【祝・開校!】神山まるごと高専インタビュー 「学生の意志や可能性を信じ、未来あふれる子どもたちの選択肢を増やしたい」

目指す人物像は「モノをつくる力で、コトを起こす人」と掲げ、テクノロジーとデザインと企業家精神を軸に、徳島県神山町の町をまるごと学ぶ場と位置付けた新しい高専「神山まるごと高等専門学校」(以下、神山まるごと高専)。
起業家4人が立ち上げたこの大プロジェクト。迎えた2023年の4月2日に晴れて開校した神山まるごと高専の事務局長である松坂孝紀氏に、学校づくりに関わることになった経緯や、教育にかける想い、子どもたちに必要だと思うスキルについてオンラインにて、お話を伺いました!

神山まるごと高専事務局長 松坂孝紀氏プロフィール

東京大学教育学部を卒業後、人材教育企業アチーブメント株式会社に入社。マーケティング、人事、経営企画などを担当した後、2017年に子会社の取締役に就任。組織変革コンサルタントとして、企業や地方自治体の人づくり・組織づくりプロジェクトに従事。
2021年、神山まるごと高専に参画し、徳島県神山町に移住。事務局長兼副学校長として、学校運営に従事。

「学校づくり」に本格的に関わることになった経緯やきっかけを教えてください。また、都会ではなく地方を選ばれた理由はあったのでしょうか。


私は、2021年から神山まるごと高専に携わっています。もともとは企業内の人づくりや組織づくりを手伝う人事コンサルティング会社を経営しておりましたが、教育にも関心をもっていました。「新しい教育はどのようにして生まれてくるのか」ということも常に模索していました。そんな中で、人づくりの基盤となる学校づくりに着手することが自分の中で重要なことだと考えていたので携わることができるのは感慨深いです。

以前の仕事でも、様々なプロジェクトに関わっていく中で、地方の現状に触れる機会がありました。そこで、都会にはない「何かを欲するエネルギー」が地方にはあり、それをとても強く感じました。その後、ご縁もあって、惹かれるようにこの地へと来ました。
地方やこの神山という場所を選んだのには多くの理由がありますが、このエネルギーこそが新しいものを生み出す原動力であり、地方から新しい教育、新しいモノを発信していこうと考えた要因の一つです。

オンライン取材で質問に答える松坂氏

19年ぶりの高専の開校。様々なメディアでも注目されている今回の初めての入試において、40人という募集枠に対して、国内外から約9倍の出願数があったこと。また合格者が偶然にも男女同数になったこと。それだけ、多くの女子学生が出願してくれたことに関してどのように捉えられていますか?

偶然にも、最初の合格者数が男女同数になったことは嬉しい結果と受け止めています。私たちは、高専の女子学生を増やしたくて試行錯誤しながら本当に様々な取り組みをしてきました。また、多くの人に協力してもらったからこそこのような結果になったと言えると思います。

女子学生を増やすための取り組みにおいて、「新しい選択肢として、神山まるごと高専を知ってもらう」ことを重要視しました。高専に在籍する女子の比率や起業する女子の比率を考えると、これらが選択肢にない人たちにどのようにして認知してもらうのかを考えました。

その答えとして、「神山まるごと高専に行ったら、なんかとにかく楽しそう!」と思ってもらうことに注力しました。
また、テレビや雑誌、webメディアといったマスメディアを活用して、当校を取り上げてもらったり、当校のような新しい教育に関心を持ち理解してくださる場所があれば、日本全国で講演もさせてもらいました。

その結果、高専を併願として希望していない学生たちにも認知され、当校に出願してもらえたということが今までの取り組みをしてきた結果だと思います。
学生たちの進路選択においても、常識とか世間の風潮は関係なく、「何かワクワクする未来がありそう」と、自分の心と対話した時に神山まるごと高専が選択肢の一つにあるようにアプローチしてきました。
進路選択ではなく、「人生選択」。私たちは、「生き方選び」と言いますが、そのような選択肢の一つに神山まるごと高専を認知してもらえるように考えて地道に活動してきました。

全国の高専における女子学生の在籍比率は約 20%*と低いですが、神山まるごと高専も含めて高専を選択肢の一つと女子学生の選択肢の幅を広げていくためにはどのようなことが必要だとお考えですか?

