Global Teacher Prize 2023ファイナリスト松田教諭 インタビュー

2023年、鳥取県立鳥取西高等学校の松田教諭が、教育界のノーベル賞とも称される「Global Teacher Prize」の世界トップ50に日本から唯一選出されました!今回は、松田教諭の先進的な教育への取り組みと、その教育哲学についてインタビューを行いました。

「Global Teacher Prize」とは

「Global Teacher Prize」とは、教育分野で顕著な貢献をした教師に与えられる国際的な賞です。この賞は、教育への優れた貢献を認め、世界中の教師の重要性を強調するためにイギリスのバーキー財団によって設立されました。「教育界のノーベル賞」とも称され、世界中の教育者から選出されます。

松田教諭の授業法「Deep Active English」について

STEAM JAPAN 編集部: 松田先生、この度はお時間をいただきありがとうございます!まず、教員歴と担当教科、そして松田先生の授業法「Deep Active English(ディープアクティブイングリッシュ)」について教えていただけますか?

松田教諭: はい、鳥取県の公立高校で英語を教えて18年目になります。現在は鳥取西高校で6年目です。Deep Active Englishは、一夜にして始まったわけではなく、徐々に形作られてきました。このアプローチは、2019年に大きなブレイクスルーがあり、京都大学の松下佳代教授の著書『深い学びを紡ぎだす』を読んでから、さらに進化しました。

これまで学びがどう深まるか、どう教えればいいかを常に考えてきましたが、ただ知識を覚えるだけでなく、生徒が新たな価値観に気づき、世界観を広げることができるような授業内容になるよう焦点を置いています。英語の技能を高めつつ、授業を通じて生徒の生き方に変化を与え、価値観に触れることができればと思っています。

STEAM JAPAN 編集部: 実際にどのような授業をされているのでしょうか。

松田教諭: 実際の授業では、基本的には検定教科書を使用しています。レッスンごとに異なるトピックに合わせて授業を行っています。教科書を中心にしつつも、単語や表現を覚えるだけでなく、より発展的な問いを設定します。重要なのは、生徒に投げかける問の答えが一つではない、正解が一つではないことです。これを逆算してレッスンを構成します。

例えば、「恐竜の再生」をトピックとしたレッスンでは、「みなさんはどう思いますか?」という問いを投げかけながら、教科書の見解だけでは偏るので、異なる見解を持つ英文素材も一緒に読みます。生徒にもリサーチの時間を与えますが、教員が適切な素材を用意することも重要で、教科書の見解だけに頼らず、多様な選択肢を提供し、生徒が自分の考えを深められるような素材を用意しています。

さらに、重要なのは生徒の興味関心です。どんなトピックでも、生徒が関心を持たなければ学びません。例えば、恐竜のトピックでも、生徒の興味を引きつけることが大切で、生徒が自分事化して考えられるよう、生徒にリサーチの時間を設け、自己選択の機会を与えることで動機付けに繋げていきます。

今の指導方法に変化してから、生徒の授業アンケートでの肯定的な回答が増え、生徒の様子も活発になりました。授業では、クラス全体が一つの生命体のように動くような感覚があり、授業に対する意欲が高まっていると感じています。

授業の様子

*実際の授業の指導案・英文素材はこちら

  • 鳥取県エキスパート教員認定制度 公開研究授業 「英語コミュニケーションI」 学習指導案(PDF
  • 恐竜再生のレッスンで教科書本文以外に使用した英文素材(PDF)※元の英文と、それを松田教諭が授業用にタスク化したもの

教育界のノーベル賞とも称される「Global Teacher Prize」

STEAM JAPAN 編集部:Global Teacher Prizeへの応募きっかけや今回評価されたポイントを教えてください。

松田教諭: 3年前に、過去にファイナリストとして選出された堀尾さんや正頭さんの活動を知り、英語教師としての自分の実践がどの程度通用するか試してみたいと思いました。英語教師が多く選ばれていることも刺激になりました。その結果、ファイナリストに選ばれ、教育法が広く発信される機会に繋がりましたね。グローバルな評価を受けることで、私の教育法が他の学校や教育関係者にも伝わる良い機会になったと感じています。

Global Teacher Prizeでは、「深い学び」を英語教育に体系的に取り入れたこと、学校外の人々との連携を行ったことが評価されました。外部連携では、例えば、環境をテーマにしたレッスンの中で、山形県にあるSpiber社が開発する人工の蜘蛛の巣を使ったパーカーのCM動画を生徒が作って交流したり、「富と社会的行動の関係」を研究しているカリフォルニア大学の研究者(Paul Piff)の方に生徒が直接エッセイを送って交流をする機会を作ったりしました。実社会との連携を取り入れた授業は、生徒にとって非常に有意義な経験となります。リアルな体験を通して、生徒が学びを深めることができればと思っています。

生徒の話をよく聞き、一人ひとりをよく理解すること

STEAM JAPAN 編集部: 教育者として大切にされている点や心持ちについて教えていただけますか。

松田教諭: まず、生徒の話を聞くことが重要です。教員は話すことが仕事だと思われがちですが、実は生徒の話を聞き、観察することが大切です。生徒理解が指導技術を生かす鍵です。そして、生徒の前では常に上機嫌でいることを心掛けています。生徒を理解し、彼らの興味やニーズに合わせて教育を進めることが、私の教育の核となっています。

STEAM JAPAN 編集部: 現代の不確実な時代において、子供たちに身に着けてほしいスキルや知識、そして教員自身が身につけるべきスキルについて、どのようにお考えですか?

松田教諭: 今の時代、生徒たちはすぐに答えを知りたがる傾向がありますが、現実はそんなに単純ではありません。正解のない問いに挑戦し、曖昧さに耐え、複雑なものをそのまま受け入れるマインドが必要です。これは教員にも当てはまります。教育環境はICTではなく、教員自身が生徒にとっての最高の「教育環境」となります。これは、AIがどんなに発達しようと変わらないところなので、教員がこのようなマインドを持って日々取り組むことが大事ではないでしょうか。

STEAM JAPAN 編集部: 最後に、今後、教育の分野で取り組みたい目標やプロジェクトはがりましたら教えてください。

松田教諭: Global Teacher Prizeのファイナリストたちの実践から学び、自分の教育に取り入れたいと思っています。日本の教育はしばしば進学実績に焦点を当てがちですが、世界の教育者たちはより広い視野を持っています。男女差別の克服や学びの場の提供など、視野の広さを自分の教育にも取り入れたいです。

日本は同調圧力が強い社会ですが、自分の感覚や信念を信じて行動し続けることが大切です。すぐに評価されることはないかもしれませんが、継続して行動し続ければ、理解してくれる人が現れます。評価されなくても腐らずに続けることが、教育者としての重要な姿勢だと考えています。