GIGAスクール構想のさらなる推進とSTEAM教育の重要性〜文部科学省 板倉寛氏〜

2021.07.19│STEAMレポート

文部科学省が2019年に打ち出した「GIGAスクール構想」によって、97.6%の自治体で端末整備が完了しました。(※2021年3月末時点) いよいよ教育現場でのICT端末の活用が全国的に本格スタートします。今回はGIGAスクール構想のさらなる推進と共に、各ご講演等でSTEAM教育の重要性も説かれている、文部科学省の板倉氏にお話しを伺いしました。※肩書は2021年7月当時

板倉寛氏 プロフィール
文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課長 /(併)学びの先端技術活用推進室長(併)GIGA StuDX推進チームリーダー
1999年文部省(現文部科学省)入省。体育課、学校健康教育課、教育課程課係長、内閣官房副長官補室参事官補佐、島根県健康福祉部少子化対策推進室調整監、同県教育委員会総務課長、特別支援教育課課長補佐、大臣政務官秘書官、初等中等教育企画課課長補佐、在英国日本国大使館参事官(外務省出向)、文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室長、初等中等教育局企画官などを経て、現職。

学びのDXが探究やSTEAMの基礎に

GIGAスクール構想で全国のほぼ全ての学校に1人1台ICT端末が整備されました。しかしながら、まだ何から取り組めば良いのか分からない学校関係者が相当多くいらっしゃると思っています。それも無理はありません。自分の経験で考えても、私が仕事を始めた1999年は職場における1人1台が始まったばかりでしたが、当初はメールすらほとんど使用しない人も多く、仕事の依頼を対面でしないと怒られたような時代を経て、ほぼ全ての世代が仕事で必要な機能を使いこなせるようになるのに20年近くかかりました。教育現場でのICT活用が浸透しきるのにも一定の時間を要するはずです。

文科省では、誰もがはじめの一歩を踏めるような、ボトムアップのサポートを大事にしたいと思っています。現在はICT端末も格段に使いやすくなっているので、「まずはやってみよう!」という気持ちを大切にしていただきたいです。そうした学びのデジタル化が、探究的な学習やSTEAM教育のような学習活動の基盤にもなると思います。

デジタル化で先生方の事務負担を軽減

学校の先生方に対しては、デジタル化によって業務の効率化が相当程度可能であるということを見せていくことが重要だと思っています。

たとえば個人面談等の日程調整では、これまで紙で行っていたものをデジタルフォームに変えることによって、紙の印刷・配布・回収・整理という手間が格段に減ります。やり方を習得するまでは一定の時間がかかりますし、初めてのことでハードルもあると思いますが、一度覚えたら後はずっと楽になり、これからも続く事務作業の時間をぐっと削減できます。また、その他の生徒向けアンケート等にも簡単に応用できます。まずは、身近な手作業をデジタル化することから始めてはいかがでしょうか。

そうした先生方の手助けになるように、文科省では特設ホームページStuDX Styleやメールマガジンを運営しています。多くの活用事例、特に初歩的な取り組みを掲載していますので、是非参考にしていただければと考えています。

現場の声を大切に。教育現場経験者多数のStuDXチーム

私がチームリーダーを勤めているStuDX推進チームでは、教員経験のある8人が新たにチームに加わりました。「教育現場にデジタル化の果実を還元していきたい」というメンバーの強い気持ちをいつも感じています。

教育委員会の皆さんに対しては、こちらから積極的にコンタクトを取り、丁寧に受け手と共通理解を図り、提案もしていくプッシュ型のスタイルを大切にしています。従来の電話でのコンタクトだけではなく、オンライン打合せの形をできる限り設けることで複数人の担当者の声を一度に聞けるようになり、組織としての共通理解も図りやすくなり、連携もスムーズになってきています。

現場からも様々な声が直接届いており、手応えを感じています。自分の地域のスタイルに特化したStuDX Styleのようなサイトを作ろうとしている地域もあるようで、そういった積極的な声が届くのも嬉しいですね。

日本の教育が良い方向に変わっていくには。STEAM教育の捉え方

日本の教育がさらに良い方向に変わっていくためには、先生方のマインドだけでなく社会的な合意形成も非常に重要です。学校も社会全体も変わっていくことで初めて歯車がうまく回り出すと思っています。その一方で、今までの日本の教育のコア部分は引き続き大事にしてほしいとも思っています。

