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STEAM JAPAN AWARD 2026の審査結果発表が、いよいよ目前に迫っています。発表を前に、昨年度の受賞プロジェクトの中から、注目の取り組みをあらためてご紹介します。
「STEAM JAPAN AWARD 2025」において、【日産財団賞】を受賞したのは、青森県立名久井農業高等学校 栽培環境班&Jr.のチームです。
彼らが挑んだのは、水耕栽培における廃液問題という、農業分野が抱える重要な環境課題。独自の「霧化分離」という技術を用い、廃液の再利用や環境負荷の低減を目指した研究は、実践的でありながら高い技術的探究心に裏打ちされたものでした。
農業高校ならではの現場視点と、科学的なアプローチを融合させたこの取り組みは、単なる研究にとどまらず、社会実装の可能性まで見据えた点でも高く評価されています。地域に根ざした課題から出発しながら、より広い環境問題へと接続していく姿勢は、多くの人に新たな気づきを与えています。

今回は、チームを代表して3年生の鈴木さんと2年生の出町さん、さらに本賞を協賛する公益財団法人日産財団の坂元さんにインタビューを実施。研究に取り組んだ背景や試行錯誤のプロセス、そして今後の展望について、じっくりとお話を伺いました。
鈴木さん:
日産財団賞のような大きな賞をいただけたこと、本当に嬉しく思っています。ありがとうございます!昨年から取り組んできた研究が、霧化分離の技術として初めてこのような場で評価いただけるとは思っていなかったので、とても驚きました。 きっかけは、学校の授業で行っている水耕栽培で、廃液がそのまま排水溝に流されているのを見たことです。環境汚染につながるのではないかと考えた結果、霧化分離という方向に行き着きました。
出町さん:
先輩たちと進めてきたこの共同研究で、大きな賞をいただけたことを非常に嬉しく思っています。ありがとうございます。廃液には肥料成分が多く含まれており、そのまま川などに排水すると動物や植物の生態系への影響が大きいということをニュースで知り、「なんとかしたい」と思ったのが参加のきっかけでした。
オンラインインタビューの様子 上:坂元さん(日産財団)下:鈴木さん、出町さん(名久井農業高等学校 栽培環境班&Jr.)

日産財団・坂元さん:
日産財団は、約50年前に設立され、「社会課題に対して主体的に考え、行動できる人材の育成」を大きな目的として活動しています。資源の限られた日本において、これまで産業の発展を支えてきたのは、まさに“人の力”でした。そうした背景から、次世代を担う人材を育てるために、特に理科教育の支援に力を入れています。
具体的には、理科に興味を持つ子どもたちを増やし、その関心をさらに深めていくための学校への助成や、さまざまな教育支援を行っています。将来、日本の工業や産業を支える人材を育てていくことが、私たちの重要な役割だと考えています。
そのような観点から、「栽培環境班&Jr.」の皆さんの取り組みは非常に高く評価されました。評価のポイントは、大きく3つあります。
1つ目は、「課題への気づき」です。水耕栽培における廃液による水質汚染という、身近でありながら見過ごされがちな問題に目を向けた点が評価されました。2つ目は、「試行錯誤を重ねる探究の姿勢」です。思うような結果が出ない中でも挑戦を続ける姿は、まさに技術開発に不可欠なプロセスそのものでした。そして3つ目は、「技術による解決」です。課題を認識するだけでなく、「霧化分離」という具体的な技術にたどり着き、実際に装置として形にした点が重要でした。アイデアにとどまらず、実装まで踏み込んでいる点が高く評価されています。
これら3つの要素がバランスよく揃っていたことが、今回の受賞につながりました。どれか一つが欠けても成立しない――その完成度の高さが印象的でした。
鈴木さん:
名久井農業高校では、週に4時間「課題研究」という授業があり、私たちはその時間を中心に研究を進めています。ただ、それだけでは時間が足りないことも多く、放課後や休日にも活動を続けています。
チームには「Jr.制度」があり、1年生から研究に参加できる仕組みになっています。現在は、3年生3名、2年生4名、そして1年生のJr.が4名所属しています。「一人一課題、全員で協力」をモットーに、それぞれがテーマを持ちながら、必要に応じて全員で意見を出し合い、研究を深めていくスタイルです。
最も苦労したのは、霧化分離装置の製作です。この技術には既存の装置がなかったため、75リットルのゴミ箱やポリバケツを使い、はんだごてで穴を開けるところから自作しました。
特に難しかったのは「高さの調整」です。水蒸気が上昇し、それを効率よく回収するためには適切な高さが必要ですが、市販の機材だけでは対応できず、身近なものを組み合わせながら何度も試行錯誤を重ねました。
出町さん:
装置自体は比較的スムーズに動かすことができたのですが、実際に廃液を分離する段階になると、高さの確保が大きな課題として立ちはだかりました。
思うように結果が出ず、何度も調整を繰り返しましたが、その過程で少しずつ改善点が見えてきました。最終的には試行錯誤を積み重ねることで課題を乗り越えることができ、装置として機能させることができたときは大きな達成感がありました。

