2020.09.10│STEAMレポート

編集長対談vol.1 徳島市長・内藤佐和子氏〜行政立場から見る「STEAM教育」〜

 2020年、コロナ禍で様々な価値観変化が起こり、「アフターコロナ」「withコロナ」「ニューノーマル」など様々なワードが飛び交う現在。そんな中、先を見据えていたかのように、「教育のオンライン化」及び「STEAM教育、体験学習」の文言をマニフェストに取り入れていた、徳島市長・内藤佐和子氏。(全国最年少女性市長)

 「STEAM教育」をマニフェストに取り入れられた理由や背景を中心に、STEAM JAPAN編集長(株式会社Barbara Pool 代表取締役)の井上祐巳梨がオンラインにて、インタビュー形式の対談を行った。

− 内藤佐和子氏 Profile –

1984年3月、徳島県徳島市に生まれる。一児の母。
生光学園幼稚園、応神小学校、徳島文理中学校・高等学校(高校一年時にCeleste High Schoolに一年間交換留学。)を経て、東京大学法学部政治コース卒業。在学時(20歳)に多発性硬化症という難治性疾患にかかるも、積極的にビジネスコンテストに参加して受賞し、ベンチャー企業数社の経営に参画。
四国放送「ゴジカル!」月曜日コメンテーター(2013年4月1日から約7年間)。県や市の審議会の各種委員を歴任。(観光、男女共同参画、障がい者、教育振興、総合政策、規制改革、社会教育委員、子ども子育て会議等。)徳島市では2019年度は行財政改革や駅前再開発、国土強靭化、教育振興の委員を務め、市の課題を肌で感じていた。徳島市きらめく女性大賞第一回大賞受賞。

2020年、4月18日徳島市長に就任。日本最年少女性市長である。

井上

「徳島市長就任おめでとうございます。早速ですが、佐和子さんがご提示されていたマニフェストにSTEAM教育について触れられている部分を見つけて、是非ともSTEAM JAPANでそのあたりのことを詳しくお伺いしたいなと思いました。まず早速ですが、どんな点からSTEAM教育に関心を持たれたのですか?」

内藤市長

「それはもう、全てにおいてですよね。今のコロナ禍がまさに顕著な事例ですが、世の中って実際何が起こるかわからない。想像もしていなかった事態が起きた時に、どんな解決策を導き出していくかは、決められたことを一律に覚えるだけの教育ではなかなか出来づらいですよね。常識とかしがらみとか、そういう枠を取っ払って一人ひとりが課題を見つけ解決していく力を持った社会になっていくためにも、STEAM教育に求められるものはとても多いと感じています。」

内藤佐和子氏 マニフェスト(5)『ないとうさわこOFFICIAL WEBSITE』より抜粋
井上

「佐和子さんは、学生時代から地域おこしのイベント(2009年徳島活性化コンテスト:徳島県共催など)をしていらっしゃったり、若い世代の意識の啓蒙とか地域や社会のためを強く意識して行動されていましたよね。どんな思いが原動力になっていたのですか。」

内藤市長

「常に、原点は「面白そうだからやってみよう」なんですよね。面白さってみんなに喜んでもらえたり、社会のためになってさらに楽しいみたいな部分がある。おばあちゃんから「(戦争のさなかに育った自分たちから見たら)今の子たちは本当に恵まれている。そういう時代に生きられることにしっかり感謝して、社会に恩返しすることを考えていかなくちゃだめだよ」って、よく聞かされていて。そういったこともかなり影響が大きいと思います。」

井上

「なるほど。ちなみに、このコンテストでは、どんな手ごたえがありましたか。」

内藤市長

「この企画は、徳島という地方に内在する課題をいくつかクローズアップして、東京を中心とした学生にその解決のための提案をしてもらうというものです。

集まってくるのは、いわゆるエリート校の学生だけど、都心育ちの子たちはみんな地方の内情を知らないから、東京の目線だけで日本全体を捉えてしまいがち。でも将来、政治家や官僚や大企業のトップになっていくような子たちが、その視野のままでリーダーになってほしくないから、それが大きな狙いとしてありました。実際に現地に行って、関わる人と話を掘り下げていくうちに意識はすごく変わったと思います。実際に県の政策に反映されたりもしています。

この頃はまだSTEAM教育っていう概念では見られてないけど、たぶん本質は同じかなと思っています。」

井上

「私も学生時代、アートを使った町おこしイベントをしたり、美大生のための大型のアートイベントを立ち上げたりしました。例えば美大生は、良い作品をどう作るのかが学びのほとんどで、企業や経営者が何をアートに求めているかとか、自分のプロデュースの仕方とかは学ばない。だから学内にとどまらず、いろんな美術関係者や企業の方と率先して関わり価値観を広げる機会を作りたいと思ったんです。」

