2022.10.04│STEAMレポート

「アメリカ・アウトリーチ活動現状〜FRCについて〜」 中嶋花音さんインタビュー

高校時代、留学先の学校で世界規模の国際ロボット競技大会である FIRST Robotics Competition と出会い、帰国後日本で初めてのチームを設立。その後3年連続生徒として大会に出場し、2019年以降はメンターとしてFRCに参加。日本でのFRCの普及を含むSTEM/STEAM教育の普及の活動もされている中嶋さんに、社会での実践力を養え、ただのロボット製作競技会というだけでないFRCの魅力や現在生活するアメリカの大学やアウトリーチ活動の現状などについてお話を伺いました。

中嶋花音さん プロフィール

2016年からメンバーとして参加し、2019年以降はメンターとして FRCに参加。Regional Chairman's Awardを3回受賞、FRCの新人賞3つを全て受賞し、FIRST Dean's List Finalistに選出されたほか、FIRST Championship(FRC世界大会)に3年連続で出場。2017年 FRC Team 6909 SAKURA Tempestaを設立。2018年〜 NPO法人青少年科学技術振興会 FIRST JapanにてFRC委員会委員を務める。2019年 米国マカレスター大学に入学。

(STEAM CAREER MAGAZINE  Vol.1から抜粋)


ー高校時代にFRCに参加し、その後アメリカの大学に入学されましたね。以前にもお話しを伺っていましたが、今はどんな生活ですか?アメリカの大学はどんな感じですか?ー

9月からリベラル・アーツ・カレッジのマカレスター大学の4年生になります。大学での主専攻は神経科学を選択しました。副専攻は心理学と生物学です。あと、ダンスは趣味感覚になりますが、興味があり副専攻に選びました。(以前、伺ったお話しはコチラ)


リベラルアーツの大学ですが、その中に神経科学の分野の学科があります。
リベラルアーツの利点としては専攻外の科目含め、様々なことについてクオリティの高い授業を受けられるということが一点あります。また、私の大学はカレッジなので、院生がいません。総合大学と比べると大学院がついていないということでリサーチなどの面でその点がデメリットとよくとられがちですが、実際はリサーチ・アシスタント制度が学部生の頃からあるので、メリットと言えると思います。

私の神経科学の分野で卒業するには、最低150時間以上のインターンシップ(リサーチ)が授業外で必須なため、私もやっています。新型コロナウイルスの影響で私の大学内で実施するのは、難しい状況だった為、インターン先は各自で探して応募したりしなければいけませんでした。

日本のインターンシップについては詳しくわかりませんが、アメリカの大学ではよくインターンシップを行っている生徒向けの給付型のファンドがあります。だいたいフルタイムで1週間に40時間働くと10週間で5500ドル、日本円で約80万円(2022年9月のレート時点)です。

FRCでも評価対象になっているアウトリーチ活動やボランティア活動は、大学に入ってからもほとんどの学生が行っています。理由としては大学以外での活動も就職や大学院出願の際に評価されることがあげられます。就職の為の履歴書にも書く欄があるくらい重要です。

©︎FIRST  Robotics Competition
【大会の様子 FIRST のWEBサイトより   ©︎FIRST  Robotics Competition

ーFRC、FIRSTに関して教えてもらえますか?また、アウトリーチ活動、FRCに参加しての経験など、印象に残っていることはありますか?ー

そうですね。まずFIRST(ファースト)は、アメリカのNPO法人です。
FRCは、そのFIRSTが主催する15歳から18歳の若者が参加する世界規模の国際ロボット競技大会のことを言います。ただのロボット製作だけでなく、アウトリーチ活動や資金援助、製作の場所の確保など様々な実践的な要素も含まれている大会です。
大会では、基本は英語でコミュニケーションできなければいけないので、ロボット製作だけでなく、まずはコミュニケーション力と英語力を磨く必要があります。

地区予選を突破して、初めてアメリカ本土で毎年開催される世界大会に出場できます。日本からの参加チーム数が少ないために、日本では地区予選大会が開催できず、オーストラリアやハワイなどの他の地域に行かなければ行けません。

