今回、富山先生にお話を頂くきっかけになったのは、先生が協力をされている、中高生国際ロボットチーム『SAKURA Tempea』のロボット完成披露会です。
SAKURA Tempestaは千葉工業大学津田沼キャンパスを拠点とし、世界中から94,000人の中高生が参加する世界最大級のロボット競技会、FIRST Robotics Competition (通称FRC)に参加しているロボコンチームです。
先生は、中高生がロボット制作で完成まで学べる場所の提供や、本物のロボットを作り上げる研究の支援、情報・知識の提供をされています。本物に触れて学ぶという教育方法や、先生が取り組まれているAI、ロボティクス教育とSTEAMとのつながりについて、お話を伺いました。
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 国際連携主管
富山健氏プロフィール
1949年長野県生まれ。東京工業大学制御工学科卒、カリフォルニア大学ロサンゼルス校システムサイエンス学科にてM.S.(修士課程)およびPh.D.(博士過程)取得。テキサス大学エルパソ校、ペンシルバニア州立大学にて合計10年余教職に就く。その後、青山学院大学機械工学科に移り、後に情報テクノロジー学科創設に加わった。また千葉工業大学での未来ロボティクス学科創設に関わり、現在、千葉工業大学未来ロボット技術研究センター研究員。専門はロボット、特に人間とロボットとの関わりに興味を持ち、ロボットにおける擬似感性の研究を行う。また、教育にも関心が深く、創設に関わった2学科のカリキュラムは「習うより慣れろ」を合言葉に従来型の理論ファーストではなく演習・実習ファースト型を実行している。この経験を生かし、現在ベトナム国家大学におけるロボット学科創設に関わっている。また、在米経験で培った英語プレゼンテーション作法を日本機械工学会(アカデミック・ブートキャンプ)、日本感性工学会(英語力強化セミナー)をはじめ様々な機会に教えている。ジャーナル論文、国際会議発表など多数。
未来ロボティクス学科では、学校の授業に関わるものだけでなく、ロボットに関する勉強・設計や製作の指導・実習などを、私だけでなく、大学院生や学生が下級生を教えています。学生が教えるということは、教えられる側が学べるのはもちろんのこと、教える側の学生もまた勉強になる時間です。このようなアプローチを通して自然と、次世代教育を学校や教科書だけではなく実践の場でも行なっています。
今、在職しているfuRo(未来ロボット技術研究センター)は、かつての教え子が所長をしているんですよ。fuRoでは私の弟子たちが、授業で数千万円の本物のロボットを学校に持ち込んだり、ロボットの解体ショー行ったりしたこともあります。また、民間の企業と協力し合って、本物のロボットと子どもが繋がるような時間を作っていました。そこでは、高校生には2日間でロボットを製作させる経験や、小中学生にはロボットに触れる学習もしていました。目の前に、”本物のロボットがある”、”ロボットを作る”、そんな本物を通しての実体験が子どもたちの中にワクワク感や”知りたい”、”学びたい”、”どうなっているんだろう?”という好奇心を抱かせ、学ぶ意欲に繋がると思います。こういう機会が貴重だと思います。
その所長がね、「好きなことしてください」と言って、別の大学にいた私を呼び寄せてくれたんです。そんなこと言ってくれるの嬉しいですよね。『自分を超えていく存在を育てる』のって楽しいでしょ。先生方には、これを喜びとしてやって欲しいですね。
私の授業では、介護現場まで学生たちが学びに行き、現場をみて、そこで自分自身に何ができるかを考えさせるという、社会実装演習を大事にしています。その際には、デザイン学科、プロジェクトマネジメント学科との学科の枠を超えたチームを編成することで、教科横断的な学びを実践しています。さらに、現場での調査・企画・実習・制作を経て、最終的には企業に向けてのプレゼンや開発・生産まで、つまり商売にするところまで考えるという指導を行なっています。
AI・ロボティクス教育では、教科書以外での学び、つまり実習が必要不可欠です。ほとんどの教育現場では、いまだに理論ファーストな教育がされています。つまり、それぞれの分野で必要な数学や物理などの理論を先に教え、その応用としてAI・ロボティクスを教えるというやり方です。このやり方は理論がなぜ必要か、どのように使われるのか、などの知識を持たない学生には学習意欲を削ぐ結果となってしまう。これが昨今の理工離れの一因でもあると考えています。
学生本人に『学びたい気持ちを持たせる』ことが何より大切だと思っています。
ロボットを作り上げるための方法、課題、そのために何が足りないのか、何を学ばなければいけないのかを、学生自身が考えれば、自然と知識を身につけて学んでいきます。私達はあくまでもヒントをあげるだけです。
