11月30日、STEAM JAPAN AWARD 2020の表彰式が行われました。自ら課題を設定し、アイディアを形にした中高生にスポットを当てる今回のアワードには、第一回目ながら全国各地の中高生からの応募が集まりました。その中からどんな作品が選ばれたのか、表彰式の模様をお伝えします!
Youtubeでライブ配信されたこの表彰式には、リモート出演と会場出演でこちらの皆さんに参加いただきました。
また、STEAM JAPANからは、実行委員長 兼 審査員の井上祐巳梨が参加しました。
今回の審査ポイントとなったのは、4点です。
これらのポイントから、以下の6つの賞受賞者が選定されました。
受賞者発表に先立って、審査員の皆様からコメントをいただきました。
浅野さん「今日は皆さんの発表を楽しみにしています。よろしくお願いします」
大杉さん「私が特に大事に見たことが二つあります。一つが『モヤモヤ』。イノベーションや変化の根っこにあるモヤモヤ、皆さんが何にモヤモヤしたことがアイデアのスタートになったのかを想像して審査しました。もう一つは『爆発している』こと。STEAMはSTEM+Artですが、系統性が重んじられる他の教科に比べ、芸術はより個性を爆発させられる教科です。それが入っていることを意識しながら審査しました。」
スプツニ子!さん「エネルギーを感じる作品がいくつかありました。コロナで大変な中でも、若い子たちのエネルギーがすごくいいな、と思いました。希望を持ちましたし、楽しかったです」
まずは、企業賞からの発表です。
CISCO賞を受賞したのは、さばさん(高2)の「高齢者向け多機能ショッピングカート『BUDDY』の提案」と SHUNさん(高2)の「孫の目」の2作品。さばさんがデザインした「BUDDY」は、高齢者が買い物や散歩に使うカートに様々な機能をつけ、元気に暮らしていることを遠方の家族に知らせることができるというものです。SHUNさんは、自身の高齢の祖父母がスマホで行う難しい手続きをサポートしたいという思いから、老眼鏡に小型カメラをつけ、祖父母が見ているものを遠隔で見ることができる「孫の目」を考えました。
二作品についての、シスコシステムズ福田さんからのコメントです。
「ワクワクするような作品ばかりで、時間を忘れて審査をしました。我々は世の中にネットワークのインフラ、インターネットの快適な環境を提供し、人と人がより密接につながり続け、身近なところから世界を変えていくことを目指している会社です。ですから、審査の中では
・ネットワークインフラの利活用が想像できること
・より身近な人に対するサービスで喜ぶ顔を浮かぶこと
・様々なサービス提供者との連携がイメージでき地域実装が可能なモデル
この3点をポイントとしました。
さば様とBUDDYとSHUN様の孫の手は最後までシスコ社内で話し合いましたが、この点において甲乙つけがたく、お二方とも受賞ということで決めさせて頂きました。
皆さんの作品を見て、本当にワクワクしました。ぜひ、これで終わりではなく、実装に向けて皆さんをワクワクさせるよう頑張ってください。応援しています」
Panasonic賞を受賞したのは、Daisyさん(高1)の「ヘルプマークなどを使用している人のためのDaisyというセンサーの開発」です。Daisyチームでは、交通機関でヘルプマークをつけた人が周囲に気づかれないことに課題意識を感じ、加速度センサーを使ってヘルプマークをつけた人が近づくとスマホに通知する「Daisy」というセンサーを開発しました。
パナソニックの池之内さんからのコメントです。
「どのアイディアも素晴らしい切り口のものが多く、とても悩みましたが、今回はDaisyさんを選びました。Panasonicの企業賞は、
という3つの観点から選びました。
Daisyさんのアイディアは、援助を受ける側も行う側もヘルプマークを十分に活用できていないのではないかという日常に潜む課題に着目し、アートの視点を取り入れることによってさらに実現可能性を高めています。また、アイディアが実現した時にとても良い気持ちにさせてくれると感じました。課題に対するアプローチは一見シンプルですが、その過程において加速度センサーの使い方に試行錯誤を繰り返したでしょうし、近くの人への通知にもよく使われているLINEに着目して実装したことで実効性が上がったのではないかと思います。また、ヘルプマークを使っている人のニーズの違いというような細やかな配慮にも着目し、それをシステムとして実装しているという点も印象に残りました。
今後こういった取り組みの実現や活用促進で、Panasonicとして何かできることがあればお手伝いしたいと思います」
スポンサー賞を受賞したのは、//ArcHさん(高2)の「Shearu」です。//ArcHさんは、諸外国と比べ寄付活動が少ない日本の現状を課題とし、お金をかけずに寄付できるアプリを開発しました。アプリを使用して提携店で買い物をすると、会計時の1%が子ども食堂に寄付される仕組みです。
グーグル合同会社の鵜飼さんからのコメントです。
「⽇本にいるとなかなか気づかない社会的な問題を発⾒し、テクノロジーの⼒を利⽤して解決を試みるだけでなく、実際に社会実装まで動き出しているところが素晴らしいです。
ビジネスモデルやアプリの完成度にはまだまだ改善の余地がありそうですが、数多くいるステークホルダの中から優先順位をつけてフィードバックをいただけるように、どんどん⼿と⾜を動かして突き進んでください」
そしていよいよ、GOLD、SILVER、BRONZE賞の発表です。
BRONZE賞を受賞したのは、Team DFE(高1)の「Donate For Everyone」、環境研究班(高3)の「機能性集⽔システム〜⽇本の伝統⼯法が世界を救う〜」、ラグさん(高3)の「鋼板桁橋を応⽤した、新しい避難施設の提案」の3点でした。
