次世代STEAMスクール「SPARK!」対談!新しい時代の、新しい学びへ。東京大学大学院教授 筧氏×STEAM JAPAN編集長 井上

2023年10月1日よりサービス提供を開始した次世代STEAMスクール「SPARK!」。今回は、サービス提供にあたりアドバイザリーとして関わってくださっている東京大学大学院情報学環 教授の筧 康明氏と、STEAM JAPAN編集長の井上が対談しました!

SPARK!開始に至った背景でもある今の日本の教育について、そしてこれからの時代に必要な教育について話をしました。

SPARK!についての記事はこちら:https://steam-japan.com/news/8793/

SPARK!ウェブサイト:https://spark-japan.com

筧 康明氏 東京大学大学院情報学環 教授

インタラクティブメディア研究者、メディアアーティスト。2007年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。
科学技術振興機構さきがけ研究員、慶應義塾大学専任講師、准教授、東京大学大学院情報学環准教授を経て、2022年より教授を務める。これまでにMIT Media Lab Visiting Associate Professor、大阪芸術大学アートサイエンス学科客員教授などを務め、2016、2017年にはWorld Economic Forum Young Scientistsにも選出。主な受賞にEU Comission STARTS Prize 2022栄誉賞、第23回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞、ACM CHI2017 Best Paper Award、平成26年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞、2012年度グッドデザインBest100など。

これからの時代、必要なのは、自分で答えを出す力。

井上:筧先生とは、元々の考え方が非常に近いことを感じていましたが、今回は対談を通じて、さらに話を深めていきたいと考えています!よろしくお願いします。

まず、筧先生は、MIT(マサチューセッツ工科大学)でのご経験の中で、海外の教育についても幅広くみられていると思いますが、日本の教育についてどのようにお考えでしょうか?

筧先生: 従来は、与えられた問題を解くことが日本の学びの中心でしたが、急に答えのない問題や未知の領域に取り組む必要が出てきたことに日本の多くの学生が戸惑っているのをみてきました。与えられたものを解き続けることの方が 慣れているし、楽だし、得意だしということはありますが、今の時代は、自分で考え動いていくことができなければいけません。このような変化に適応できるスキルを身につけることができるかどうかが、今の時代の教育において重要な課題だと感じています。

井上: 確かに、従来の学習スタイルから、自分で問題を発見し解決する能力が求められるようになってきていますね。技術の進化もありますし、物理的なモノを作れるかというところも含めて子供たちの学習や能力の差がますます顕著になっているようにも感じます。この辺りは、従来の教育に慣れている大人たち、親御さんもまだあまり知らないポイントかもしれません。

これからの時代、私たち大人が担う役割

筧先生:私自身、親として感じるのは、自分の経験したことしか伝えられないということ。これが 1つの大きな制約になっていると思います。過去の成功体験からのバイアスがかかり、新しいアプローチに踏み出す勇気がなかなか出ません。自分が詰め込み型の学び方をしたからそれがいいだろと思って、子供たちにも同じようにさせてしまうことも起きていると思います。本当に大切なのは、未知のことに取り組む意欲を育むために、多様な選択肢や可能性を示すことです。

井上: 過去の経験に縛られずに、新しいアイデアや方法に挑戦することが大切ですね。そのためには、教育者や親は、子供たちに新しい視点やアプローチを提供する役割があると思います。

教育の中で答えを教えないということ

井上:様々な活動を通して、教育者のマインドを変えていくことはすごく難しいと感じています。これまでの教育において教育者は答えを教えることのプロフェッショナルだったので、答えを教えないということに対するそもそもの嫌悪感や違和感みたいなものがあると思います。このギャップは特にベテランの先生になればなるほど出てきてしまうのを感じています。

筧先生:学校や教育機関であれば、これからは、未知の領域に挑戦することを支援し、そのプロセスを構造化することが重要だと思っています。わからないことをやるということをある種フレーミングすることがこれからの教育者の腕の見せどころになるのではないでしょうか。

例えば、成長も含めた時間軸の中で、未知な問題をどう取りいれていくかという意味で、新しい時間の流れ方の設計をしていく必要があると思います。学校の教育の中で、全く答えのないものだけをやって、どうなるかわからないということだと無責任ですよね。ちょうど良いバランスで新しいアイデアやアプローチを追求するためのフレームワークを提供することで、学生たちは自信を持って挑戦できる環境が整います。