私達の未来ロボティクス学科の教育方針は”習うより慣れろ”です。
新1年生にはまず、ボードPCとモーターとセンサーの3点と、サンプルのプログラムを与えます。それを組み立てるというのが授業です。1人1台のロボットを作り上げます。お金も時間もかかりますし、他にはない方法だと思います。工専や工業高校出身の学生は1%程度で、ほとんどが普通高校からの新入生です。そんな学生たちが半年程でロボットを作り上げます。
そこでは、どうしたら回るのか、どうしたら早く動くのか、学生自身が試行錯誤しながら本物のロボットを組み立てます。この作り上げる過程の中で出てくる”なんで?”という疑問や成功体験が学びに繋がります。
この時はまだ、ロボット製作には必要なプログラミング言語(C言語)などは教えていません。それは後期に教えます。しかし、この本物を通して実践しながら学ぶということを大切にしています。
現在は、教壇を離れ、自身の関心のあることへの研究や外部への教育指導などもしています。日本全国の高専が毎年開催する社会実装教育フォーラムの審査員を勤めたりもしています。このような取り組みで、本物を通して実践しながら学ぶことを体験できる子どもたちがいます。
教え方には技術が必要で、その技術を教える側の先生が学ばなければいけない。”教える”はとても難しく、学生には「キミならどうする?」と聞きます。学生本人に考えさせます。これが大事なんです。私は、直接は教えません。でもこれがなかなか難しいですが、指導する他の先生方にもしてもらいたい。
また、教えるというプロ意識が必要で、教育のプロという自覚を教育者自身が持って教えているのかどうかが問われます。
学ぶということは、学生自身が知識を自分で学び、身に着けるものと思っています。教員は、学びたいという気持ちを作らせることだと思います。
ただ単にロボットを作る技術を教えるだけではなく、いかに社会に活かせるものなのか、学生たちにビジネス視点も含めて考えさせるようにしています。
その過程では、怒られること、失敗などもあり、その繰り返しですが、”その怒られるという経験”が非常に大切だと考えています。
学生たちは、失敗して当たり前。失敗での苦しい時間、これが次に活きてくるわけです。一人前の人を育てるには、一人前に扱い、本気で対話をするようにしています。
STEAMの必要性は、皆わかっていると思います。私は、ロボットを通して、教えてきましたが、先生方もそれぞれにあったもので教えていけばいいと思います。
本物のチカラは、凄いですよ。学生や子どもたちの中に湧く”このロボットはどうして動くのか、この関節部分はどうなっているのか、どうしたらもっと早く動くのか?” というそんな疑問が、物理工学やプログラミングなどの勉強へと繋がっていく。本物を使って学びをする、これがSTEAMだと感じます。
ロボット研究においてもArtは、重要と考えています。これまでもデザイン学科の学生なども交えて、一緒に研究に取り組むということもしていました。(ちなみに、私の弟子たちはfuRoで新しいロボットを創り出すとき、最初からデザイナーの方と協働しています) STEAM教育という言葉は使わなくとも、教科の枠を超えた横断的な学びになっていたと思います。
STEAM教育が全員に合う訳でもないし、今の一斉教育がいいという訳でもない。人間皆、違いますよね。みんなが一緒でないといけないのでしょうか?みんな違うじゃないですか。
”全員が一緒”って考え方が、良くない。私の学生も、卒業後の進路は様々です。一人ひとり全然違う。色々な人がいて良いと思います。そのために、人が必要。教える側に余裕がないと教えられない。みんな違うのに、小学校なんて、一人の先生で40人近くの子どもたちをみているなんて、それはとても難しいことだと思います。
教育のアウトソーシングも考えていかなければいけないのではないでしょうか。
先生のお話で印象的だったのは『本音』、『本気』という言葉。先生が教育者を続けて来られた中で大切にしてこられた信念がインタビュー越しにこちらまで伝わってきました。”学びたい!”という自発的な気持ちを学生本人の心に芽生えさせていくことの重要性。『本気で先生が教える』『本物を使って、学ぶ』『本物・現場に行き、生の声を聞いて学ぶ』……大切なポイントがいくつもありました。
自発的な思いが学生や子どもたちの中に生まれているとき、分野を固定してしまうのではなくて、科目を超えて自ら学びたいことを学べる環境がやはり必要です。
今回のインタビューでは、先生の長年の豊富な研究活動を通して実践されてきた教育指導に対するお考えを伺いました。その中には、まず現場に立つ・トライしてみる・失敗を恐れない・多様な知識スキルを持った人材との協働など……自らSTEAM教育で重視される視点を実践されていることが伝わりました。
富山先生、ありがとうございました。