内藤市長

「しなくちゃいけないことをしつつも、さらに新しい学びや体験をどういれていくか。その両立が重要ですよね。そのためには基礎学習の部分をどう効率化するかが問われるし、そのプラットフォームを大人が用意していかないといけないとも思っています。そういうあるべき形を体現する手段として、STEAM教育は理想的な存在ですよね。」

井上

「文科省が今ICT活用で「一人に一台のPC」を施策進めていますが、早いエリアですと、もう次のステップに来ています。当たり前ですが「PCをいれること」が目的ではなく、それを行うことで「何をやるか」。少しずつですが、親御さんも先生方もSTEAM教育に関して、関心を持っていただける方が増えており、世界の動きを見ていても、日本でもこれから社会のスタンダードになっていくことは自明です。そのなかで、どれだけ多くの前向きな連携を作っていくか、が非常に重要なポイントになりますよね。」

内藤市長

「自治体にできることってどうしても限られていると思います。お金も情報も足りないから、国に依存する部分も多い。でも何もしないじゃ取り残されちゃうから、できることからしないといけない。そう考えると自治体は、自分たちが完璧な存在であるべきと考える必要はないんだと思います。もっとみんなに「助けてください」って言っていいんじゃないかと。期待しあえる関係って大事だけど、一歩間違えると押し付け合いになってしまう。だからもっとみんなで寄り添って、足りないものを補い合って進んでいく関係でありたいなって、そう思っています。

私は徳島に戻った後、あらためて徳島大学の工学部に入学して、その縁で今回のコロナ禍の対策として、共同でフェイスシールドの開発を手掛けたりしました。このように、勉強が勉強だけで終わるのではなく、社会の課題解決につながっている場面をしっかり見せていける、そんな実践に即したコラボレーションの場も増やしていきたい。自治体・企業・大学・個人など、現時点では想像でもできないような相乗の可能性はたくさんあると思っています。」

井上

「本当に重要ですよね。専門家の方と直接繋がれたりとか、実装の部分をしっかりできるように、私たちも仕組みづくりに力を入れていきたいと思っています。

 国や自治体と学校、学校や先生と生徒、親と子ども。新しい教育のかたちを進めるのって、本当に「鶏と卵」の世界で、どっちかからだけアプローチしても進みません。みんなが同時に変えていきたいと思わないといけない。それは正直時間がかかることだとは思っています。

 しかし世界の潮流は明らかに、STEAM教育を重視する方向に舵を切っていますし、日本でもその重要性を叫ばれる機会が増えました。ですから私たちにとって、どう世論の後押しを作っていくかが、これからのとても大きなテーマになっています。だからこそ、社会的な注目も高い佐和子さんがSTEAM教育に興味を持っていただいていることにとても感謝しています。」

内藤市長

「徳島でもやれるんだぞってことを、しっかり形にしたいですよね。オンラインであれば学びの場所は問わないし、地域を超えて情報を共有することもできる。光ファイバー網の整備が充実している強みなどを生かして、「徳島モデルを全国に水平展開できるように」そんな心意気で頑張ろうと思ってます。」

井上

「そういった前向きな自治体の方、学校、先生をつないで、お互いの情報共有はもちろん、モチベーションを支えていくことも私たちの重要なミッションです。頑張っている方の表彰制度なども進めながら、気運を作ってくれる方の後押しをしていきたい。佐和子さんのような存在が、若い子に夢や希望を与え、次の世代を作っていくのだと思っていますから。」

内藤市長

「やっぱり何事も、自分ごとで考えるのが大事ですよね。人のせいにして悲観するのではなくて、こうしたらもっと良くなるんじゃないかって自分で考えて動けるかどうか。一見難しいようだけど、たぶん今まではそれが大事だって言うことを教えてもらえなかっただけ。

これからはさらに答えのない問いや課題が増えてくるし、その対応に求められるスピードも格段に速くなる。前例を踏襲するだけじゃなくて、「走りながら考え、考えながら走る」「その解を自分のなかから生み出していく」っていう感覚が当たり前になるためにも、今後のSTEAM教育のさらなる浸透に期待しているし、私もその伝導役の一人でありたいと思っています。」

井上

「まさにSTEAM教育に重要な要素のキーワードがたくさん詰まったお話しでした。本日は、ありがとうございました。」

〈 編集長所感 〉
実は、15年来の知人である佐和子さん。学生時代からとにかく活動的で、輝いている姿を見ていたので、今このような形で最年少女性市長としてご活躍されているのも非常に納得です。そんな佐和子さんがいち早く、徳島市のマニフェストにSTEAM教育を入れられ、次世代教育に対しても力を入れようとされているのも大変嬉しく、頼もしく感じました。有難うございました。

カテゴリ:STEAMレポート