幼少期の創造から生まれたエンジニアへの道。YOMY!代表 安田氏 × STEAM JAPAN編集長 井上

『女性×STEAM』をテーマに、今後どのようにしたらSTEAM人材が増えていくか、現役の大学生でありながら対話型のオンライン読み聞かせスクール「YOMY!」の役員代表取締役 CEOの安田莉子さんとSTEAM JAPAN編集長の井上が対談しました!

安田 莉子氏 共同創業 / CEO

2000年生まれ。YOMY!の代表。高校までは関西で過ごし、大学入学を機に上京。中高時代、リベラルアーツ教育のもとで学んだ経験から、教育分野に関心を持つ。ITプログラミング教室やスキースクールのキッズレッスンをするなど、子どもと触れ合うことが大好き。お気に入りの絵本は「ミッキーのクリスマスキャロル」。オンラインが普及する今だからこそ「コミュニケーションの楽しさ」を子どもたちに届けたいです! 慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科在学中

井上:本日は、YOMY!の代表であり、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科に在籍中の安田莉子さんと、女性とSTEAM(Science, Technology, Engineering, Arts, Mathematics)についてお話しします。安田さん、よろしくお願いします!

安田氏:こちらこそ、よろしくお願いします。少し緊張していますが、このテーマについて話すのを楽しみにしていました!

周りを見ると、理系人材は男性ばかりだった

井上:安田さんは、現役の大学生エンジニアとして、女性の理系分野への進出についてどのように感じていますか?

安田氏:はい、私は理工学部に所属しており、AI分野の研究を通してエンジニアリングを学んでいます。女性の理系分野への進出について課題を感じています。きっかけは、中高生にプログラミングを教える活動をしており、インターンシップで出会った仲間と共にビジネスコンテストに参加したことでした。

コンテストのテーマは、「社会課題を解決する新規事業を作りなさい」。私たちのチームは、女子2人と男子3人の構成で、全員がエンジニアとして活動していましたが、身近な課題として「女性エンジニアの少なさ」があがりました。当時、社会全体で見ると女性エンジニアの割合は2割程度。実際に、インターンシップでもこの実態を目の当たりにしました。「どうして女性のエンジニアって少ないのだろうか?」このコンテストでの経験を通じて、その理由をみんなで深掘りました。

「小さな時に、ロボットや電子工作で遊んでいたこと、それが自然とエンジニアへの興味につながったんだよね」というある男性メンバーの声が印象的でした。そこで、子供の頃に触れるおもちゃや日常の物が、将来のキャリア選択に大きな影響を与えるのではないかと考え、この問題に注目するようになりました。

クリエイティブコンフィデンスを培った幼少期の経験

井上:安田さん自身、今、女性エンジニアとして活躍されていますが、それはどういう経緯からですか。

安田氏:実は、高校までプログラミングの経験はほとんどありませんでした。私は兵庫県出身で、東京の友達と比べると、中高時代からプログラミングをしていた子は少なかったですね。元々は絵を描くことや工作が大好きで、小さな時は、発明家になりたい!なんて言っていました。特に、発明をテーマにした映画が大好きでした。

井上:幼少期から「つくる」体験の積み重ねは、本当に大切ですよね。安田さんの幼少期の工作については、具体的にどのようなことをされていたのでしょうか。

安田氏:私は絵を描くのが好きで、映画や絵本からインスピレーションを受けて、段ボールや様々な部品を使って立体作品を作っていました。例えば、絵の教室は、プラスチックの熱可塑性を生かした工作をしたことがあって、物が変化する過程に魅力を感じました。

井上:その創造性を育てる環境についてはどうでしたか?

