2021.01.29│STEAMレポート

現代版モーツァルトの楽曲をAIで生み出す、プロジェクトZ〜広尾学園 木村氏・日本HP 甲斐氏〜

 プロジェクトZとは、テクノロジーを駆使して「もし現代にモーツァルトが生きていたら」という問いにチャレンジするプロジェクト。今回、日本HPの全面的な技術協力の元、3人のクリエイターと高校生たちが参加しました。
 AIがラーニングするのは、モーツァルトの残された膨大な楽曲。テクノロジーで甦ったモーツァルトが紡ぐ新たな旋律を、最新の音楽技術を通して豊かに奏でる。没後228年になる天才の「新曲」が誕生します。
 高校生の想像力と、クリエイターの創造力が生み出したテクノロジーとクリエイティブの未来を感じることが出来るプロジェクトです。プロジェクトZを企画した日本HPの甲斐博一さん、広尾学園の教師の木村健太さんにお話を伺いました。

まず初めに、このプロジェクトを企画した理由や意図を教えていただけますか?

日本HP 甲斐氏(以下甲斐氏):日本HPの話からになりますが、日本HPはグローバルでビジネスをする企業としてサステナビリティを重要視しています。日本HPのサステナビリティは「地球の存続」「人とコミュティ」「人の育成に貢献する」の3つの柱に分かれていて、特に私ちはテクノロジーをもって人を育てていくことに重きを置いています。VR・AI・テクノロジーを操れるような若い人材を育てたいと思っていて、これからAIと共生していく世代の高校生に、AIで何が出来るかという可能性を感じて欲しくてこのプロジェクトを始めました。

なぜ曲だけでなく、映像や音響も新たに作ろうとしたのですか?

甲斐氏: 最新の楽曲を作る際に、表現も最新のものにしようと思いました。音楽は聴覚だけで楽しむと思いますが、今回は音楽を360度の体験に昇華したかったんです。リアルタイムレンダリングなど、最新のテクノロジーを使った体験を作ることを意識しました。

木村先生はどんなお気持ちでこのプロジェクトに携わっていましたか?

木村先生:生徒たちには本物に触れて欲しいという気持ちがあります。このプロジェクトでは、高校生が一流のクリエイターのみなさんと創造・表現する機会を得られました。本物との出会いは彼ら彼女らの人生に大きな影響を与えてくれたと思います。また、その過程では最新のテクノロジーが用いられました。生徒たちはテクノロジーが広げてくれる可能性に感動するとともに、その限界にも気がつくことができたはずです。
 大切なのは今ある技術を学ぶだけでなく、新たに生まれる技術をキャッチアップし続けること。さらには新しい価値を自ら創造していくことです。そのためにまず必要になるのが学び方を学ぶことです。生徒たちがAIの活用を通して学び方を学べたことには大きな意味があると思っています。

木村先生にお伺いしたいのですが、このプロジェクトのようなSTEAM教育によって、どのような人材を輩出していきたいとお考えですか?

木村先生: どんな人材を輩出したいと想定しているものはありません。それは生徒ひとりひとりが決めることですから。しかし、少なくとも、自分もみんなも幸せになる未来を考え続ける姿勢は持っていて欲しいです。STEAMは、何か新しい教育をスタートするというよりも、原点回帰することだと思っています。  
 STEAM教育の目的は、知識や技術の獲得だけではなく、”楽しい”と思うことなんです。学ぶことは本来楽しいものですから。まずは本人がワクワクしていることが大事です。そして、いつのまにか周囲も巻き込んでいけたら最高ですね。そのためには自分のやりたいことを社会への貢献に昇華させていくことが大切なのだと思います。また、STEAMのA(アート・アーツ)はとても重要だと思っています。このプロジェクトでも、生徒たちはAIの活用において、最終的に重要なとは”感覚”や”感性”なのだと気づきました。生徒たちにはこれからも楽しみながら素敵な未来をつくっていって欲しいですね。

逆に、今後教師に求められることに関してどうお考えですか?

木村先生:あえて言うなら、教員も楽しみながら生徒と一緒に未来をつくっていこうとする力でしょうか。知識を教えるというよりも、生徒が新しい価値を創造するために、教員が知っていることを生徒に共有していくという感覚ですよね。また、生徒がどう育つかは生徒が決めることですから、わたしたちは人を育てるというよりも、生徒たちがワクワクできる”環境”をつくっていくことが大切なのだと思っています。

最後に、甲斐さんにお伺いしたいのですが、今回のプロジェクトZを経て見えてきた可能性や今後の展開はどのようにお考えで しょうか?

甲斐氏: 高度なテクノロジーを使いこなす日本出身の若い世代を今後も生み出していきたいという気持ちは変わらないですね。これから中学生がプログラミングができるのが当然の世の中になっていくかもしれないですが、それだけでは足りないと思っています。と言うのも、これからの社会で生き抜く為には、きちんとテクノロジーを使いこなして社会に還元していける人材だと思います。イノベーションには協働力とテクノロジーの理解が不可欠ですので、それらを使いこなす人材を生みだしていきたいと思っています。

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