アメリカ・ペンシルバニア 主体的に学ぶ科学教育へ

アメリカ北東部のペンシルバニア州は、鉄鋼業によって栄えてきました。しかし近年の産業は大きく変わり、天然ガスの採掘や先進的な製造業へと移っています。

そんな中、ペンシルバニア州のK-12(幼稚園〜高校)向けの科学スタンダード(具体的な教育課程を定め、学校のカリキュラム作成や指導の基礎となるもの)は、2002年から変わっていませんでした。しかし現在、21世紀に求められるスキルを育てることを目指した新しい科学スタンダードが制定へと向かっています。

2019年9月、州教育委員会はペンシルバニア州教育局に州の科学スタンダード(具体的な教育過程を定めたもの)の更新開始を指示しました。1000人近い市民もフィードバックセッションなどによって情報提供に関わり、70人以上の専門家による内容作成委員会・運営委員会によって新スタンダードが作成されました。そして州教育委員会は今年9月9日、委員会が作成した3セットのスタンダードを承認しました。

現行のスタンダードは「科学と技術」と「環境と生態学」という二つから構成されていますが、新しいスタンダードは科学、環境、生態学、技術、工学に関する統合スタンダード(幼稚園〜5年生)、科学、環境、生態学に関する統合スタンダード(6~12年生)、そして技術、工学に関するスタンダード(6~12年生)から構成されています。

新スタンダードでは、「生物」、「化学」のような区分はされていません。その代わりに学年ごとにカバーする中心概念(「エネルギー」、「生態系」など)が定められています。さらにこの中心概念は、分野横断的な8つの概念(「原因と結果」、「構造と機能」、「安定と変化」など)でつながれています。この分野横断的な概念には、ベースとなった既存のフレームワークにもともとある7つに加えて「持続可能性」が追加されています。

新たなスタンダードで重視されていることの一つは、将来に備えた科学、環境、技術に関する「リテラシー」を持った市民を育てることです。ここでの「リテラシー」は、知識を得るだけでなく得た知識を現実世界で応用することも示しています。新スタンダードの内容もそれを体現し、生徒が主体的に行動することが中心になっています。

例えば「エネルギー」の分野を見ると、幼稚園レベルでも「地球表面に太陽光がもたらす影響を観察する」、「材料や道具を使って、日光の熱を遮る構造物をデザインして作る」といったことが記されています。さらに5年生では、「モデルを使い、動物の体を作る食べ物はもともと日光のエネルギーから来ていることを説明する」というように、より複雑な内容になります。中学・高校レベルになると「科学的な規則を用いて熱エネルギー変換を最小化、最大化させる機器を設計、制作、テストしろ」というふうに、さらに抽象的な事柄について扱うようになっていきます。それでも、モデルや図を作成しての説明や観察、制作といった主体性を求める内容であることは一貫しています。

また、これまではあまり詳しい記述がなかった気候変動について中心概念に「天気と気候」として含まれたり、しばしばアメリカの教育で論争の的になる進化論についても詳しく扱われたりと、現行のものとは様々な点で異なるスタンダードになっています。

今後、法制上の審査などを経て、州教育委員会が最終的なスタンダードとして認めるかを決定します。

参照サイト

Pennsylvania Department of Education "Pennsylvania's Science and Technology and Environment and Ecology Standards”

berks County Intermediate Unit "PA Science Standards Recommendations"

WSKG "PA Hasn’t Updated Science Education Standards Since 2002. New Plan’s First To Acknowledge Climate Change"

(文:佐藤琴音)

カテゴリ:世界のSTEAM教育
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