井上: 教育の中では、未知のことに挑戦する姿勢やその評価方法についても検討する必要がありそうですね。

筧先生: その通りです。未知なことに取り組む姿勢やその評価については、定量的な尺度が難しい部分もありますが、コミュニティ全体で議論し、収まらないものや新しいアプローチを許容する文化を育むことが大切です。これまでの評価基準とは異なる新しい学びのあり方を共有し、受け入れていく必要があると思います。新しい学びの文化を築くことで、未知な問題に取り組むスキルや姿勢を育むことができると思います。

井上: 確かに、変革を進めるためには、教育者や親、学生、学術機関などが協力して、新しい学びの文化を醸成していく必要がありますね。

これからの学びとしての「STEAM教育」

井上: 筧先生は、今、東京大学に所属されていると思うのですが、東京大学でも例えばSTEAM分野など、大きな変化が起きているように感じます。それについてお話しいただけますか?

筧先生:東京大学全体としては、デザインを軸に据える取り組みや、アートの要素や機能を教育や研究に積極的に取り入れる動きが出てきました。その中で、アーティストやデザイナーがみんなでデザインに関わることが当たり前になってきます。これにより、デザインに関する土台がある中で専門分野ごとに研究を進めるようなことができてきました。まだまだ途中ではありますが、新しい空気やアクティビティが生まれてきて、非常に楽しい状況ですね。

井上: それは興味深いですね。ちなみに、MIT(マサチューセッツ工科大学)での経験はどうでしたか?

筧先生: MITのメディアラボに所属していたことがあります。そこは学際的な研究所で、大学院でもあります。90年代から新しい学生の流れを形成してきた場所で、学問の分野を超えてコラボレーションや科学的な議論が盛んです。理系、文系との境目や、表現系と非表現系っていうこともなく、化学反応が起こる刺激的な環境であり、学校としての仕組みづくりにも力を入れており、柔軟に変化していく姿勢が学びに大いに寄与しています。こうした姿勢を学ぶことも重要だと思います。

井上: 化学反応が起こるようなコラボレーションについても興味深いです。学生たちが異なる国やバックグラウンドを持つ人々と共にプロジェクトを進めるのは、将来のビジネスやプロジェクトにも活かされる重要な経験ですよね。ビジネスの世界でも、多様なバックグラウンドを持つ人々との協力は起こることです。学生時代からそうした経験を積むことで、その後のキャリアにも大いに役立つと思います。例えば、次世代のリーダーの育成を目的とした世界ロボコン(FIRST Robotic Competition)では、スキルだけでなく、異なる文化やアプローチを理解し合う能力が評価されるようになってきています。

新しいアイデアや視点を「気づく」こと、伝えること

井上:筧先生が今後の教育において重要だと考えるスキルや能力について、具体的にお聞きできますか?

筧先生:私が関わっているメディアアートやデザインの分野では、「作る」という行為よりも「気づく」という視点がよく使われています。多くのアーティストやデザイナーは、新しいアイデアや視点を「気づく」ことから始めており、それを共有することでデザインやアートになる場合があります。気づくことには深い思考と努力が必要ですが、その過程で新たな洞察やアプローチが生まれるのです。また、気づいたことを「伝える力」も重要で、これまでの学校教育ではあまり育まれてこなかった側面です。伝えることによって自分自身も成長し、新たな気づきや質問が得られ、次なる創造へと繋がります。この気づくこと、作ること、伝えることのプロセスを通じて、新しいメッセージが生まれてくると思います。ですので、学びの中でこれらのステップを経験し、設計していくことが重要だと考えています。

井上: 「気づく」という側面は非常に奥深いですね。新しい要素がなければ、その気づきは生まれないので、それをどのように見つけ出すかが重要です。課題解決能力ばかりが注目されますが、課題を見つける力やそれを解決する力も同様に重要です。発見する力と解決する力、両方が必要ですね。

筧先生:課題を発見するとなると、大きな問題を考えなければならないような気がしますが、それだけではなく、何故その問題が生じたのか、何故面白いのか、美しいのかといった側面にも気づく必要があります。その気づきが新たな発展へと繋がることもあるでしょう。