FRCの世界大会に行くと、FIRSTが主催する他のプログラムの世界大会も同時開催されているため、小学生の低学年向けから高校生までの幅広い年齢層の選手たちが世界中から来ています。また、競技以外にもMITなどの米国トップ大学がブースを出していたり、NASAやDisneyを始めとした多くの企業が集まったイノベーションフェアや出場チームなどによるカンファレンスが開催されています。カンファレンス内容は様々で、チーム名に関するものから、STEAM教育の普及についてや、ジェンダーギャップについてなどさまざまな分野のものがあります。

よくチーム内で何人かが代表して参加し、そこで学んだことをチームに共有して、これからの活動に繋がるように、どのようなことができるのかと話し合ったりもします。

『First LikeA Girl』という組織は、FIRSTのチームが世界各地から集まって構成されている組織で、ジェンダーギャップの解消や、STEM分野における女性の割合増加を目的に、アウトリーチ活動等を通してどう行動できるのかというところをFIRSTのコミュニティ全体に普及しています。このように学生自ら問題意識をもって行動に移していける団体を知ることが出来たり、そもそも出会えるのもFRCに参加したからだと思います。

過去に参加したカンファレンスでは、「ジェンダーギャップの解消は難しい課題ですが、現状のままではなく、より女性をターゲットにした取り組みをもっとやっていかないとダメだ」とメンターをされていた40代の男性から意見されているのを聞く機会がありました。
日本ではこういった課題に関して年代を超えて多くの人と議論をする機会はかなり少ないですし、中年の男性がこのような意見をされているのは中々見ないと思います。

このように日本にいるだけだったり、チーム内で話をしているだけでは出来ない経験をしたり、新しい視点を増やすというのは難しいので、FIRSTに関わって多くを学べたと思います。

FRCに参加したことで、企画・運営など、学校では経験できないことが多く経験できました。コミュニケーション面も含めて普段関わらない色々な立場の人と関わることができたのもその一つですし、大会までの課題も多岐にわたってあるので、チームで協力して一つずつクリアしていくという難しいですが楽しく、本当に多くの実践的な経験ができました。

ー各チームにいる「メンター」というのは、どういう役割の人ですか?ー

FRCに出場する各チームにメンターの存在は欠かせません。メンターとは国内では保護者、大会では監督という感じです。しかし、FRCの場合は保護者というより、メンバーの自主性を尊重して、メンバーの活動をサポートする人ですね。専門分野に別れていて、技術サポートとか運営サポート、マーケティングなどさまざまです。

また、メンターはボランティアです。学校の先生がなる場合もありますし、地域やコミュニティベースのメンターもいます。もちろん、子どもがFRCに参加したくてチームに入り、その周りの大人を引き込んで彼らがメンターになることもあります。そこから少しずつ広がっていき、近隣の企業がメンターにつくということもあります。アメリカの多くの場合は、企業がCSRの一環で、自分達の本社や支社が地域と繋がりを深めるためにメンターとして参加しています。

Team 6909 SAKURA TempestaのFRCに出場したロボット

ーちなみに、日本との教育の違いはいかがですか?評価、実践型など何か特徴はありますか?ー

FIRSTのようなSTEAM教育がアメリカで人気があるのは、まず入試に直結しているからだと思います。アウトリーチ活動を通して、「自分のやりたいことに近づいているのか」「学校外で、何をどのように学んだのか」、そして「自分が持つ知識やスキルをどのように活用できているのか」が評価されます。日本のような、全体テストのようなものはアメリカにもあります。そこでは読解力と数学力が評価されますが、近年スコアの提出がオプショナルの大学も増えています。

特にエッセイはアメリカの入試には必須です。全大学に提出するものから、志望する各大学からのエッセイ課題もあります。いくつかテーマがありますが、自分のことがわかっていないと書けないテーマのものも多くあります。私の大学の場合は、「あなたはどのように大学にとって利益がありますか?」という自分自身に関して深く考えるきっかけになるエッセイがありました。

