日本の校則の成り立ちと世界の学校事情

最近話題になることの多い「ブラック校則」。服装が不必要なまでに厳しく決められていたり、規則に合わない生徒に対して理不尽な指導を行ったりするなどの行為が問題となっています。このように厳しい日本の校則は、どのように成立したのでしょうか。そもそも、教員にはどの程度まで指導することが認められているのでしょうか。この記事では、日本での校則の成り立ちと、アメリカ・イギリスでの校則や教員による生徒指導のあり方についてご紹介します。

日本の校則はどうできた?

日本では、文部省により「生徒指導の手引き」が作成された1965年ごろから学校での生徒指導の側面が強まってきました。このころはまだ校則による管理はあまり言及されていませんでしたが、1970年代ごろから校則による規律を中心とした生活指導が行われるようになりました。さらに1980年代には中高での荒れが問題となり、お辞儀の角度やスカートのひだの数といった細かい事柄まで定めた校則が定められるようになりました。

アメリカ:ゼロトレランスから寛容へ

アメリカでも、学校の安全を守るために厳しい指導が受け入れられてきました。しかし近年その弊害が指摘され、変化が起きています。

アメリカでは1980年代に犯罪管理の手法として「ゼロトレランス」が導入され、教育現場にも持ち込まれました。ゼロトレランスでは、あらかじめ定められたルールに従って指導が行われ、重大な違反に対しては停学や退学といった処置も取られます。その背景には、銃や麻薬の学校への持ち込みを阻止するという目的がありました。1999年に起きたコロンバイン高校銃乱射事件(同校生徒二人による乱射事件。生徒と教師計13名が死亡)も追い風になり、多くの公立高校で導入されました。

しかし、6歳の少年が昼食用に持ってきたナイフのために停学処分を受ける事例が起こるなど、硬直的な運用には批判もありました。また、黒人やヒスパニックの生徒が白人生徒と比べて停学・退学処分を受ける割合や日数が多く、教育格差に繋がっているという指摘もされています。


このような背景を受けて、2014年に教育省と司法省が合同で教育現場に対し生徒指導での人種格差是正を求め、各州でゼロトレランスから脱却する動きも出ています。カリフォルニア州では2014年に小学3年生以下に対しての「意図的な反抗」を理由とした停学・退学処分が禁止され、2012年に335,079件だった「意図的な反抗」を理由とした停学処分が2018年には60,000件以下まで減少しました。また、違反を厳しく取り締まるゼロトレランスとは対照的に望ましい行動を促進する「PBIS(positive behavioral interventions & supports)」という指導方針も提案されており、PBISを取り入れる学校が増加傾向にあります。

イギリス:明確に示された教員の懲戒権

日本では、教員が違反に対して制裁を科す「懲戒」については業務行為の一環として法的に認められています。しかしその範囲は曖昧で、指導が不適切であるかを判断する仕組みがないことが指摘されています。懲戒の権利と制限が明文化されている国の例として、イギリスの制度を見てみましょう。

イギリスでは、学校選択の資料として生徒の振る舞いが関心事項となっていました。これを受けて「2006年教育と視察法」が制定され、学校ごとに生徒の望ましい振る舞いを記した「行動指針」と違反に対する懲戒を明示することが求められるようになりました

これにより初めて、教職員による懲戒権が法的に明示されました。さらに2016年に教育省が発表したガイドブックにより、懲戒についてより明確に示されました。これらの法律や指針では懲戒の権利が明示されている一方で、その権利の制限についても明確に示されています。

ガイドブックの中では、懲戒を与える条件として

(1)懲戒の決定は有給職員によって行われること

(2)懲戒の決定と実行は学校の管理下で行われること

(3)懲戒は人種、障害、人権などを配慮した上で合法であり、いかなる状況でも合理的であること

が、定められています。また、学校外での指導・懲戒がどの範囲まで教職員に許されているかなど、具体的な状況をあげて説明されています。さらに、禁止されている体罰が行われるなど懲戒が適切でなかった可能性がある場合、複数の外部機関によって客観的に評価することも求められています。


このように、厳しい指導が受け入れられていた他国の学校でも、生徒の人権が守られる方向へとルールの変革が行われてきています。

日本でも、校則や生徒と学校の関係を見直す動きは出ています。認定NPO法人カタリバが2019年から始めたルールメイカー育成プロジェクトでは、生徒が主体となった学校の校則の見直しを推進しており、経産省による「未来の教室」実証事業にも採択されています。モデル校として参加した広島県の安田女子中学高等学校では、学年を超えたメンバー約20名が中心となり、学内外の関係者との対話を重ねながら放課後の立ち寄りなど3つの校則について見直しを実現させました。

このような動きはまだ一部の学校に留まりますが、今後広まっていくかもしれません。日本の学校は、これからどのように変わっていくでしょうか?

参考

大津尚志『高校の「校則」に関する一考察』

小池由美子『生徒指導と校則 -教育行政の生徒指導政策の変遷に関する考察-』

宇田光『米国における学校安全への対応(3) -ゼロトレランスと停学・「隔離」の抑制-』

カテゴリ:世界のSTEAM教育