(ネット環境が整備されている現在、)多種多様な情報が学生たちの元に集まります。リスクも踏まえてさまざまな情報を手にした中で、本人が決めることを周りがいかに支えるかという構造をどのように作るかが重要と考えます。
特に教育分野だと、未熟な子どもたちに対して、先を知っている大人たちがどうしても教えたがってしまいます。失敗しないように、正しい道を示してあげようとしてしまいがちです。

そうではなく、子どもたちが大人への一歩を踏み出そうとしていること、自分の意志があり、自分の責任の下、意思決定できる状態であることを周りの大人が認め、信じてあげることが必要です。私はさまざまな場所でお話しさせていただく機会があります。その時、親御さんや教育関係の方に伝えるのは、「子どもをもっと信じてみませんか」と言うことです。(*20%: 国立高等専門学校機構の「学生に関するデータ」 https://www.kosen-k.go.jp/gender/information/ より)

完成した神山まるごと高専校舎の外観 (=同校提供)

ワクワクがあふれている学校づくりに取り組まれる松坂さんのエネルギーはどこから来るものでしょうか?

この学校づくりに携わらせていただくようになって、開校までの年月、そして最初の学生が卒業するまでの5年。そしてそこから彼らが社会を変えるほど活躍するまでの年月を考えると、本当に息の長い仕事だと感じています。
そこで思うのは、学校づくりをしたいという想いよりも、学校をつくる中で育った素晴らしい学生たちがつくる社会を見てみたいのです。そして、何かを成し遂げることができる学生たちの人生の片隅で少しだけ登場する脇役のような存在になりたいです。

これからの時代に子どもたちが身につけるべきこと、必要となるのはどのような力だと考えますか?

身につけるべきスキルをまるごと盛り込んだのが、この神山まるごと高専そのものであり、当校のテーマであるテクノロジーとデザインと起業家精神ですね。私たちは、「モノをつくる力で、コトを起こす人」が目指す人物像だと考えています。実際は、”ものづくり”も”コト起こし”もどちらも必要な要素だと思います。
近年、日本の高専は国内のみならず世界中から注目されています。しかし、ただものづくりができるだけではこれからは厳しい社会だと思っています。一方で、(妄想のように)言っているだけでもダメ。

何のためにあるのか、これはどのようなことをもたらし、どういう人のためのどういうものなのかを表現することも考え、自分自身で手を動かすことがポイントだと思います。つまり、手を動かせるコトを起こせる人です。

最後に、私たちが大切にしている考え方を紹介したいと思います。「β(ベータ)メンタリティ」です。「ベータ」はベータ版などと言われるソフトウェアやサービスについて、開発途中や完成前の試供品、未完成のものという意味があります。未完成なものを出していき、それを最適になるようにアップデートしていくという考え方です。
失敗を恐れて、100%の完璧なものでなければ世の中に出せないという考え方に固執してしまっては、チャレンジし続けることなんてできないです。テクノロジーも日々進化している現在、まずはここまでできたから勝負してみようといった考え方を持ち、チャレンジし続けることを大切にしてほしいです。

完成した神山まるごと高専校舎の大講義室 (=同校提供)

教育や学生たちを取り巻く環境は、昨今かなり変化していると思いますが、教育に関わる方々(学生や先生や保護者など)へのメッセージをお願いいたします。

親御さんや先生たちには、「子どもたちをもっと信じてみませんか?」ということですね。この近年だけでなく、これからの時代は私たち誰も予想がつかない未知の時代です。大人だからわからないと言えないと思う必要はなく、「わからないことはわからない」と認めることから始め、子どもたち自身が考えて、気づき、感じることに可能性を持ってみましょう。

私たちが今まで生きてきた時代と子どもたちがこれから生きていく時代は違います。違うことを理解した上で、子どもたちの想いや考え、未来を切り拓いていく力を信じてみませんか。
子どもたちには、信じて支えてくれる大人が周りにはいることを知って、そんな大人たちに出会い、応援される自分になってほしいです。