安田氏:音楽の道を進んできた母からは芸術に触れることの楽しさを教えてもらいました。例えば、ディズニーチャンネルの「アートアタック」という番組を見て、それを真似して工作をすることが多かったです。足りない部品があった時、母に頼むと、普段行かないような工務店に連れて行ってくれたことがあり、嬉しかった記憶があります。

井上: それは素晴らしい経験ですね。そういった体験が、安田さんの「クリエイティブコンフィデンス」、つまり創造性の自信に繋がっていると思います。意図的でなくても、そういった環境が積み重なり、創造性を育ててきたのでしょう。子どものころの経験から、「この課題ならこう解決できるんじゃないか」と想像し考えを進めていくようなある種の思考のクセができているのかもしれません。STEAM JAPANで10月から開始したSPARK!も、幼少期の内に創造性の積み重ねていくことをすごく大事に考えています。

安田氏:幼少期からの経験は大切だと思います。創造性を積み重ねていくことで、問題解決へのアプローチが自然と身につき、エンジニアとして、また事業者としての道を歩む上で、非常に重要な基盤となる可能性があると思います。

女性エンジニアのロールモデルがいない!

安田氏:女性エンジニアが少ない原因の一つに、子ども時代にエンジニアリングに触れる機会が少ないことにあると思います。もっと気軽にエンジニアリングを体験できる機会を提供することが重要だと考えています。

井上:そうですね。STEAM分野で女性が活躍するためには、気軽に参加できる環境と、憧れるロールモデルの存在も重要になると考えています。

安田氏:確かに、ロールモデルは大切です。私自身、高校生の時に工学部への進学を考えた際、女性の先輩が少なく進路に悩んだ経験があります。YOMY!での絵本制作においては、ジェンダーバイアスを感じさせない内容は重要だと考えています。日本の絵本市場では、男の子が主人公の冒険物語が多く、女の子が科学者や研究者として登場する絵本はまだ少ないですね。伝統的な家族の役割を反映した内容が多いですが、海外ではもっと多様な役割が描かれています。私たちは、子どもたちにとって新しい視点を提供する絵本を作りたいと考えています。子どもたちに多様な可能性を示すことで、STEAM分野における女性の活躍も促進したいと考えています。

井上:日本の教育やメディアにおけるジェンダー意識の底上げは、多くの人々の連携が必要ですね。ディズニーのように、時代に合わせて内容を修正する動きも見られますが、日本ではまだ意識が低いのが現状です。時代の変化と共に、これらの固定観念に疑問を持ちながら、さまざまな面でアップデートさせていく必要がありますね。

安田氏: そうですね。絵本だと、特に、男の子キャラクターが強いイメージを持つ絵本が多い中、女の子向けの、例えば女性宇宙飛行士の物語など、新しいタイプの絵本を作りたいと考えています。日本ではこうした絵本がまだ少ないので、出版社とも協力して、開拓していきたいですね。

新しいことに挑戦し、飛び込める環境が日本には必要

安田氏: 日本では、新しいことに挑戦する文化がまだ十分に根付いていないと感じます。STEAM教育は、自分で問題を解決し、トライしてみることが重要です。失敗しても許される環境が必要です。私たちは、子供たちが自分のやりたいことを見つけ、それを実現できるように支援したいと考えています。

井上: 自分で考え、自分で何かを生み出す能力は非常に重要ですね。このような能力を持つ子供たちは、自分のアイデアを形にすることができます。これは、理系文系に関係なく、すべての子供たちにとって大切なことです。

安田氏: 理系文系の区別を超えて、子供たちが多様な環境に飛び込むことができれば、日本のSTEAM分野の人材も増えていくと思います。

井上:そうですね。私たちも、STEAM教育を通じて、子供たちに多様な機会を提供したいと考えています。例えば、私たちは、STEAM JAPAN AWARDというプロジェクトを進めていますが、ここでは、社会課題を自ら解決した中高生を表彰します。彼らには、自分たちのアウトプットを授業やプロジェクトに活かすことができる。さらに、子どもたちにとっては、少し憧れるような先輩の存在として中高生が素晴らしいロールモデルにもなるでしょう。

安田氏:その通りですね。子供の時に知っている環境なんて、すごく限られていると思うんです。 高校でも、大学でも、いろんなところに飛び込める環境を用意することで、理系文系関係なくSTEAM人材が育つきっかけになっていくと思います。


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