次世代人材育成に注力を注ぐ、東京大学教授・大島まり氏の考えるSTEAM教育とは

機械学会の女性初の会長も務め、バイオ・マイクロ流体工学の第一人者でもあり、 多方面で様々なご活躍をされている東京大学教授・大島まり氏。そんな大島氏が室長を任されている次世代育成オフィスの設立までの経緯や、これからの教育、次世代に望まれる人材について、お話を伺いました。

大島まり氏 プロフィール

東京大学大学院情報学環/東京大学生産技術研究所 教授。東京大学生産技術研究所・次世代育成オフィス室長。専門はバイオ・マイクロ流体工学。東京大学大学院工学研究科博士課程修了・博士(工学)。 工学系研究科原子力専攻に進み、博士号取得後、東京大学生産技術研究所に助手として就職。大学院時代にマサチューセッツ工科大学、助手時代にはスタンフォード大学へと2度の留学経験を持つ。2度目の留学時に最新の研究領域「バイオ・マイクロ流体工学」と出会い、帰国後に研究を進め、現在に至る。

ONGの設立と理系女子への思い

 私の取り組みの一つにONG(Office for the Next Generation=次世代育成オフィス)があります。その名前の通り、工学や科学技術分野の次世代を育成することに特化して、オフィスが立ち上がりました。大学に附属している研究所の中では、この東京大学の生産技術研究所は一番大きく、120〜140名程の教員が属しています。
 活動目的としては、科学技術・特に工学に携わっている研究者である先生方の研究を、 教育の題材としても優れたものになるのではないかという想いから、教育に活用しようと考えています。小学生の高学年も含まれますが、主となる対象は中学生・高校生です。
 理系の科学技術の人材育成を中心に活動しています。 また、ONGの前身であるSNG(Science for the Next Generation=次世代の科学者を) というのがありました。元々のモチベーションは理系に女子学生を増やしたいという想いからです。

理工系の面白さや、どんなことができるのかのイメージを色々な活動を通して伝えたいと思って活動していました。私自身は”アップデート”と言っていますが、実際には何をやっているのかわからないと思われがちな理工系の現状を、子どもたちに伝える活動です。
 私は理工学部出身で機械工学が専門ですが、機械工学は特に女子が少なく、機械工学の女子の比率は5%以下です。地味な分野ではありますが、基盤技術でとても重要な学問分野です。個人的には、もっと多くの人に興味を持って欲しいという思いがあります。”機械工学って何しているんだろう?と思われる方が多いので、最新状況を伝えていきたいと考えています。新型コロナウイルスなどそういったものに対して、科学技術が社会に担う役割は非常に大きいです。これからの女の子にぜひ携わってもらえるような活動を、さらに展開していく予定です。

次世代教育・次世代の人材について

 これからは社会を創っていく人材、自らデザインしていく人材を育成していきたいと思い、様々な活動をしています。リーダーシップをとるという点では、日本人にはチャレンジが必要な部分があると思いますが、これからは日本の中だけでなく、世界的にリーダーシップを発揮し、社会を創れるような存在になってほしいです。そのような人材育成のためにはSTEAM教育という枠組みは非常に良いと考えています。 研究者・技術者として、今までに無いものを創りだす。新しい知を創造するという事は、トップの研究者として非常に大事です。

 一方で、新型コロナウイルスなどの社会問題に対して、どのように解決していくのかも重要になります。新しい価値を生み出していくき、そこから、知を社会的価値に変換するということや、社会的な価値を創造することが必要だと考えています。これらがSTEAMの中で養われていって欲しいです。
 新しい知を創造する人と、社会に対しての知を転換して、社会的な価値を創造できる人を、STEAM教育の中で、育成して行けると良いと考えています。

STEAMとの繋がり・大島氏の取り組み

 私は、機械工学出身なので、STEAMの「A」のアーツに関しては今まだ模索中です。 STEM、STEAMという概念がでて来る前から、私自身は「研究」を題材にした科学技術教育を唱えていました。

 研究や科学技術というものが社会の中で、どのように生かされているのか。社会の中での科学技術という観点から、中学や高校の理科教育のようなものに取り組めないかと思いながら活動しています。生徒たち自身に、自分たちが学校で学んでいる理科というものは、世の中で使っているこういう技術のここの部分に当たるんだということを分類しながら、自分の勉強している教科と科学技術の繋がりを出張授業などを通して伝えてきていました。

 そのような活動をしている中で、STEAMという概念が出てきた感じです。今まで自然とやってきたことがSTEAM教育とつながっているのかと思い始めました。
 今までやってきたことの取り組みを、STEAMという枠組みの中で体系化できると、より実践的なものになるのではないかと思っています。
生徒たちに科学技術と学校の中で習っている科目や教科の繋がりを理解してほしいですね。また、科学技術と社会の繋がりへの気づきになれば良いと思っています。

 そのために、比較的初期の頃から、企業との連携をやっていました。例えば、JALや東京メトロなどの工場見学などをしていました。工場見学などで本物を近くで見ると、普段利用している時には気づかなかったところを、気づくことができます。
 また、企業の方々は、防災などの取り組みを社会問題として考えて運営に取り込んでいます。ワークショップを開催することで、企業の方々はどういうことに取り組み、どんなことを仕事として日々やっているかを知ることもできます。参加者が本物を体験し、科学技術と社会の繋がりを気づかせてもらえる貴重な経験です。
 本物をみて、触れて、体感し、その後、教科書の中の知識や理論とつなげて学んでいくという流れを、STEAMという概念はありませんでしたが、昔から意識していました。

大島氏の考える、STEAM教育普及の今後の課題・目指す方向性

 「STEAM」という一つの学びで言っても、みんなそれぞれのSTEAMという概念や想いがあります。多くの方々が色々なアイデアを持っています。多様な人が関わる事はとても重要ですが、その中で、どのように連携してどのようなカタチを作り上げていくかが難しい ところです。方向性が決まった時に、土台や基盤となる環境づくりをどうしていくかがこれからの課題だと考えています。

 また、ファシリテーターの役割の人が必要だと思います。これからは人と人や、人とモノをつなぐ役目の人が要になると思っています。こういう役割の人材を育成して、活躍していけるようなことができると、広がりが出て来ると思います。周りをつなぐ役目の人が いるから、物事は動き始めます。様々な意見や人をつなぎ合わせ、フュージョンさせることができるエキスパートがいることで、様々なアイデアをカタチにすることができると思います。