編集長対談vol.2 ~暮らしの立場から見る「STEAM 教育」~

コロナ禍により、在宅勤務・働き方改革など生活環境に大きな変化がもたらされました。家庭で料理を作ったり一緒に食べる機会が増えたことで、子どもたちの「食」に対する意識も変わってきているのではないでしょうか。

料理をすることはさまざまな知識やテクニックを必要としますが、新しい発見もあります。これは子どもたちが自ら実践し、自分で考えることを重視するSTEAM的な学びに非常に近しいと感じました。

今回は子どもが主体で、子どもと一緒に「食」を楽しんでもらいたいという想いが込められたムック「こどもオレンジページ 」を創刊された、オレンジページの一木社長に、子どもに必要な“生きるチカラ”とは何か、また教育についての思いやこれからの思いについて伺う対談を行いました。

− 一木典子氏 Profile –
株式会社オレンジページ代表取締役
1994年、JR東日本に入社。不動産、法務、グループ内の事業再編などの担当を経て、「東京感動線」(※1)のプロジェクトリーダーを務めたのち、2019 年 6 月より現職。2020 年に新しいブランド PURPOSE(※2)を定め、ライフスタイルをイエナカまで贈り届けるメディアとして、時代が求める豊かな食体験の提供と社会課題の解決に挑戦している。
ブラジル、大分、群馬、新潟、岩手、宮城に暮らし、東京との二拠点居住の経験も長く、各地の食、自然、人に魅了される。夫と 2人の息子の4人家族。
他に、ダイアログ・ミュージアム「対話の森」(※3)アンバサダー、一般社団法人ダイアローグ・ラーニング(※4)アドバイザー、日本型リベラルアーツ推進委員会委員も務めている。
※1 https://www.jreast.co.jp/tokyomovinground/about/
※2 https://static.orangepage.net/media/news/315/files/20200824144230.pdf
※3 サポーターのみなさま | ダイアログ・ミュージアム「対話の森®」 (https://taiwanomori.dialogue.or.jp)
※4 一般社団法人ダイアローグ・ラーニング (dialogue-learning.com)

井上

「長年多くの読者に愛され続けるオレンジページから『こどもオレンジページ』という、子どもが主体のムックが創刊されたとのことで、大変興味深いです。初めて一木さんにお会いした時に、非常にSTEAMに関するご理解が深かったことが印象的で、今回さらにお話を伺えたらと思いました。 表紙の“生きるチカラ”という言葉が印象的ですが、この言葉が生まれた経緯や込められた思いをぜひお伺いしたいです。」

一木さん

「このムックは、1 人の社員の熱い想いとそれに共感した有志社員との自発的プロジェクトから生まれた本です。
現在のオレンジページの購読者は、編集に携わっている 20〜30 代の社員より上の世代が中心になっています。この本は、自分たちと同世代の、今まさに子育て中の方々にも読んでほしいという思いと、子どもの頃からこの本との接点を持ち育った子どもが、将来読者の1人となってほしいという願いを込めて生まれました。

また、私を含め会社側からは、プロジェクトメンバーに、”料理”を食べるために作るだけではなく、料理の持っている可能性や意味を再定義して、オレンジページとして、どんなことができるのか考えてほしいと伝えました。

それを経て、担当者が提案したコンセプトがこの”楽しく食べれば生きるチカラが身につく!”です。 激動のこれからの時代を子どもたちが幸せに生きていくために、どういうチカラを身につけて欲しいか、改めて考えさせられました。」

井上

「社員がやりたいと思った時に手をあげて動ける雰囲気、チャレンジ精神の社風が素晴らしいですね」

一木さん

「主体的に提案してくれる社員がいることは本当に嬉しいですね。子育てでも子どもがやりたいと思った時に、アクションを起こし、困ったら、周りに協力を仰げるように、そんな姿を率先して見せられる大人が社会に増えるのも大事な要素だと思います」

井上

「こどもオレンジページの創刊までの一連の流れの中に、大切な要素がたくさん詰まっていますね!会社代表として、また一人の母親として、一木さんは子どもたちが自立し、生きていくために大切な要素はなんだと思いますか?」

一木さん

「違うもの同士を掛け合わせる”チカラ”でしょうか。 自分たちの価値観・世界が全てではない、と理解した上で、他者と共存・協働することが大事です。 コミュニケーションをうまく取るには、まず自分を知り、一緒にやりたいこと・目指すものについて自分のことばで伝えられなければいけません。そして、自分とは違う価値観を持っている人とコラボレーションするチカラが必要だと思います」

井上

「そうですね。コラボレーションするためには、頭で考えることだけではなく、やってみるという実践主義も大事ですね。やってみた上で失敗を学ぶ姿勢に繋がっていくと思います」

一木さん

「そうなんです。やりながら学ぶこと。やってみようというマインドもとても重要なポイントだと思います。大人には子ども自身が気楽に実践できる環境やきっかけをつくって欲しいです」

井上

「大人も子どもと一緒にやってみる。やってみるマインドを大人も持ち、一緒に学んでいくことが、これからさらに重要になるということですね。今までとこれからの時代における「学び」の変化を一木社長はどのように思われますか?」