鈴木さん:
現在はまだ研究のサンプル数が限られているため、本格的な実用化に向けては、より大規模な設備や環境が必要だと感じています。今使っている75リットルのゴミ箱ベースの装置から一歩進み、専用の施設や大きな設備で検証できる機会があれば、研究の精度や再現性をさらに高められると思います。
出町さん:
近年は水耕栽培に取り組む企業も増えてきていますが、廃液をそのまま処理するのではなく、霧化分離によって取り出した水や肥料成分を再利用する仕組みを、企業の方々と一緒に構築していけたらと考えています。コンテストや学会などの場に積極的に参加し、さまざまな立場の方から意見やアドバイスをいただきながら、取り組みの可能性を広げていきたいです。
日産財団・坂元さん:
この技術が将来的に産業として展開されていくことを期待しています。産業化は一人や一つのチームだけで完結するものではありません。農家、設備開発者、技術導入者、流通、資金管理など、多様な専門性を持つ人々が関わることで、初めて一つの仕組みとして成立します。今回の技術は、そのバリューチェーンの中でも重要な役割を担う可能性があります。
また、水の浄化という課題は農業に限ったものではありません。例えば工場排水、とりわけ自動車産業の塗装工程など、水を大量に使用する分野への応用も考えられます。さらに、宇宙空間での水生成といった視点も含め、「横への広がり」を持って技術の可能性を探っている点は非常に意義深いと感じています。今後もさまざまな発表の機会を通じて多くの人の目に触れることで、新たな協力や連携が生まれていくことを期待しています。
鈴木さん:
過去に取り組んだミスト栽培の研究と、今回の霧化分離技術を組み合わせることで、より少ない水で生産できる、環境負荷の低い新しい農業の仕組みを実現できないかと考えています。高校生活最後の1年として、その実現に向けて挑戦を続けていきたいです。将来的には北海道の農業系大学への進学を目指しており、大学でもこの研究をさらに発展させていきたいと思っています。
出町さん:
現在はまだ学校内での実験段階ですが、将来的には発展途上国でも扱いやすい、シンプルでコンパクトな霧化分離装置を開発したいと考えています。また、地球温暖化が進む中で、エネルギー消費を抑えながら植物を冷却する技術にも関心があります。持続可能な農業の実現に向けて、新しいアプローチを探っていきたいです。
日産財団・坂元さん:
お伝えしたいことが大きく2つあります。
1つ目は、「縦と横の視点を持つこと」です。技術開発には、「何を実現したいのか」という目的(縦)と、「それをどう実現するのか」という手段(横)の両方が必要です。そして特に重要なのは、その技術が他分野にも応用できないかを考える“横への広がり”です。今回の霧化分離も、農業だけでなく工場排水や宇宙分野など、さまざまな可能性を秘めています。常に視野を広く持ち、多角的に考えることを大切にしてください。
2つ目は、「結果を前向きに捉えること」です。研究や開発においては、思い通りの結果が出ないことも多くあります。しかし、それは決して無駄ではなく、「何がうまくいかないのかが分かった」という重要な発見でもあります。結果そのものは変えられなくても、それをどう受け止めるかは自分次第です。すべての経験を次につなげていく姿勢を持ち続けてほしいと思います。
環境課題に真正面から向き合い、自ら手を動かしながら技術として解決しようとする高校生たちの姿は、これからの社会に必要な「実践的な学び」のあり方を示しています。
農業という現場から生まれた一つのアイデアが、産業や地域、さらには地球規模の課題へとつながっていく――その広がりこそが、この取り組みの大きな価値と言えるでしょう。
次の世代は、どんな視点と発想で社会に新しい選択肢を提示してくれるのか。まもなく発表されるSTEAM JAPAN AWARD 2026にも、ぜひご期待ください。
STEAM JAPAN AWARD2026 結果発表は3/31(火)18時〜公式サイトにて!
公益財団法人 日産財団:https://www.nissan-zaidan.or.jp/
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