世界の選挙制度

2022年4月から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。アメリカやイギリス、ドイツなど、OECDに加盟するほとんどの国が成人年齢を18歳と定めているため、日本は世界の潮流に乗った形になります。

成年年齢の引き下げは、2016年に選挙権年齢が18歳に引き下げられたことが始まりです。若いうちから社会に参加してもらいたいというメッセージが込められている一方で、国政選挙における10代から20代の選挙投票率は、未だ40%に到達していません。

参考:総務省「衆議院議員選挙における年代別投票率の推移 」より

2021年に行われた衆院議員選挙で、10代の投票率は43.3%、20代にいたってはわずか36.50%でした。今年7月には参議院選挙も行われます。若い世代に興味を持ってもらうためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。世界の選挙制度と若い世代の動向について考えてみましょう。

◯インターネット投票ができるエストニア

バルト三国の一つであるエストニアは、世界で初めてインターネット投票をスタートさせました。

エストニアは、行政システムのオンライン化を推し進める国としても非常に有名です。2005年の地方自治体選挙でインターネット投票が初めて実施され、国政選挙(2007)、欧州議会選挙(2009)と次々に導入されました。2020年までに、計11回行われています。

インターネット投票が有効なのは期日前投票(10日前から4日前まで)で、選挙公式ウェブサイトから投票します。セキュリティ面も万全で、国民IDカードまたはモバイルIDで本人認証するほか、投票内容はブロックチェーンの技術などを使って守られます。さらには、投票毎に新しく投票システムを構築しします。システムのソースコードをプラットフォーム上で公開するため、誰もがアドバイスしたり、改善点を指摘できるそうです。

国会議員選挙(2019)の有効投票数の約50%がインターネット経由である一方、若者世代の投票率自体はさほど増加していないという指摘もあります。

◯投票に行くとソーセージが食べられる!?選挙は”お祭り”のオーストラリア

選挙=真面目というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、選挙自体を”お祭り”のように楽しむ国もあります。

オーストラリアの選挙は、まさにフェスティバル。投票所の周りには、コーヒーやカップケーキなど、さまざまな出店が並びます。特に人気なのは、ソーセージを挟んだサンドイッチだそう。美味しいソーセージが食べられる投票所をまとめた、専門のウェブサイトもあります。選挙とソーセージの関係について、オーストラリア前首相は「ソーセージの香りがなければ、オーストラリアの選挙はなりたたない」とメディアにコメントしたそうです。

また、オーストラリアは義務投票制度を採用しているため、18歳以上の国民全員は必ず投票にいかなければなりません。投票しなかった場合は、選挙管理委員会から違反通告を受け、正当な理由を示せない場合は、罰金が課せられます。さらに、有権者が通告を無視すると追訴され、高額な罰金を支払うことになります。もちろん罰則だけではなく、国民がいつでも投票しやすいようにあらゆる場所に投票所を設置したり、30ヶ国語に近い言語で案内を掲載するなど、ダイバーシティにも考慮しています。

オーストラリアの投票率は、常に90%を超えています。義務選挙制度が導入されたのはおよそ100年前ですが、時代のニーズや人々に楽しんでもらう工夫を凝らしながら、人々の生活に溶け込んでいるのです。

◯教育から政治に参加する機会を作るスウェーデン

教育的なアプローチによって高い投票率を誇るのは、やはり北欧でしょう。スウェーデンは義務投票制度を取り入れていないにもかかわらず、2002年以降の議会総選挙の投票率は80%を越えており、2014年の議会選挙の世代別投票率(18~29歳)は81%を越えていました。

スウェーデンの投票率の高さの理由の一つは、教育制度です。同国の義務教育課程では、政治に参加することの意義をしっかりと教えています。例えば、教科書には自分の意思を行動にして国に伝えることが重要だと書かれていますし、各政党の政策を調べる課題が出るほか、学年が上がると国会議員を学校に招いて討論したり、国会で大臣と議論するという機会もあるそうです。

特徴的なのは、18歳未満の選挙権のない学生が参加する「学校選挙」です。学校選挙は、実際の選挙に併せて開催されます。選挙は学校単位で行われますが、投票用紙や記入台など全て実物が用いられ、生徒などで構成される実行委員会が、投票所の運営や開票作業を行います。

学校選挙は、中央官庁である青少年・市民社会庁が所管となり、国を巻き込んだ一大イベントになっています。学校選挙の前には各政党の青年部が学校に赴き、生徒と討論するのが恒例行事となっていて、選挙結果は年代別に公式に発表されます。メディアや議員たちは、将来の有権者である子どもたちの意見を無視することはできません。

このように、政治と実社会の関係性、民主主義の大切さを若いうちから触れる機会を提供することによって、自国の未来についてしっかりと考えることができるのです。

自分の国の未来を考えてもらうために、各国は若者を巻き込む工夫を凝らしています。国としての施策はもちろんのこと、私たち一人一が「自分の意志で社会を変えよう」という強い気持ちを社会に伝えていくことが大切です。

●参考資料

若者に投票させたい? 隣国と豪州に見習え!

世界のインターネット投票(前編) ~オンライン選挙を進める国々の動向

ソーセージと選挙おいしい関係

豪州、選挙で大人気 「民主主義ソーセージ」370円

スウェーデンの主権者教育と政治参加

主要国における投票率―投票参加に影響を及ぼす要因と国内 外の取組事例―

中井遼,偶然と党略が生み出したインターネット投票 :エストニアによる世界初導入へと至る政治過程, 年報政治学, 2018, 69(2), pp.127-155.

カテゴリ:世界のSTEAM教育