毎年夏頃に、テーマが発表されて年末、年始ごろに提出をします。じっくり考える時間がある分、自分と向き合う時間にもなりました。日本は受験勉強で必死になりますが、このように自分と向き合う時間はないと思います。

日本では、専攻を決めて入学しなければいけませんが、アメリカでは専攻が決まっていなくても普通です。2年生の終わりまでに決めれば問題ありません。入学してから、色々と学び、経験したことを踏まえて決定できることは大きなポイントです。これは日本とアメリカの大学の大きな違いだと思います。
もしも日本の大学に入学してから専攻を変えたくなったら、一度退学しなければいけないことにも繋がりますから。

高校の時に1年間ミネアポリスに交換留学したことがあります。この留学で、様々な経験ができました。
私は中高一貫の私立高校に通ってました。通学する生徒も住んでいる地域がバラバラだったのもあり、地域との関わりやボランティア活動などとは縁がありませんでした。留学先でボランティア活動を多く目の当たりにしました。何か私にもできることがあるのではないかと考えるようになったのはここからです。

FRCを知ったのも、この留学で友人に誘われて参加したのがきっかけです。
また、国際バカロレアプログラム を展開していたその学校では、暗記に重点を置くのではなくて、学んだことを中心に自分でプロジェクトを宿題の一環として作る事が多かったです。知識を詰め込むだけでなく、その学んだ知識の活用がいかに重要かを学びました。

ーアウトリーチ活動に関する、ご家族の反応はいかがでしたか?ー

父は自由にさせてくれていました。母は、「迷惑かけるからやめて〜」という感じで言われたことがあります。ロボットというのもあって危険も伴う部分もありますし、多額の資金を集めないといけないという面で、私の母だけでなく、心配な保護者は多いと思います。私は押し切り参加しました。

大会前の忙しい時期や作業に夢中になって遅い時間まで取り組んでしまってメンターが促した後もなかなか帰宅しないメンバーもいました。
そんな中でこの活動が楽しくて夢中になるあまり、学校との両立がなかなか難しかった時期もありましたし、これはどのメンバーにも言えることだと思います。

ーFRCについて、今後の課題や展望はどのように考えていますかー

FRC参加国の中には、国レベルで支援している国も多数あります。実際に台湾では、政府からお金が出ています。台湾の教育委員会や政府上層部の方々に集まってもらいFRCチームが話をする機会があり、FRCを知ってもらうところからのスタートでした。
本当に1からのスタートでしたが、政府からの支援があったことで、台湾で一番最初にできたチームがワークショップとして台湾中の高校生にFRCのロボット制作や、組織運営のノウハウなどを教えるワークショップを開催などをすることもできていました。アメリカでも、州政府や教育委員会が率先して支援をしているからこそほとんどのFRCチームが公立の高校で部活動として作られているという実態があります。他の地区大会を開催できるほどFRCが普及している国や地域も同じ場合が多く、やはりトップダウンの流れを作れることがとても効果的で、学校がやらなければならないという流れを作っていくのが、これからの日本におけるFRCを始めとしたSTEAM教育の普及をしていく上で、組織基盤構築の一番の要だと思いますし、FRCに参加するとメリットが大きいという状況を作り出しているのは重要なことだと思います。入試に直結するだけではなく、オーストラリアでは、FRCに参加することで大学の単位取得につながるという制度もあります。

FRCに参加するには、資金、活動場所、技術メンターなどの確保という課題があります。それを解消するには、行政からの支援がないと厳しいです。

国レベルでの利益を考えたり、人材の底上げという課題もあると思います。
どのようにしたら日本にあった方法で、普及していくのか。地区大会の開催ができるほど多くの参加チーム数を確保できるのか。参加したい学生の活動の場、メンターや管理する側の人材など、様々な課題を考えていかなければいけません。

課題は山積みで、真っ暗な道ですが、今、このタイミングでチャンスを逃してしまわないように、未来のために何ができるのか取り組んでいきたいです。