中国では、大学入試改革を受けて教育事情が変化しつつあります。
中国の大学入試に使われるのは、普通高等学校招生全国統一考試(高考)です。日本のセンター試験にあたりますが、2次試験に当たるものはなく一発勝負の試験です。農村の低所得世帯出身の生徒にとって大学進学は人生を変える唯一のチャンスでもあり、高考の点数のみで進学できる大学が決まるため激しい受験競争が行われてきました。しかし2010年以降、総合的な選抜への改革が進められてきました。
さらに、2017年に教育省が発表した初等義務教育の理科のカリキュラムでは、分野横断的な学習方法に言及し、STEM教育の実践を提案しています。
このような流れを受けて、親や生徒のSTEAMへの需要は高まり、学校教育にもSTEAMを取り入れる動きが進んでいます。2018年、中国で初めてのSTEAMの小学校向け教科書が出版されました。北京師範大学の教授と第一線の教師・校長によって作られ田母野で、課題解決や思考の発達に着目した内容です。
しかし、公教育でのSTEAM導入は困難も伴います。大きな壁の一つは、教員のスキル不足です。公立学校では教師の理解不足により適切なプログラムが実施されなかったり、教室の秩序を保つために生徒同士の交流や考える時間が削られてしまいます。また、教育・研究への資金面での支援も限られ、公教育へのSTEAM導入はなかなか進みません。
そこで大きな役割を担っているのは、民間の教育サービス企業です。
中国では、教育市場の成長が見込まれています。Deloitteが2018年に発表したレポートによると、2018年から2020年の間に中国の教育市場は約2.68兆元から3.36兆元に成長すると推計されています。
民間企業の関わり方として挙げられるものの一つが、塾です。2019年3月、教育省は塾や学校における生徒への重圧を軽減するよう求める通知を出しました。これを受けて伝統的な戦略の成績向上はもはや売りにできなくなりました。
そこで親や生徒の需要が高まっているSTEAMへと軸足を移したのは、中国各地で学習センターやオンライン教育プラットフォームを運営する教育サービス大手の好未来(TAL)です。
好未来では小学生向け算数のプランを変更し、より生徒の能力を引き出すため、実践的な教え方や交流を増やしました。また「文化」の要素も入れ、授業前の導入で、生徒がコースの実用性を感じられるようにしたり、プロジェクトベース学習(PBL)も取り入れ、知識を探求し、思考力を使う練習ができるようにしたりしています。評価の面では、成績重視の従来の方法をやめ、生徒の能力に着目した多角的な評価を行います。
塾に加えて成長しているのが、オンライン教育です。都市と農村で教育資源の差が大きい中国では、場所を問わず使えるオンライン教育は格差解消への道の一つでもあります。
オンライン教育は2011年から2019年までの間に5.7億元から2720億元に成長しています。またDeloitteのレポートでは、2020年のオンライン教育市場のうち44.7%をK12とSTEAM教育が占めると予想されています。さらに、新型コロナによる自宅待機期間は、教育省が学校閉鎖中の学習継続のために学校がインターネットプラットフォームを活用することを推進し、eラーニングやバーチャルクラスを体験する絶好の機会となりました。
このように点数重視の大学入試からの脱却に向け教育事情が変化している中国は、同様に大学入試改革が行われている日本とも重なる部分がありそうです。
Equal Ocean “The Trend of STEAM in China’s Education Industry”
Seeking Alpha “China’s Online Education Market: Lower-Tier Cities Offer Growth Prospects”
(文:佐藤琴音)