特に中山間地域や離島においては、まだ社会全般や一般家庭でICTが有効に活用されていない地域も多く、GIGAスクール構想によって、学校がその地域におけるデジタル最先端としての場となり、学校から地域社会にデジタル化を促していくことになるケースも出てくると思っています。中山間地域や離島では、豊かな自然環境や個性ある伝統文化、子育てのしやすさ等といった強みを持っており、ICTを活用し全国や世界の様々な人々とつながることで、これまで弱かった人的ネットワークの多様性を確保できるようになり、より多くの人々にとっても魅力的で持続可能な地域にすることができるという感覚を持っていただきたいですね。そして社会全体でそれを応援するような流れまで導けたらと思います。特に中山間地域や離島の生徒の皆さんには、自分の目の前の世界でICTが重要とされていなくても、これからの社会はどうなっていくのか、自分はその中でどんな人生を送り、社会の担い手となっていけるか。自分の強みは何で、どう生かしていくかをイメージして欲しいと思っています。様々なものを巻き込んで、社会全体でこれからは実社会に開かれた探究的な学びが重要なんだという方向に持っていく必要があると強く感じています。今注目されている、STEAM教育はアルファベットが並んでおり、なじみにくかったりする点もあるのかもしれませんし、STEAMの中でもどこを重要視していくかは一人一人答えが違ってくるだろうとも思っています。STEAM教育の名称にこだわるより「広く探究的な学びを重視していく」というスタンスを取っていけば、結局は、STEAM教育の目指す本質に近づくように思います。

中高生の皆さんへ

中高生の皆さんは生涯に渡って自分をアップデートできる基礎をつくることが大切だと思います。最近は人生100年時代と言われますが、皆さんの約半数以上が100歳以上生きるという推計もあります。受験はもちろん大事な目標になるでしょうが、長い人生の中でそれをゴールにするのではなく、自分という人間がどうありたいか思い描くこと。それに対して、色々な困難があってもそれを糧に成長していく、しなやかさ、レジリエンス(resilience)を大切にして、自分のなりたい方向に持っていくことが大切だと思います。

ほとんどの教科は大学の教育内容等に繋がっていて、どんな専門分野を学ぶにあたっても教科教育は基礎となり基盤になります。そして得意不得意はあって当たり前なので、テストの点数で一気一憂するのではなく、何がわかっていてわかっていないのかも客観的に分析することも大切です。中学生までは、自分自身の力で学びをコントールすること、高校生以降では、人生の自立を目指して取り組んで欲しいですね。

学校の先生方へ

先生方には、まず今まで積み重ねてきたことに誇りを持って欲しいと思います。海外と比べても日本の教育には素晴らしい部分がたくさんあります。都市と地方の公立校での学力差が少ないことも世界的に見ると珍しいことですし、当たり前に取り組んできた清掃文化や利他の心を育む教育は他国から見ると驚かれることもあります。

また、先生のレベルも高いです。特に課題を共有して一緒に解決していこうとする教員集団のチームワーク力は世界トップレベルなのではないでしょうか。そうした教員集団の強さを生かして、ICTの活用方法を教えあったり、課題を共有したりするのも一つの方法だと思います。

また、個別最適な学びは個人レベルでは可能になっていると思います。ICTを使うことで学習を容易にカスタマイズできるようになることがいかに多いかに、先生はもちろん、子どもたちや保護者の皆さんにも是非気づいて欲しいですね。そして自分で学びをコントロールできる学習者を増やしていきたいものです。その時に、危ないから旅をさせない、ということではなく、先生方にはデジタルと良い距離感で付き合って欲しいなとも思います。

今はまず先生方にも子どもたちにもICT活用のはじめの一歩を踏み出して欲しいと思っています。そしてその時に、日本の学校が今まで積み重ねて大切にしてきた蓄積を生かすことで、ただの活用に留まることなく、学びが深まり、進化していくと思います。

参考サイト

StuDX STYLE:https://www.mext.go.jp/studxstyle/

StuDX メールマガジン:https://www.mext.go.jp/magazine/index.htm#005

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