一木さん

「生きるチカラの源泉は、子どもが自ずと持っているように思います。子どものやってみたい情動を大人が邪魔をしてはいけないと自戒を込め考えるようになりました。大人も、世代を超えて学び合いながら、新しい生きるチカラを、子どもと一緒に学びなおすというスタンスが大切なのではないでしょうか。

これからは子どもだけが学ぶ時代ではないですよね。オレンジページは、親子で同時に取り組める暮らしの中の機会を、身近な日常の食やキッチンから提案していきたいです」

井上

「キッチンを通して、子どもと大人が一緒に学ぶなんていいですね。海外には、身の回りにあるもので親子で一緒に学ぶSTEAMワークが多いです。

また、子どもたちは、先生以外の大人と関わる機会がとても少ないと感じます。大人たちが、興味のあるもの、自分の持っている知識や技術を子どもたちに伝える場があったり、広げたいという大人と子どもの繋がりを作ることも必要だと考えています」

一木さん

私の息子が通っていた小学校は、さまざまな取り組みをしている公立学校で、コミュニティースクールとして表彰されていました。

地域の大人が NPO 法人を作り、放課後に外国語や習字を教えたり、授業にスタディ・アシスタントとして参加する体制がありました。すべての地域でそのような取り組みをするのは難しいと思いますが、少し前の時代のように、大人が地域と関わること、地域で子どもを育てるということがとても重要だと感じています。 今、多くの企業が取り組む「働き方改革」も、地域で子どもを育てるという環境に資するものであってほしいです」

井上

「教育が変化していく今のタイミングで、子どものいる世帯の親御さんの意見の中に漠然とした不安があるという調査の結果*もありますが、これからの教育のあり方や重要な点とどのようなことと思われますか?」

一木さん

「以前、長男が小学生だった頃、算数の問題を一緒に考えながら解いたら、”お母さんとの勉強は民主的で楽しかった”と言われたことがありました。

そこには、ただ、効率的・画一的な解き方を教わるのは、面白くなく強制的と感じる。でも、解き方を一緒に考えたり、それをみんなで学びあうことって、とっても楽しい。そういう意味合いが込められていました。

先生=教える人ではなくて、共に学ぶプロセスを大事にすることが重要だと思います。求められる先生のあり方が、変わってきていますね」

井上

「まさに先生と子どもが一緒に学び合うということですね。先生が“わからないこと”を言える環境や、子どもに”教えて”と言える、先生がいるといいですね。そうなると先生のファシリテート力が重要になってきますね」

一木さん

「それともう一つ、内発性も大事だと考えます。一人ひとりの子どもが内側から湧いて出てくることに対して、本人も周りの人も気づき、そこを生かしてあげられるようなアプローチを大事にしてほしいですね。

自分を知り、他人を知ることにつながると思いますが、日本は自分を知るという機会が多くないので、自分のアイデンティティを見つめる時間が増えるべきだと考えます。それが、内発性の種になるのでしょう」

井上

「一木さんご自身は、どのような教育を受けて来られましたか?」

一木さん

「私の父が国立の附属小・中学校に通い、すばらしい先生に出会った経験から、私にも附属小学校で学ばせたかったようです。成績については一切口を出してくることはなく、伸び伸びと学校生活を送りました。

地方の国立の附属小学校だったのですが、自分の人生を振り返っても、特に人間力が素晴らしい先生ばかりでした。教育に対しても様々な実験的取り組みがあり、中でも記憶に残っているのは、「発明工夫展」という授業で、子どもたちが自らアイデアを出して設計・製作して、完成した作品を展示して、互いに学び合いました。また、ロウソクの燃焼に関する理科の授業では、知識だけでなく、自分の考えが絶対ではないと身をもって知る体験をしました。

高校でも、個性を尊重する教育環境にいました。偏差値を気にするような学校や家庭環境で無かったことは、今の自分に繋がっていると思います。

多様な個性を持った子どもたちそれぞれがいいねと互いに伝え合うことができる環境で育ちました。自然の中で遊びに没頭する環境でもあったので、自然とつながり、遊びが学びに繋がっていることも体験してきました。

その意味でも、「学び」は学校だけじゃなく家の暮らしの中の、身近なことでもつくれます。料理は、日々の暮らしの身近にあり、発想転換力、アイデア力、美的感覚、やり遂げる力など、多様な非認知スキルを育める営みですから、ぜひ親子で楽しんで頂きたいと思います。」

〈 編集長所感 〉
全てがSTEAM教育に繋がる考え方・概念・キーワードのように感じました。また、子どもの頃からの教育や環境が今の考え方にもつながっていると伺えて、本当に興味深いお話を伺えました。学校や家庭、様々なところで子どもたちのワクワクする学びが生まれてくるといいなと思っています。STEAM JAPANでも、引き続き発信を続けていきたいと思います!

関連リンク

こどもオレンジページ net https://www.orangepage.net/ymsr/features/kodomo/posts/3077

STEAM 教育に関する調査(STEAM JAPAN サイト) https://steam-japan.com/report/5144/