宇宙科学技術などの先端科学技術分野を担う次世代人材の育成を目指そうと、1月31日に大分県内の高校生を対象としたオンラインイベント「STEAMフェスタ」が行われました。(主催:大分県教育委員会/運営協力:株式会社Barbara Pool)
大分県では、米Virgin Orbit とのパートナーシップを発表し、水平型宇宙港の実現に向けた取り組みを進めています。STEAMフェスタは、SDGsの「水」(※)をイベントの大きなテーマとして掲げ、県内19校から集まった約150名の高校生が、大分の未来や先端科学技術の可能性について多角的な視点から考えました。どんなオンラインイベントが行われたのか、当日の様子をレポートします!
※運営協力を行なう株式会社Barbara Poolが採択された、経済産業省・未来の教室「STEAM ライブラリー」SDGs6番・水コンテンツを実証いたしました。
STEAMフェスタでは、宇宙からの視点から水を学ぶ「THINK SPACE」と、地域の水について考える「THINK OITA」の2つのコースに分かれて、実施しました。冒頭、大分県教育委員会の三浦教育課長がSTEAMを学ぶ意義や大分県のスペースポート構想について触れ、「身につけた知識を活用して、統合的に課題を解決したり、新たな価値を創造していくような人材が求められている。皆さんの未来を楽しみにしている」と熱く語りました。
さて、いよいよイベントスタートです!2コース共通のイントロダクションとして、宇宙航空研究開発機構 (JAXA)で宇宙ビジネスに携わる菊池さんが「宇宙から見る奇跡の星“地球”」と題して講演しました。実は、大分県出身の菊池さん。約10年前から、地元・大分と宇宙を繋げられないかと、さまざまなプロジェクトに携わっていたそうです。
講演では、小惑星探査機「はやぶさ2」や地球の形成について紹介。小惑星「りゅうぐう」の試料を採取した「はやぶさ2」が、オーストラリア南部の砂漠地帯に着陸した時の写真を見せながら「宇宙を探索することは、地球の謎を解明することに繋がる」と話してくれました。また、宇宙において生命が存在する領域はとてもわずかで、その領域にある地球は、まさに“奇跡の星”であること。そして、水の存在もまた“奇跡”だそう。参加した高校生たちは、宇宙の可能性について目を輝かせて耳を傾けていました。2コマ目からは、2つのコースに分かれて講義を聞きます。
2コマ目からは、J A X A教育センターの野村さんが登壇しました。野村さんは、「すべてを見通す(衛星)の目によって、地球がもたらす水の変化が読み解ける」と話します。高校生たちは、衛星データで降雨量を数値化した「地球観測ぬり絵」に挑戦し、目に見えない台風を“見る”ことを体感。野村さんは「自分の生活環境だけでなく、世界中の命を守ることを考えたり、環境を学ぶきっかけにしてほしい」と語りました。
3コマ目は、イオン交換樹脂を使った「水再生実験」。水が貴重な宇宙では、汚れた水をキレイな水に再生して使用します。J A X Aと共に水再生循環システムを開発する(株)栗田工業の渡辺さんも登場し、オンライン環境下での実験に挑戦しました。ロウトやビーカーなど簡単な器具を使って、イオン交換樹脂の有無でろ過の様子がどのように変化するのか観察します。参加した高校生たちは「イオン交換樹脂を加えたら、色が変わった」「透明な水になった」などと、画面越しに実験結果をそれぞれ発表。宇宙空間における水循環の仕組みや 地球の水の価値について、改めて考えました。
最後は、4〜5名のグループで、宇宙生活の課題を解決するアイデアを考え、チームごとに発表しました。20分という短い時間でしたが、運動不足になりがちな宇宙飛行士のために、V Rを使ったランニングマシーンや昼夜がわからない宇宙空間で体内時計を整える室内灯など、大人顔負けのアイデアが並びました。宇宙で使われるアイデアや最新技術は、めぐりめぐって地球にいる私たちのもとに届きます。THINK SPACEでの学びを通じて、地球の素晴らしさを再確認する1日となりました。
THINK OITAは、手元にあるiPadをフル活用し、地域の未来と水について考えました。2コマ目では、駒場東邦中学校・高等学校(東京)の飯田先生が登壇し、地理院地図やGoogle Earth などを使って、水に関連した地域の様子を観察しました。地域によっては、昔は川があったところに道路ができたり、ダムが建設されたりしています。高校生たちは、3D マップや衛星データを用いて“水の軌跡”を辿りながら、地域の水がどうすれば持続可能であるか、熱心に考えていました。
3コマ目は、天然水や水道水など、さまざまな種類の水を試飲し、味や匂いの違いを科学的・地理学的に分析しました。参加した高校生は「水の味なんて変わるの?」といった表情で、それぞれの水を飲み始めると「うわ、これまずい!」「この水はとても美味しい!」など、それぞれの水の味に驚いた様子でした。オンラインで参加したN P O法人ガリレオ工房の原口さんが「水の違いは、硬度や水に溶け込んでいる成分で変わる」と説明した後、Google EarthやOne geologyなどのアプリケーションを使って、自分の飲んだ水がどこからやってきたのかを分析。自分たちが何気なく飲んでいる水の“姿”をデータを使って観察しました。
最後は、地域の水の美しさや大切さ、価値をどのように人々に伝えれば良いかを、デザイン思考のワークショップを通じて考えました。人々の行動を変えるためには、まず、課題を解決するための「問い」を考えなければなりません。講義では、グループごとにポストイットを使って、水と地域に関する課題を出しあい、それぞれどんな解決方法があるかを考えました。チーム発表では「アフリカの子どもたちに循環システムを提供するためにはどうしたら良いか」「地元の人に防災について再認識させるために、防災グッズを使ったサバイバル登山をしてもらう」など、短い時間にもかかわらず、目を見張るようなアイデアが並びました。THINK OITAで学んだ最新技術や考え方を、これからも活かして欲しいと思います!
長いようで短いイベントも、いよいよ終了です。最後に、J A X Aの菊池さんと野村さんが「私の高校時代とは違い、宇宙が身近になる時代。今日をきっかけに、地域のために貢献だったり、一人一人の何かのきっかけになると嬉しい」と挨拶しました。
とても遠い存在だと思っていた宇宙が、実は自分たちの生活と関係していることを学んだ高校生たち。今回の学びが何かのきっかけになり、得た知識をどんどん外に広げていってほしいです。
STEAMフェスタでの学びを通じて、身近なことに目を向けることが、地域の未来や宇宙という大きなテーマに繋がることがわかりました。真剣な眼差しで新たな学びにチャレンジする高校生の姿を見て、これからもSTEAM教育を推進できればと感じました。