井上: その通りですね。研究者であっても、何年も取り組んでいる問題に対して「なぜこうなっているのか」という疑問が、意外な大発見につながることもあります。

筧先生:好奇心が大きな要因であり、その先に社会的な問題にも繋がるかもしれません。好奇心があるからこそ、新しい問題やテクノロジーの課題を見つけることができるのです。好奇心がエンジンとなり、発展を促すのですね。

教育者は伴走者のように生徒と共に学んでいく

井上: 教育者の立場でも、1人の教員が多数の生徒に向き合うことは難しいです。オンラインなどを通じて興味関心の高い領域を伴走者となって深掘りすることは可能かもしれません。

筧先生: その通りです。教育者は伴走者のように、生徒と共に学び、一緒に答えを見つけに行く役割を果たすことが大切です。異なる文化や背景を持つ人々と協力して新しいものを発見し、共に成長していく姿勢が必要ですね。先生の知っていることだけでやるには限界があると思っています。先生も知らないことを 扱ってもいい。生徒と同じ方向を向いて一緒に答えを探しに行く姿勢になれば、教え方は変わっていくと思います。

井上:本当に同感です。その部分を変えるだけでも、大きな変化が見込めると思います。

グローバル化の時代に活躍できる人材

井上:グローバル化の波が人材にも影響を与えていると感じています。日本にいるのであれば大丈夫だという考えもあるとは思いますが、グローバル人材でなければ、日本社会でも十分に生き残ることは難しくなってきていますし、グローバル人材に求められているスキルは社会で日本社会の停滞感を乗り越えるための重要な要素となると感じています。

筧先生:なるほど、確かに、協力やコラボレーションの視点から見ると、地続きになっていると思います。グローバル化や国際化とは、国籍や国の問題だけでなく、異なる文化や言語を持つ人々が新しいものを見つけに行く過程だと捉えることが大切です。その中で、異なる文化や背景を持つ人々と共に学び、作り上げていくことが重要だと思います。

井上:その通りですね。異なる視点や文化を通じて気付きが得られることがあり、その気付きこそが貴重なものです。グローバルな視点を持つことで、広い視野を得ることができます。

筧先生:私も外国人アーティストとの共同作業を行うことがありますが、異なる文化というよりも、海外の中にこそ自分と本当に考えがフィットする人がいたりします。選択肢が広がることによって世界がより面白く豊かになると思います。自分らしさを発揮したり、伝わる人を見つけたりするという意味でもグローバルに目を向けることは良いことだと思います。言語やコミュニケーションのスキルは、異なる文化との交流において重要な役割を果たします。異なるバックグラウンドを持つ人々と協力して新しいものを生み出す際に、語学スキルは必要になります。

STEAM教育が今後の教育に与える影響

井上:最後になりますが、一点質問があります。教育の中で、STEAM(Science, Technology, Engineering, Arts, Mathematics)をどのように捉えているか、お考えを教えていただけますか?STEAM教育が今後の教育にどのような影響をもたらすとお考えですか?

筧先生:私の考えでは、STEAMは左脳と右脳、論理的な思考と感覚的な捉え方、それに加えて、見つける・気づく力や創る力を繋ぐ重要な要素だと思います。この要素は、様々なスキルや経験、アクティビティを結びつける架け橋になり、新しいものを創造する際に欠かせないものだと思います。STEAMでは単なる専門性だけでなく、異なる分野のエレメントを統合して学ぶことが重要だと思います。これまでの教育の要素は変わらないかもしれませんが、それを結びつける架け橋としての役割が期待されています。

井上:その通りですね。STEAMは、異なるスキルや専門性を結びつけて学ぶことで、新たなアプローチや視点が生まれる可能性を示しています。教育現場においても、異なる分野の専門性を持つ教員が協力して、分野横断的な教育のアプローチを構築することが大切だと思います。

筧先生: 個人が持つ異なるスキルや専門性を結びつけて学びながら、新たな知識やスキルを育むための手段として非常に価値があると思います。しばらくすると、複数の専門性を持った人、多様なSTEAMのバランスを持った人たちが出てきて、これまで教科で専門性が分かれていた人との間を埋めるような、接着剤になるような人たちがたくさん出るようになると思います。まずは、それを最初は作っていきたいですね。

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