鈴木寛氏インタビュー(後編)

2022.01.07│STEAMレポート

STEAM教育のその先へ。STEAMは「A」が要である。(後編)

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Q:ご自身のルーツからも確固たる信念があられ、そこで日本ではSTE「A」MとAが入る学びが導入されたわけですね。非常に感慨深いです。 鈴木寛氏の考える「STEAM教育」の中での「A」の立ち位置及び重要性について教えてください。

学生時代、駒場東大前の小劇場を地盤に活動していました。同じ頃、近くにある、こまばアゴラ劇場で平田オリザ氏に出会いました。通産省を経て議員になってからも、教育や文化事業など、さまざまな取り組みに一緒に挑戦しました。二人で「演劇教育」をこの国に普及したいと熱く語り合ったのが2001年です。

残念なことに、日本の国公立大学には、演劇科はありません。映画科もやっと芸大にできました。世界的に見ても、このような国はありません。

「国公立大学に演劇部を作ろう」「小中学校にも演劇教育を取り入れよう」これが私たち二人の野望でした。2001年を皮切りに、演劇教育を広めるチャンスがあれば、果敢に挑戦してきました。

演劇教育を普及させようという思いから、2009年にコミュニケーション教育推進会議を文部科学省に設置しました。平田氏に座長を務めていただきました。筑波大学付属駒場の先生とも一緒に活動しました。地道な活動の成果か、今では演劇教育に熱心に取り組む学校が増えてきています。

その一つとして、大阪大学の鷲田清一先生が、2005年に同大にコミュニケーションデザインセンターを設立しました。平田氏もそのメンバーとなり、アート、コミュニケーションを重視して、作り手と受け手の高度なコミュニケーションをする場として、学生に開かれています。

現場にアート教育を取り入れるだけでなく、国としての取り組みも諦めずに継続しました。

その一つが、劇場音楽堂法を立法させるための活動です。
もともと日本は、過去の法律を遵守し、その定義から作らなければいけないというのが日本の法律です。しかし、単純に法律にのっとっただけだと、アート的な視点はありません。作品を作るような場所や人の要素が入らないのです。劇場の定義を自分たちで定めようと動きました。

また、東日本大震災のとき、私は文部科学副大臣をしていました。ふたば未来学園を東北復興のシンボルとして創設しましたが、21世紀を作る人材の輩出を目指して、未来創造探究という科目を作り、その中心に演劇据え、同学園での演劇教育は、のちに公立の学校教育に繋げるためのモデルとなりました。
生徒がさまざまな人に取材して、被災者や東京電力の人にインタビューし、自分の耳で聞いたり、実際に肌で感じた葛藤を脚本や舞台で演劇として表現する。まさに自分自身も「当事者」となるということです。

2016年、下村博文大臣・馳浩大臣の時の大臣補佐官をしていた際に、開催国のホストということで、G7の教育大臣会合の議長代行を担当しました。あらゆる機会を、STEAM教育を広げることに繋げてきたつもりです。STEM教育はオバマ大統領が発言されてから言われてましたが、私は、2001年ぐらいからずっと「A」をつけて「STEAM」と考えてきたんですよね。

特に、日本では皆さんご存知の通り、元々STEMが強いんですよ。米国はSTEMが弱いのでSTEM。日本に足りないのは、「A」なんです。なので、日本のSTEAM教育に重要なのは、「A」そういっても過言ではないと思います。

Q:まさにSTEAM JAPANでも最初の記事*で、そこの重要性を述べさせていただいているので、非常に共感してお話を聞いております。とはいえ、今までの従来の教育に保護者層が自体が引っ張られてしまうこともあると思うんですね、ずばり、保護者層が留意しなくてはならない点など、もしありましたらお伺いさせてください。

保護者自身の意識の変化ですね。これは非常に重要です。教育改革で最も重要なのは「保護者」といっても過言ではない。保護者の理解をどのように得るかが課題なのです。

これからAIが台頭していく世界を生きていく子どもたちに、AIができないものを学ばせる必要があると考えます。

実は、保護者こそがアートに触れるべきなんですよ。保護者の方が子どもより苦悩を抱えているケースも多いですよね。映画1本見るだけで、演劇を観るだけで、本を読むだけで、心が整理されたり、価値観が変わる時がある。また全ての子どもが幼い頃から演劇やアートに触れることが大切だと思います。興味、関心が早い段階から選択肢を広く持てるようになると思います。

編集部注: 質問箇所に記載している「STEAM JAPAN 記事」はコチラ

Q:保護者こそがアートに触れるべき・・・!非常に本質のお話に感じました。それでは、最後に鈴木寛氏の考える「未来の教育の在り方」について、どのように思われているか。お教えください。

アートは、総合探究です。音楽祭や学芸祭を開催までの過程を一緒に協力して創作していく。このプロセスのなかで、違う才能を持った人たちが集まって行うのがアートで、総合教育。自分たちで考えて、さまざまな仲間が集まって試行錯誤していくことが、総合探究です。

芸術科の教員の先生こそがこれからの総合探究教育の主役だと確信しています。正解のないものとの向き合いが、これから必要で、人間にしかできないAIができないことをするのが、これからの残る仕事であり、今後ますます重要になることだと考えます。

芸術の先生に「志をもっと強く持って欲しい」と話したことがあります。美術と音楽の先生は自分の可能性を広げて欲しいです。子どもたちにアートがいかに素晴らしいのかということを自信を持って伝えて欲しいです。今後、演劇の先生も育成できたらいいですね。

AIにはありませんが、アートをする上で人間には、必ずつくりたいという意思が必要です。”自由意思”の中に、”つくりたいテーマと方法”があって、”創作欲”と”知恵”があって作品は作られます。この思想を持った人材を育てるには、アートが欠かせません。置き換え不可能な唯一無二の素晴らしさを理解していくこと、この世に1つしかない、それぞれが違うということを理解し合うこと。これらを子どもたちに働きかけられるのはアートしか考えられません。

福沢諭吉の言葉に人間の本質を説いているものがあります。そこからもわかるように、

人間には作りたいという欲があります。AIにはない、その人間にしかできないものこそが重要。アートの価値は、一人一人違う。一期一会の出会い。この世に置き換えはできない。唯一無二の存在。卒近代、このエンジンこそが”アート”なのです。

演劇やアートを公教育に!と取り組んできて、はや20年。2021年4月に、ようやく、平田オリザさんが学長となって、兵庫県立芸術観光専門職大学が開校されました。私も客員教授となりました。演劇をメインに置いた教育が、公立で初めて行われます。ここまで20年かかりました。

また、アートは美術・音楽だけではありません。美学であり。美術史・アート史や音楽史、日本美術の歴史など時代の連想を学ぶことは非常に大事だと思います。その時代を反映しているのがアートです。

ここに、未来の教育の在り方のヒントは詰まっていると思いますよ。

編集部あとがき

STEAM教育=STEMやプログラミングということではなく、なぜそこに「A」が入っているのか。それについて、非常に熱い情熱を持って取り組まれた方々がいて、今、日本のSTE「A」M教育がある。我々STEAM JAPANにとっても、点と点が線に繋がるような感覚をいただけた特別取材となりました。鈴木寛先生、お話ありがとうございました・・・!