2024.04.03│ニュース

全国初! 渋谷区の探究「シブヤ未来科」の挑戦

時代の変化とともに、教育のあり方も進化しています。東京都渋谷区は、全国に先駆けて教育の新たな取り組みへの挑戦を始めています。それが探究「シブヤ未来科」です。この革新的なプログラムは、子どもたちが自ら学び、問いを立て、解決策を見出す力を育むことを目的としています。では、具体的に探究「シブヤ未来科」とは何なのでしょうか?

今回は、 「シブヤ未来科」のカリキュラム開発や教員向けハンドブックの開発にも関わるSTEAM JAPANの視点から、今回の大胆な改革の気になるポイントについて、渋谷区教育委員会の五十嵐俊子さん(取材の2024年3月時点での教育長)から特別に話を伺いました!

探究「シブヤ未来科」の全貌

令和6年度より、渋谷区内のすべての公立小中学校で、月曜日から金曜日にかけての午後の授業時間を中心に、探究「シブヤ未来科」が割り当てられることとなりました。これは、文部科学省の「授業時数特例校制度」を利用し、従来の総合的な学習の時間を年間70時間から約150時間に拡大するというもの。令和4年に公表された渋谷区が目指す「未来の学校」に続き発表された探究「シブヤ未来科」への大胆なシフトは、子どもたちにより充実した探究学習の機会を提供することを目指しています!

出典:渋谷区『新しい学校づくり』整備方針 ~学校施設の未来像と建て替えロードマップ~「「未来の学校」プロモーションビデオ」

STEAM JAPAN編集部: 探究「シブヤ未来科」を始めることになった背景は何ですか?

五十嵐教育長*からのコメント *2024年3月時点

「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」では、一人一人の子どもたちが自分の個性を伸ばし先進的で柔軟な考えを育むための教育に取り組んでいます。すべての子どもたちには、自ら学ぶ力が備わっていて、環境さえ整えばその力が発揮されるという理念のもと、『未来の学校』においては、ハード面では施設整備という空間環境、ソフト面では、学びの変革という学び環境の構築を図ってきました。

探究「シブヤ未来科」は、過去3年間に取り組んできた「学びの変革」の延長線上にあります。誰もが遊びに没頭した幼児期のワクワク体験を、小・中学校の学びにも発展させて、子どもたちはもちろん、伴走する先生も地域の方もみんなワクワクして、学ぶ楽しさにあふれた渋谷の探究空間を創っていきたいと考えています。

探究学習を強化し、子どもたちの学ぶ力を育む

探究「シブヤ未来科」では、教科の枠を超えた学びが推進されます。子どもたちは、教科学習で培った知識やスキルを、実生活や社会の問題に応用することで、真の学力を身につけていきます。この時間を通じて、他者と協力しながら問題を解決したり、問題解決の過程を振り返って、解決方法や次の新たな問題に活かしたりすることで、グローバルな視野を持ち主体的に学ぶ力を養います。

渋谷区が考える「未来に必要な3つの能力」

渋谷区は、「自ら考え判断して学び続ける自己調整力」「多様な仲間と協働して新たな価値を生み出す創造力」「自分が思い描く未来を実現する挑戦力」の3つの能力を育成することに焦点を当てています。これらは、変化する社会で生き抜くために不可欠な能力であり、探究「シブヤ未来科」を通じて、子どもたちはこれらの能力を身につけていくことになります。

STEAM JAPAN編集部: 児童・生徒たちは授業にどのような様子で参加されていますか? 学習への意欲や参加度に変化はありましたか?

五十嵐教育長*からのコメント *2024年3月時点

ここ3年間は、区内の小・中学校全校で、そろえる教育から、一人一人の力を伸ばす教育へ「学びの変革」に取り組んできました。先生たちは、念入りな教材研究と計画的な授業展開の準備から、子どもたち一人一人のペースや理解度、興味の行き先をより重視し、子どもたち同士の対話、意見交換の時間を多く設定するよう努力してきました。これにより、学習に向かう子どもたちの姿勢も、受け身から主体的に変わってきたという声が聞かれるようになってきました。

今度は、探究「シブヤ未来科」を通して、先生方がもっと子どもの力を信じて任せて支えていくことが大事です。安心できる学びの環境の中で探究に取り組むことで、子どもたちは「自ら考え判断して学び続けていく自己調整力(基礎・自律)」「多様な仲間と協働して新たな価値を生み出す創造力(協働・共感・創造)」「自分が思い描く未来を実現していく挑戦力(挑戦)」の力が身に付いていくと考えています。その基盤にあるのは、この2月に定められた「渋谷区教育大綱」に参考として掲載されている「未来の学校で大切にする7つの力」(探究・基礎・自律・協働・共感・創造・挑戦)です。

多様なコラボレーションで実現する探究「シブヤ未来科」の取組

STEAM JAPANが探究「シブヤ未来科」のカリキュラム開発や教員向けハンドブックの作成に携わらせていただく中で驚いたのは、渋谷区がプログラムの開発の過程で築いた多様な企業や地域との幅広い連携体制でした。このような連携は、子どもたちが向き合う現実世界の問題に対して、より実践的で意味のある学びを得るための重要な基盤となります。

STEAM JAPAN編集部:授業やカリキュラム開発において、特に重視したポイントは何ですか?

五十嵐教育長*からのコメント *2024年3月時点

渋谷は昔から地域とのつながりが強く、地元ならではの伝統文化や地域の行事などが教育活動に結びついています。また、先端技術やアート、スポーツの発信地として多様な体験もさせていただいています。まさに、渋谷のまち全体が「探究空間」です。これらの多様な大人との出会いの機会や体験は、探究で問いを立てるときの、素敵なきっかけの一つになると考えています。

今回、探究「シブヤ未来科」の前半のカリキュラムに、多様な企業や地域との幅広い連携体制を、探究体験として取り入れるモデルケースを示しました。この体験は、子どもたちが、自分が今まで想像もしなかったような考えに出会ったり、次々とさらなる新たな問いがわき起こったりするきっかけになります。子供たちがもっと知りたいという探究心や、こんなことをしてみたいという創造力が生まれ、子どもたちの心に灯が灯り、学びが駆動していくことを期待しています。

教員向け 探究ハンドブック

キャラクターたちが登場し分かりやすく探究の進め方を解説していく
出典:探究ハンドブック初版 2024年3月 発行:渋谷区教育委員会 監修:信州大学名誉教授 東原義訓 編集:株式会社Barbara Pool

探究「シブヤ未来科」は、子どもたちが自分で考え、学び、未来を自分たちで切り拓いていくための大切なスタートとなるような取組。渋谷区が始めたこの新しい試みは、これからの教育の形を作る手本になるかもしれません。