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2026年3月9日から12日にかけて、米テキサス州オースティンで世界最大級の教育カンファレンス「SXSW EDU 2026」が開催されました。SXSW EDUは、K-12から高等教育、EdTech、政策まで、教育に関わるあらゆる分野の実践者・研究者・起業家が一堂に会する場で、今年は1,000を超えるセッションが4日間にわたって展開されました!
今年のプログラムの中でSTEAM JAPAN編集部が注目したのが、イベント2日目に組まれたFeatured Session「Exclusion to Empowerment: Women, Tech, & the Future of Learning(排除から力へ:女性、テクノロジー、そして学びの未来)」です。登壇したのは、女子のSTEAM教育支援で国際的に知られる起業家Roya Mahboob氏(Digital Citizen Fund CEO)と、MIT発スタートアップの元CEOで現在もテック分野で活躍するAlex Wright-Gladstein氏(Sphere CEO)。テクノロジーとジェンダーの交差点で、今何が起きているのかが率直に語られました。
日本でもSTEAM分野における女性比率の低さは長く課題とされてきましたが、生成AIが急速に普及する今、この問題はさらに新しい局面を迎えています。本記事では、同セッションで語られた内容をもとに、STEAM教育の観点からこのテーマを考えます。
セッションの前半では、Mahboob氏がSTEM(STEAM)分野におけるジェンダーギャップの現状を、具体的なデータとともに示しました。UNESCOの調査(2024年GEM Report)によれば、世界のSTEAM分野の卒業生に占める女性の割合は35%。この数字は過去10年間ほとんど改善していません。さらにAI分野に目を向けると状況は一段と厳しく、AI労働力に占める女性は22%、AI研究者に至っては20%未満にとどまっています(Stanford AI Index 2024、World Economic Forum)。
同氏はこうした現状について、「能力やジェンダーの問題ではなく、アクセスと機会、そして周囲からの後押しの問題だ」と述べています。多くの女子は15歳前後でSTEMの学びから離れていきますが、それは理数系の素養がないからではなく、進路選択の段階で構造的に押し出されてしまうためです。
この指摘は、日本にとっても非常に身近な話です。STEAM JAPANが2025年に掲載した文部科学省高等教育局長・合田哲雄氏のインタビューでは、まさに同じ構造が語られていました(記事はこちら https://steam-japan.com/report/11173/)。OECDのPISA調査において、日本の15歳女子の数学的リテラシーと科学的リテラシーはOECD諸国の中でトップクラスであり、男子との有意な差はありません。ところが高校に進学すると普通科の理系を選ぶ女子は同世代のわずか16%に、大学で理系学部を選ぶ女子学生は5%にまで急落します。
合田氏はその背景として、高校で数学の難度と進度が急激に上がること、男性の保護者のバイアスがハードルになっていること、そして「できないなら理系に行ってもしょうがない」と消去法で文系を選んでいく構造を指摘しています。15歳の段階では世界トップクラスの力を持つ女子が、そこから先の一連の流れで急速にSTEAMから遠ざかっていく。セッションで示された世界のデータと、合田氏が指摘する日本の構造は、驚くほど重なっています。
講演で特に印象的だったのは、AIとジェンダーの関係についての問題提起でした。
「テクノロジーは本来、門番(ゲートキーパー)から女子を解放するはずのものです。しかし今、テクノロジーそのものが新たなゲートキーパーになりかねない」——そんな警告が語られました。
AIがヘルスケアから行政、メディアから金融まで、あらゆる領域を構造的に変えていく中で、AIを設計する側に女性がいなければどうなるか。「AIはバイアスを増幅するが、アクセスも増幅する。すべては誰が設計するかにかかっている」と述べられ、この問題を「AIリテラシーの格差こそ、今最も危険な分断だ」と表現しました。
この問題意識は、日本の有識者からも指摘されています。STEAM JAPANが2025年に掲載した学習環境デザイナー/学習科学者・美馬のゆり氏のインタビューでは、「技術の設計段階から、多様な視点を持つ人たちが関わっているかどうかが、社会に与える影響を大きく左右する」という指摘がありました(記事はこちら https://steam-japan.com/parenting/10440/ )。美馬氏はさらに踏み込み、AIの設計には「最大多数の最大幸福」という功利主義的な発想が潜んでおり、統計に表れにくい少数派の声が見えなくなる可能性があると述べています。
AIを設計する側に多様な人がいなければ、技術は既存の格差を縮めるどころか、より大きなスケールで再生産してしまう。この認識は、国や文脈を越えて共有されつつある問題意識だといえるでしょう。

一方で、セッションではAIの可能性についても具体的に語られました。印象的だったのは、ある女の子が低コストのタブレットを使い、AIチューターに「機械学習について、12歳の私にもわかるように説明して」と尋ねたというエピソードです。インターネット接続はなかったものの、アプリはオフラインで動作し、パーソナライズされた説明を提供。彼女はフォローアップの質問をし、自分のペースでコースを進めることができました。
こうした事例を踏まえ、セッションでは学びの未来について3つの展望が示されました。
第一に、学びはポータブルになる。AIチューターが低スペックのデバイスやオフライン環境でも動作すれば、教室に行けない環境でも学べるようになります。
第二に、学びはより創造的・実験的になる。情報の暗記ではなく、ロボットを設計し、アプリケーションをコーディングし、アイデアを試す。教育は「消費」から「創造」へと移行していきます。
第三に、学びはより接続される。地理的に離れた場所にいる生徒同士が、同じ課題に取り組み、国境を越えて協働することが可能になります。
「自分の手で何かを作れるようになれば、参加するために誰かの許可を求める必要はなくなる」。この言葉は、STEAM分野から閉め出されてきた女子だけでなく、あらゆる学び手にとって意味のあるメッセージではないでしょうか。日本の次期学習指導要領の議論でも、「知っている・できる」から「わかる」「使える」へというカリキュラムの方向性が示されていますが、セッションで語られた「暗記から創造へ」という潮流はそれと地続きにあるように感じられます。
セッションの最後に、登壇者からこんな言葉が投げかけられました。
「ツールを彼女の手に渡してください。知識をアクセス可能にしてください。彼女が自分の力で構築することを、信頼してください」
この言葉は、特定の国や地域に限った話ではありません。AIが教育の仕組みを根本から変えようとしている今、テクノロジーの恩恵が特定の層にだけ届くのか、すべての学び手に届くのか。その分岐点に私たちは立っているのかもしれません。
STEAM分野の女性比率が10年間変わらないという現実、AIの設計に多様な視点が欠かせないという認識、そして「当たり前」を問い直す力の重要性。SXSW EDU 2026のこのセッションは、これらの問いを一つにつなげてくれるものでした。
出典・参考:
本記事は、SXSW EDU 2026のFeatured Session映像アーカイブおよび関連資料に基づき、STEAM JAPAN編集部が構成・執筆したものです。記事中の解釈・論評は編集部の視点に基づくものであり、カンファレンスの公式見解を代表するものではありません。