GIGAスクール構想の現状と課題とは?

パンデミックが進めたGIGAスクール構想

GIGAスクール構想は、教育ICT環境の向上を目的とした、文部科学省が進める計画です。令和5年度までに、義務教育での1生徒1学習用端末と高速大容量ネットワーク環境等の整備を進めることが目標となっています。新型コロナウイルスのパンデミックの影響により、思わぬ形で計画は前倒しになり、教育現場でのICT環境は急速に整備が進んでいます。ここでは、GIGAスクール構想の現状、また、現状から見える今後への課題に迫ります。

GIGAスクール構想に関する調査結果

文部科学省の調査結果によると、2021年7月時点で、全国の公立小学校等の96.2%、中学校等の96.5%もが、「全学年」または「一部の学年」で学習者用端末の利活用を開始しています。義務教育段階における端末1台当たりの児童生徒数は1.0人となっており、2020年3月時点の6.6人という値と比較すると、1年4カ月の短い期間で環境整備が大きく進んだことがわかります。また、校内通信ネットワークの供用を開始した学校の割合も98.0%と高く、2021年2月の前回調査時の86.2%から増加が認められます。

現状から見える今後の課題

学校でのICT環境整備は順調に進展しているように思われますが、一方で、今後への課題にも目を向ける必要があります。文部科学省の調査を通して、義務教育段階における主な課題として挙げられているのは、「学校の学習指導での活用」「教員のICT活用指導力」「持ち帰り関連」です。

特に、「教員のICT活用指導力」については、経済協力開発機構(OECD)が実施した2018年のPISA調査(Programme for International Student Assessment)の報告書でも、世界で教育格差を生み出している一因として挙げられています。ICTを導入したものの、それが十分に活用されないような状況に陥ることがないよう、文部科学省や学校によるカリキュラムの改善や指導者の育成が急がれます。

また、2021年8月には公立高校における端末の整備状況も調査されましたが、小学校・中学校の整備状況に後れを取っていることが問題視されています。これは、GIGAスクール構想が義務教育段階の学校を対象とし、小学校と中学校でのICT環境整備が優先して進められたためです。高校での環境整備が遅れると、中学校までにICTを活用して学習することに慣れた生徒が、高校に入った途端に従来の学習法に戻ってしまうことになります。教育ICT環境の整備は、「公正に個別最適化された学び」や「創造性を育む学び」の達成を目的としていることから、高校でその機会が失われてしまうことは、そのような新しい学びの普及を遅らせる要因となり得ます。

一方で、PISA調査では、生徒1人当たりに配備されているコンピュータ数が多い学校の方が、配備数が少ない学校の生徒よりも、読解力テストで低い点数を記録する傾向にあることがわかっています。また、ノートパソコンなどの持ち運び可能な学習端末に関しては、生徒の注意を散漫にさせる原因にもなり得ることが指摘されており、授業中にメモをとる際にはペンとノートの方が効果的だという声もあります。学習端末の利用が学力向上の障害になるといった、本末転倒な状況をつくることがないよう、その利活用方法については引き続き議論を重ねることが重要になるでしょう。

ICT環境整備、その先へ

小学校や中学校での教育ICT環境の整備が進む中、指導者の育成、義務教育以降での環境改善や、ICTの有効的な利活用方法の模索など、継続的な取り組みの必要性も明らかになっています。また、2019年の文部科学大臣からのメッセージでも言及されているように、学習端末やインターネットはあくまで手段であり、ICT環境の整備自体が目的となってはいけません。ICTの導入・利用そのものをゴールとするのではなく、生徒が後の社会生活において活用することができる生きた知識・経験を、ICT学習を通して提供できるように環境を整えていくことが求められています。GIGAスクール構想の真価が問われるのは、全国の学校で教育ICT環境の整備が完了し、学習端末やインターネットの利用が当たり前になった後、それらを利用した学習の内容・質により注意が向けられるようになったときではないでしょうか。

参考文献

OECD, 2020. New OECD PISA report reveals challenge of online learning for many students and schools.
Available at: https://www.oecd.org/newsroom/new-oecd-pisa-report-reveals-challenge-of-online-learning-for-many-students-and-schools.htm

OECD, 2020. PISA 2018 Results (Volume V): Effective Policies, Successful Schools, PISA, Paris: OECD Publishing.
Available at: https://doi.org/10.1787/ca768d40-en

朝日新聞社, 2021. 高校「1人1台端末」、配備2割で大丈夫? 小中学校は9割以上配備|まだまだ続く教育改革.
Available at: https://www.asahi.com/edua/article/14461469

文部科学省, 2019. GIGA スクール実現推進本部の設置について.
Available at: https://www.mext.go.jp/content/20191219-mxt_syoto01_000003363_08.pdf

文部科学省, 2019. 子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて~令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境~≪文部科学大臣メッセージ≫.
Available at: https://www.mext.go.jp/content/20191225-mxt_syoto01_000003278_03.pdf

文部科学省, 2021. GIGAスクール構想に関する各種調査の結果.
Available at: https://www.mext.go.jp/content/20210827-mxt_jogai01-000017383_10.pdf

文部科学省, 2021. 端末利活用状況等の実態調査(令和3年7月末時点)(確定値).
Available at: https://www.mext.go.jp/content/20211125-mxt_shuukyo01-000009827_001.pdf

(文:岡崎慈未)

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