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2025年7月、文化庁次長から文部科学省高等教育局長に就任された合田哲雄氏。2017年の学習指導要領改訂を教育課程課長として担当され、現在は文部科学省高等教育局長として教育改革に携わっていらっしゃいます。次期学習指導要領の改訂に向けた議論が進む中、STEAM教育や探究的な学びの観点から、これからの教育に何が求められるのか。STEAM JAPAN編集長の井上祐巳梨がお話を伺いました。

井上: 合田様、本日はよろしくお願いいたします。現在、次期学習指導要領に向けた議論が進んでいますが、特に注目すべきポイントについて教えていただけますでしょうか。
合田氏: 学習指導要領は10年に一度改訂されており、私が担当課長として携わった前回の改訂が2017年ですから、10年後の2027年に向けて議論が進められています。今回の改訂は、これまでと質的に大きく異なるものになると言っていいでしょう。
これまでの学校教育には、いわば「鉄のトライアングル」がありました。教科書に書いてあることは授業中に全部やらなければいけないという網羅主義、教科書の指導書によってしっかりと教えていかなければならないという指導書準拠、そして入試では歴史教科書の脚注をいくつ覚えたかで合否が決まってしまう脚注入試の三つです。
今回の議論では、この構造をしっかり変えていこうとしています。「知っている・できる」という段階から、「わかる」という段階、さらに「使える」という段階へとカリキュラムを構造化していく。ここがまさにSTEAM教育とも重なる部分だと思います。
井上: カリキュラム自体も大きく変わるのでしょうか。
合田氏: はい。学校や子どもの状況に応じて教科の時数をやりくりし、裁量的な時間を設けていくことや、日本語指導が必要な外国由来のお子さん、不登校のお子さん、そしてSTEAMの観点からいえば40人学級に1人はいると言われるいわゆるギフテッドの子どもたちには、2階建てのカリキュラム構造にしていくという、これまでにはない議論が行われています。
井上: 今回は特に大胆な改訂とも言われていますが、その背景はどのようなものだったのでしょうか?
合田氏: 背景には三つの大きな変化があると考えています。一つ目は、デジタル化による社会の構造的な変化です。これまであらゆる社会システムがサプライサイド(供給側)で組み立てられていたものが、デジタル化によってデマンドサイド(需要側)に転換しました。象徴的に言えば、東京のキー局ではなくオンデマンドのオンラインサービスがメディアを構造的に支えるようになったということです。二つ目は、子どもたちの立場でいえば、学びの選択肢が拡大したということ。特にコロナ禍で、多様な学び方があるということを我々は学習しました。そして三つ目、これは決して好ましい変化ではありませんが、教育の世界としてしっかり受け止めなければならないのが、デジタル化によるデモクラシーの揺らぎです。この三つが、今回の学習指導要領の構造的な進化の背景にあると思っています。
井上: 次期学習指導要領の要点を拝見すると、「好きや得意を伸ばしていく」という表現が印象的でした。この言葉には、どのような意図が込められているのでしょうか?
合田氏: この150年間、日本の教育システムは「多様性(ダイバーシティ)」と「質(クオリティ)」が両立しないという前提でやってきました。多様性を排して同一性を高め、そこで競い合わせて質を高めていく。それがある程度成功してしまった。
子どもたちの中には、保護者を含めた大人から「私立中学校に合格しないと」「女の子は文系の方が」「とにかく普通科に」「理数は早めに見切りをつけて、有名大学を目指した方がいい」といった声に振り回され、自分にとって必然性のない学びを、希望も持てないまま強いられている状況が多く見られます。
今回の指導要領がここまで「好きを大事にする」「得意を伸ばす」と言っているのは、こうした構造がデジタル化を中心とした社会の変化の中で、はっきりとマイナスに働いているという認識があるからです。多様性のなさは、文化的・知的・社会的な創造、イノベーション、クリエイティビティを阻害します。そして多様性を排除した同質の中での競い合いは、勝者と敗者の深刻な分断を生んでいる。
「好きなことばかりやらせていいのか」「子どもを甘やかすのか」というご指摘をいただくのですが、そこが我々大人の腕の見せ所だと思います。例えば、ゲームが好きな子どもは本当に多いですよね。その中でゲームクリエイターになりたいと思った子どもにとって、コンピュータグラフィックスが主な仕事になる。その基盤となっているのが、高校で習う行列やベクトルなどの線形代数です。
「あなたが好きだということと教科がどう結びついているのか」それを大人として子どもとキャッチボールしながら見定めていく。そのために時間が必要だからこそ、カリキュラムをより重層構造化していこうという議論になっているのです。