Team DFEは、世界各地の諸問題を知り、関心を持った問題に対して寄付を通して支援できるWebサービスを作成しました。
環境研究班は、乾季と雨季があり安定した農業ができない乾燥地域に着目し、日本伝統の三和土工法を用いた機能性集水システムを開発しました。左官屋やコンクリート業界、大学の先生などのアドバイスを得ながら、1年半かけて取り組んだそうです。
ラグさんは既存の避難施設の問題点を分析し、災害弱者も逃げ遅れないこと、想定以上の津波にも耐えられること、費用対効果を鑑み、ユニバーサルデザインを取り入れた誰もが避難しやすい津波避難施設を考案しました。
特別審査員の浅野さんからコメントです。
「Donate For Everyoneは自分たちでもお小遣いの一部を使えるかもしれない、というところもあると思いますし、これでいくつの課題が解決できるのか見るのもとても楽しいことですね。多くの人が問題について知り、何ができるか考える当事者になるチャンスが作れると思います。
他の二つは、農業高校、工業高校らしいと思いました。環境研究班のものは、アフリカという『世界』を見ているのがとてもいいです。日本の資源も使えるけど、対象は会ったこともないアフリカの人たちですよね。これから、VRなどを使ったら現地に行くような体験ができるような教育環境を作っていこうと思っていますが、こうして頑張った皆さんがさらに現地にコミットできるような環境を、文科省さんと一緒に作っていきたいです。
それから、ラグさんの避難施設のアイディアについてです。私たちの社会は大津波に襲われましたし、これからもきっとあるでしょう。それは体験したくないですが、このアイディアがさらにリアリティを持つように、疑似体験ができるような教育環境を作っていきたいです。
僕たちが政府として教育環境をどうしなければいけないか、考えさせてくれるきっかけになったと思います。私もこんなところで一回勉強してみたいと思いました」
SILVER賞を受賞したのは、GENIEさん(高3)の「ビヨンド・コロナ・コンテスト」です。
GENIEチームは、コロナにより挑戦の場所がなくなったことで辛い思いをしている学生や、以前より暗くなった日本のために自分たちでコンテストを実施しました。コンテスト実施のために、Illustratorで宣伝用ポスターを作成するスキル、Webページを作成するためのHTMLとCSSのスキルを1から勉強し、約2週間でWebサイトを制作。「チャレンジ」、「ゴハン」、「オウエン」の3部門で募集したコンテストには、全国からたくさんの応募があったそうです。
特別審査員の大杉さんからのコメントです。
「今年は、甲子園など色々な高校生のイベントが中止になりました。暗い気持ちになっているところに、GENIEチームによる自分たちで魔法をかけて自分たちで創ってしまおう、という活動が非常に元気をくれたと思います。また、教育の面から見ると、『なぜ私たちは勉強するのだろう』という問いに答えをくれました。『これを学ばなければいけないから学ぼう』という外発的な動機付けに対して、GENIEチームは『これやりたいからこんなスキルを身につけよう』と、目的に引っ張られる内発的な動機付けでスキルを身につけていきました。そのことに、教育の面からも元気をもらったと思います」
最後にGOLD賞を受賞したのは、⽮座孟之進さん(高3)の「ドキュメンタリー作品による原⼦⼒発電に対する意識改⾰」です。
このチームでは、原発に関する若年層の関心や知識の少なさを受け、原発やエネルギーに関する関心や知識を含めた「意識の向上」をどう図るかを研究課題にしてドキュメンタリー映画を作成しました。作成した映画「日本一大きいやかんの話」は、様々なイベントなどで上映した結果、視聴者の約8割が原発に関する関心を向上させたそうです。国内外の専門家や地元の方、関係者に精密な取材を行い、得た知識をアニメーションなどでわかりやすく表現しました。
スプツニ子!さんのコメントです。
「このチームの映画はとても大作です。複雑なトピックについて様々な視点から解析し、完成度の高い演出でアニメーションなどを用いてわかりやすく伝えるというところがとても良かったです。テクノロジーやサイエンスは実はとても複雑なことが多くて、ポジティブな面もネガティブの面もエシックス(倫理)の面も、様々なことを考えていかなければいけない。このチームはとても行動力があって、海外にインタビューに行ったり、フランスの原子力担当の方や東京電力、研究者の方にインタビューしています。このような複雑な情報やデータを自分たちなりに噛み砕いて映画としてまとめるというのは、すごいエネルギー。高校生とは思えない完成度で、考えさせられました」
最後にSTEAM JAPAN AWARDの総括として、審査委員長スプツニ子!さんからコメントをいただきました。
「みなさんの作品を見ているときに、『めちゃくちゃ元気だな』と思いました。やりたいと思うことや好奇心に忠実に動くエネルギーがたくましいし、今の高校生は私が高校生だった時に比べて、インターネットのおかげで何かをしたいと思った時に繋がりやすいと思います。みんなのエネルギーや欲求をそのまま具現化していることに、私は元気をもらいましたし、本当にワクワクしますね。手ごわい若手ジェネレーションが出てきたというか、一緒に何かできたら、と思います。今の中高生は、『知りたい』と思ったらものすごく成長できる環境を持っているんだな、と。みなさん、応援しているので頑張ってください」
STEAM JAPAN AWARD 2020のHPは下のリンクから!概要、受賞作品情報、一次選考通過者などをご紹介しています。