新しい幸せの考え方「ウェルビーイング(well-being)」とは?教育と幸福の関係

「ウェルビーイング(well-being)」とは?

ウェルビーイング(well-being)は、「持続する幸せ」に焦点を当てた、昨今注目を集めている概念です。人生全体を評価したとき、心身・社会的に健康で満ち足りている状態を表しており、世界保健機構(WHO)憲章前文にも健康を定義する言葉として登場します。 ウェルビーイングの考えでは、人生の複数の領域において充たされ、総合的にバランスがとれた状態を幸福の条件とします。

同じく「幸せ」を意味する言葉に「happiness(ハピネス)」という言葉がありますが、こちらは主に、瞬間的な感情を示す言葉として使われます。ただし、ポジティブな感情はウェルビーイングを達成するための重要な要素の一つです。

他にも、自分の人生をコントロールできる感覚や、人生に対する目的意識を持つことなど、自律的・主体的な生き方がウェルビーイングの実現には必須だと言われています。

  

生徒のウェルビーイングを測る4領域

教育は、ウェルビーイングの促進における重要な要素だと考えられます。経済協力開発機構(OECD)が2015年に実施したPISA調査(Programme for International Student Assessment, PISA 2015)にて、ウェルビーイングという観点で質問調査を行っていることからも、教育分野でこの概念への注目が高まっていることがわかります。本調査では、生徒のウェルビーイングの状態を「心理的」「社会的」「認知的」「身体的」の4つの領域で調査・評価しています。

「心理的」ウェルビーイングは、生徒の人生の目的意識、自己認識、感情の状態・強さによって評価される領域です。学習を通して獲得することができる、達成感や技術・能力が磨かれる感覚は、生徒に自信や未来へのモチベーションを与え、「心理的」ウェルビーイングを向上させると考えられます。

「社会的」領域への評価は、生徒の社会生活、つまり、家庭や学校生活の質に基づきます。PISA 2015では、学校への帰属意識によって「社会的」ウェルビーイングを測定しています。

「認知的」ウェルビーイングは、生徒が生涯に渡って社会で参加し、活躍することができる能力を身につけているか否かで判断されます。具体的には、「問題を複数の視点から考察することができるか」「知識を活用し、単独もしくは他者と協力して問題を解決する能力があるか」など、高次の推論能力の有無が評価されます。

「身体的」領域は、生徒の身体の健康によって評価され、PISA 2015では、運動や食事の頻度を調査することで、生徒の「身体的」ウェルビーイングを測っています。

  

ウェルビーイングを高めるSTEAM教育

STEAM教育はウェルビーイングの概念と相性がよく、生徒の技術・能力開発だけでなく、幸福の実現にも効果を発揮することが期待されます。

決められた解答のないオープン・クエスチョン型の学びであるSTEAM教育では、生徒が主体的に知を創り出し、必要な知識や技術を自ら選び取っていきます。そのため、生徒は高い達成感や習得度を獲得し、自身に対してよりポジティブな感情を持つ、つまり、「心理的」ウェルビーイングが向上すると言えます。

また、STEAM教育の分野横断的な学習体験により、生徒は複数分野の知識を組み合わせて実践的に活用する方法を自然と身に付けることができます。こうした応用的・実践的学習によって、生徒は自らが得た知の活用法や社会への還元方法を想像しやすくなります。まさに、「認知的」ウェルビーイングの評価基準である、知を利用した推論・問題解決能力が、STEAM教育によって養われるのです。

  

ウェルビーイング理念導入への活発な動き

世界中で、ウェルビーイングを教育に取り入れる試みが始まっています。英国やニュージーランド政府は、ガイダンスや政策という形でウェルビーイングの概念を紹介し、教育現場における普及を推進しています。

日本でも、ウェルビーイングの考えを軸に、教育の在り方が変わろうとしています。教育再生実行会議(2013-2021年)は、今年6月に発表した「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について(第十二次提言)」において、新たな時代の教育はウェルビーイング理念の実現に重きを置くべきだと結論づけています。

ウェルビーイングという新しい幸福の在り方を基軸とした教育、そしてウェルビーイングを高めるSTEAM教育は、今後、世界中で積極的に導入されていくことでしょう。日本でも、導入への取り組みは活発化しており、今後の展開に期待が持てます。

  

参照文献

GOV.UK, 2021. Promoting and supporting mental health and wellbeing in schools and colleges - GOV.UK.
Available at: https://www.gov.uk/guidance/mental-health-and-wellbeing-support-in-schools-and-colleges#wellbeing-for-education-recovery

Kumamoto Education Week, 2020. M-1 「未来の教室」×熊本市. [online video]
Available at: https://www.youtube.com/watch?v=jw0iyb-uNI8&t=232s

Michaelson, J., Mahony, S. Schifferes, J., 2012. Measuring Well-being: A guide for practitioners.
Available at: https://neweconomics.org/uploads/files/measuring-wellbeing.pdf

New Zealand Ministry of Education, 2021. Wellbeing in education.
Available at: https://www.education.govt.nz/our-work/overall-strategies-and-policies/wellbeing-in-education/

OECD, 2017. PISA 2015 Results (Volume III): Students’ Well-Being, Paris: OECD Publishing.
Available at: https://www.oecd-ilibrary.org/education/pisa-2015-results-volume-iii_9789264273856-en

教育再生実行会議, 2021. ポストコロナ期における新たな学びの在り方について(第十二次提言).
Available at: https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai12_teigen_1.pdf

熊本市教育センター, 2020. Kumamoto Education Week 2020.
Available at: http://www.kumamoto-kmm.ed.jp/education/kew/kew2020.html

公益社団法人日本WHO協会, 2021. 世界保健機関(WHO)憲章とは.
Available at: https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/

国立教育政策研究所, 2017. PISA2015年調査『生徒のwell-being(生徒の健やかさ・幸福度)』報告書, 東京: 国立教育政策研究所.Available at: https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/pisa2015_20170419_report.pdf

東洋経済education × ICT編集チーム, 2020. 熊本発「ウェルビーイング」が教育に必要な理由.
Available at: https://toyokeizai.net/articles/-/391688

(文:岡崎慈未)

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