井上: 先生方の役割も大きく変わっていくと思いますが、その点についてはどのようにお考えですか。
合田氏: 先生方の専門性に立ち返っていただいて、もっと自分の専門性にわがままになってほしいと率直に思います。数学の先生は、自分が生徒・学生だったときに数学が面白いと思い、その良さや面白さを次の世代に伝えたいと思って教師という仕事を選ばれたはずです。決して「大学への数学」をかざして「これが解けないやつはついてこなくていい」と選別するために教師になったわけではない。
私自身、高校生のとき行列やベクトルが何の意味はあるのかわからずに、大学の二次試験にあるからとにかく暗記しました。多分そこそこ点数は取れたと思いますが、私の人生にとって何の血肉にもなっていなかった。
でも今の若い人たちはデジタルネイティブです。デジタル化というのはある意味、世の中のあらゆる現象を数学が覆っているということ。数学の先生方には、この世の中を読み解いたり、新しい価値を生み出したり、世の中をリードしたりする上での最も重要なリテラシーを自分が担当しているのだという自負心と自信をお持ちいただきたい。若い人たちを鼓舞するような仕事になっていくのではないでしょうか。
先生方の仕事は、学習指導要領があり、教科書があってコマが割り振られているから授業ができているのだということではなく、自分が担当している教科の子どもたちの今とこれからの社会生活において果たす極めて重要な意味や意義を、子どもたちに売り込む「セールスパーソン」だと思っていただくことが大事ではないかと思います。
井上: 理系人材の不足や、理系×ジェンダーの課題(女子の理系離れ)についてはいかがでしょうか。
合田氏: 大正7年に旧制高等学校令において「高等学校高等科ヲ分チテ文科及理科トス」と定められてから約100年。人文学・社会科学・自然科学という学問分野のくくりは世界共通ですが、「文系・理系」という区分は日本にしかない仕組みです。これはぜひ乗り越えていきたい。
日本の15歳の女子生徒は、OECDのPISA調査で数学的リテラシーも科学的リテラシーもOECD諸国の中でダントツに高い。約4割がレベル4以上という好成績で、男子と比べて差があるわけではありません。ところが高校に進学して普通科の理系を選ぶ女子生徒は同世代のわずか16%、大学で理学部・工学部・農学部といったサイエンス系の学部を選ぶ女子学生は同世代のわずか5%まで減ってしまう。これは非常に大きな問題です。
井上: なぜそうなってしまうとお考えでしょうか。
合田氏: 一つは男性の保護者のバイアスがハードルになっているということ。そして高校に入るといきなり数学Ⅰの内容も進度も難しくなるので、「これができないなら理系に行ってもしょうがない」と消去法で文系を選んでいく。これはデジタルネイティブ、生成AIネイティブの今の子どもたちの理数の学びに対する潜在的な関心、言わばデマンド(需要)に決して合っていません。
今回、補正予算で高校改革に3000億円、大学の成長分野への転換に200億円を追加して1000億円、合計4000億円の基金を活用できることになりました。この投資で、高校生の半分が普通科文系で学び、大学生の半分が人文社会系で学ぶという構造を変えていきたい。
「なんとなく文系に行って、なんとなく社会科学系学部に行って、なんとなくサラリーマンになれば安泰だ」というこの社会のバイアスを大きく変えていかないと、社会にとっても個人にとってもワーストシナリオになっていくと思っています。
井上: 探究的な学びについて、様々な実践事例が増えてきていますね。私自身も渋谷区の探究的な学びに1年目から携わらせていただいており、その他全国各地でも変化の波を感じています。合田様はこうした動きをどのように受け止めていらっしゃいますか。
合田氏: 渋谷区の「シブヤ未来科」は素晴らしい取組で、井上さんに伴走していることに感謝いたしておりますし、大いに期待いたしております。元々、教育改革は小学校が盛んで、受験のある中学校から失速し始めて、高校で途絶えるというのが一般的なパターンでした。20年ほど前には、高校の必履修科目の未履修問題が発覚しました。日本史の教科書に世界史のカバーをかけて世界史をやっていたなんてことが、進学校を中心に全国で横行していた。そこまで高校の予備校化が進んでいたということです。
高校において、相当に総合的な探究の時間が取り組まれるようになったというのは、私からすれば本当に隔世の感があります。福岡県の城南高校や京都市立堀川高校のように四半世紀前から探究的な学びに取り組んできた学校も、また新しいフェーズに入って進化を続けている。本当にありがたいことだと思っています。
井上: 一方で、新卒の先生方からは「教育課程で探究について学んでおらず、現場で探究を教える側になるのは難しい」という声も聞こえてきます。教員になる前の段階でのケアやサポートについてはいかがでしょうか。
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