地に(環境研究班&Jr.)

栄養分のない砂漠の微細な土を、まったく新しい方法で団粒化することに成功。不毛の地を栽培可能な土壌に変えられることを明らかにした。将来は月の砂の固化など、宇宙分野への応用も視野に入れている。

STEAM JAPAN AWARD 2026 結果発表


STEAM JAPAN編集部: こうして外に挑戦し続けることは、学校そのものへの注目にもつながっているのでしょうか。

木村先生: そうですね。うちは数年前から全国募集をしていて、他県からも入学できます。「自然の中で、のんびり学んでみたい」という子が毎年来てくれるんです。受賞の様子を見て興味を持ってくれるのか、その輪はどんどん広がってきています。

<名久井農業高校の活動の様子>

津波が向けた、環境への目

STEAM JAPAN編集部: 草花を扱っていた研究班が、環境というテーマに深く向き合うようになった転機は、どこにあったのでしょうか。

木村先生: 大きな転機になったのが、2011年の東日本大震災でした。八戸のあたりにも津波が来て、地元の種差海岸に自生していた野生のサクラソウが失われてしまうかもしれない、と。それを当時の子どもたちが「救出したい」と言い出したんです。県立公園でしたから、県庁に許可をもらいに行っても、はじめは「植物を持ち帰ってはいけない」と、なかなか認めてもらえませんでした。でも何度も通ううちに、子どもたちの熱意に県も折れて、種を採る許可が出た。人工授粉して地元の方と一緒に種を採り、翌年に花を咲かせることができました。

種差海岸サクラソウ調査の活動の様子

STEAM JAPAN編集部: その一つの活動が、次の研究へと連鎖していったのですね。

木村先生: そうなんです。全国的に大きな地震でしたから、「サクラソウを救出します」と言うと、全国から手紙も電話も、激励もノウハウもたくさん届きました。大学の先生方からも連絡が来て、いろいろ教わりました。一つ活動すると、そこから次の問題が見えてくる。それに取り組むと、また別の問題が見えてくる。一回やった経験が、次のテーマを生むんですね。

失敗リストは、貴重な財産

STEAM JAPAN編集部: これだけの研究が続くと、テーマの引き継ぎも大切になりそうです。

木村先生: うちの研究は、半分以上が失敗しています。でも、その「失敗したリスト」を全部残しているんです。何十とありますよ。これが私たちの貴重な財産なんです。新しい学年がテーマを決めるとき、私が半日くらいかけて、スライドを使いながら過去の話をします。「これはこうやって失敗した」「これはうまくいった」と、写真も全部残っているので、先輩たちが歩んできた20年近い歴史を時間をかけて説明する。すると子どもたちは「先輩はこれで失敗したけれど、自分ならこうすればうまくいくかもしれない」と、魅力的なテーマを見つけてくるんです。

STEAM JAPAN編集部: 指導者として、生徒と向き合う際に大切にされていることは何でしょうか。

木村先生: 「ダメ」とはほとんど言いません。やってみなければわからないですから。私自身、その先うまくいくかどうかわからないので、子どもたちと同じ目線で「やってみようよ」と一緒に取り組みます。六つのテーマがあれば、六つのゲームを楽しんでいるような感じで、みんなで一喜一憂しています。ただ、テーマ設定を子どもに百パーセント任せてしまうと、知識がないので無茶な方向に行ってしまう。かといって放任もいけない。ある程度こちらが方向づけをして、相談に乗りながらサポートして導いていく。これがすごく大事だと思います。かつて「総合的な学習の時間」が導入されたとき、先生が手を出さずに見ているだけで失敗してしまった。そうならないためにも、先生同士の横のつながりが必要なんですよね。

まずは一歩、扉を叩こう

STEAM JAPAN編集部: AI時代と言われ、先が見通しにくい時代です。生徒たちに身につけてほしいことは何だとお考えですか。

木村先生: そもそも、あまり行動的でなかった生徒のために始めた活動ですから、私はまず「動こうよ」と言っています。座って悩んでいるより、とにかく扉を叩いてみよう、行けばなんとかなる、と。いろんな人とつながればネットワークができて、いいことがどんどん増えていく。これは先生方にも同じです。「難しそう」と思わずにやってみると、意外とそうでもない。全国には同じような活動をしている先生がたくさんいて、仲間になれますから。まずは一歩、動いたほうがいい。

STEAM JAPAN編集部: 研究は、生徒の進路にもつながっていくのでしょうか。

木村先生: テーマを決めるとき、私はまず「一年間の流れ」を先に見せます。研究して、まとめて、最後は外へ出て発表するよ、と。先がわかると安心できるんですね。そして研究を進めるうちに「将来こういうことをやってみたい」というのが見えてくる。推薦入学で大学に進む子もいるので、「これをやりたいなら、どの大学かな」と一緒に調べる。進路指導も含めて、二人三脚でやっています。

木村先生: あまり難しく考えないことだと思います。放任でも丸投げでもなく、方向づけをして、相談に乗って、サポートしながら導いていく。そのためにも、先生同士が横でつながることです。私自身、こうして何度も外に出ていくうちに、同じような先生とたくさん出会えました。「ここで困っている」「そこはどうしている」と相談し合えて、私たちの参考にもなるし、向こうも真似してみようかと思ってくれる。やっぱり人なんですよね。まずは一歩、動いてみてください。

STEAM JAPAN編集部: 最後に、生徒の主体的な活動を後押ししたいと考えている全国の先生方へ、メッセージをお願いします。

木村先生: あまり難しく考えないことだと思います。放任でも丸投げでもなく、方向づけをして、相談に乗って、サポートしながら導いていく。そのためにも、先生同士が横でつながることです。私自身、こうして何度も外に出ていくうちに、同じような先生とたくさん出会えました。「ここで困っている」「そこはどうしている」と相談し合えて、私たちの参考にもなるし、向こうも真似してみようかと思ってくれる。やっぱり人なんですよね。まずは一歩、動いてみてください。