〜なぜ今、STEAM教育?〜

アルー株式会社 代表取締役社長の落合文四郎氏と、東京学芸大学大学院の大谷忠教授が共同研究メンバーとなり、東京学芸大学、東京学芸大子ども未来研究所と連携し、STEAM教育のプロジェクトを立ち上げ、1年間にわたり共同研究が行われました。このプロジェクトの代表であるお二人と一般社団法人STEAM JAPANでも共に活動をしている代表理事であり、STEAM JAPAN編集長の井上祐巳梨が、STEAM教育対談を行いました。*アルー株式会社 機関誌『Alue Insight』vol.5の中の記事より一部抜粋いたしました。

大谷忠氏 プロフィール

東京学芸大学大学院 教育学研究科 教授
東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学),博士(教育学)取得。専門は材料加工学,技術教育学。島根大学総合理工学部助手,助教授,茨城大学准教授等を経て現在に至る。教員養成における教科内容学及び教科教育学における2つの学位を取得し,現在教職大学院の課程において教員養成に携わる。技術・工学教育の視点からSTEM/STEAM教育に取り組んでいる。東京学芸大こども未来研究所理事長,(一社)STEAM-JAPAN理事等を務める。

落合文四郎氏 プロフィール

アルー株式会社 代表取締役社長 
東京大学大学院理学系研究科修了。株式会社ボストンコンサルティンググループを経て、2003年10月株式会社エデュ・ファクトリー(現在のアルー株式会社)を設立し、代表取締役に就任。「夢が溢れる世界のために、人のあらゆる可能性を切り拓きます」をミッションに掲げ、企業の人材開発・組織開発に取り組むほか、個人としても「教育は選択肢を広げる」という信念のもと、STEAM教育のプロジェクトに携わるなど公教育にも活動の範囲を広げている。

井上 祐巳梨 プロフィール

株式会社Barbara Pool 代表取締役/一般社団法人STEAM JAPAN 代表理事/STEAM JAPAN編集長
日本大学芸術学部卒業。大手広告代理店を経て、2013年オーストラリア政府のキャンペーン「The Best Job in the World(世界最高の仕事)」で、世界60万人から日本人唯一の25名に選出。同年6月に株式会社Barbara Pool 設立。企業・地域の課題を解決するクリエイティブ事業を主体に、多数のプロジェクトに携わる。2019年にSTEAM事業部を立ち上げ、WEBメディア「STEAM JAPAN」の編集長に就任。同時期に、経済産業省『「未来の教室」実証事業』に採択。2020年文部科学省ICT活用教育アドバイザー事務局。一般社団法人STEAM JAPAN設立、代表理事に就任。

昨今注目されるようになってきたSTEAM教育とは?

〜アメリカでは、教育の基本として理数系に重点をおいたSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育を推進しています。日本ではそれにA(Art)を加えたSTEAM教育を推進しています〜

大谷氏
技術革新などで私たちの生活が大きく変わっていくなかで、新しい教育の在り方が求められているということが背景にあります。今必要なのは、これまで学校教育で大切にしてきた「認識すること」に重点を置いた教育に加え、認識したことを社会に活用し、広く創造していくことができる教育なのですが、それこそがSTEAM教育なのです。

日本はもともと教育格差が少ない国です。テクノロジーもうまく使いこなしているし、教育水準も高い。だから日本では、課題を解決できるSTEMに、想像を広げるAを加えたSTEAM教育が合っていると考えます。

井上
世界的にも、「つくる」(創造)に重点を置いた、分野横断的な学びに移行してきていると感じますね。STEM教育先進国のアメリカやEUでは、2010年から2015年までの間に国家戦略としてのSTEM法が確立されていました。最近ではアメリカのように各国、STEM教育にアートをプラスしたSTEAM教育へと定義を拡張する動きも見受けられます。これからの時代には、STEAM領域の理解と学びを具体化する能力がますます必要になってくると思います。

日本の教育の中でSTEAM教育を推進する意義はなんでしょうか?

落合氏
日本の教育水準は諸外国と比べても高いと思いますが、やはりカリキュラムに沿ってそれを習得する比率が高いと感じています。

そこに必要なものは、個人の「ありたい」「やりたい」を育むことです。そして高いレベルで学んできている各教科と結びつけることが重要です。
これは社会人教育の課題の一つでもあると考えます。「ありたい」「やりたい」が答えられない。もし、あったとしても、言い出しにくい環境があるのが日本社会・企業の問題だと思っています。

これからは、個人の「ありたい」「やりたい」をどれだけ教育に混ぜ込んでいけるかがポイントになってくるでしょう。そういう意味でも、STEMではなく、STEAMにしたのはとてもいいポイントだと思います。

井上
時代に沿った世界水準に合わせていくことは非常に重要と思っています。今、本当に「答えのない問いに、自分で答えをつくる」ということをもはや訓練(!)としてやっているのでは、というようなことを各国の教育の現状を見ながら、感じることがあります。

また、プロジェクトメンバーでもある東京学芸大学の金子嘉宏先生や、​​シリコンバレーに住む私の姉も「Aを言い換えると、ビジョンを描く力だ」と言っていて、本当にそうだな、と。ビジョンを描き、具体化する。そして、他人に自分の言葉で伝えることができる人。日本には、そんなビジョンを描けるリーダーがあまりいません。ここを強化していくことが望まれています。
(以前省庁の人と話した時に、「日本はアジェンダファイトが弱い」とおっしゃっていたことも、とても印象的でした。)

そして、これからの教育のあり方を考えると、教育界の中だけでなく産業界など実社会(社会実装)と結び繋げた学びへの移行は、すごく自然な流れだと思います。

大谷氏
学校教育で「総合的な学習(探究)の時間」がありますが、それとSTEAM教育はどう違うかと聞かれることがよくあります。STEAM教育は、実社会・実生活に自ら関わり,社会実装を目指すところが特徴です。「総合的な学習(探究)の時間」の実際の授業は、その手前の「まとめ・表現」がゴールになっています。「知る」(探究)と「つくる」(創造)のサイクルを生み出すのが大事なのですが、学校教育は探究で終わることが多い。

新たにつくる(創造する)ことを通したサイクルから、もっと何かを“知りたい”という気持ちを大事にする教育が必要です。そこから実社会に繋げていくことや、「ありたい姿」を描くことにつながる教育が重要だと考えます。

今後、どのように共同研究結果は展開されていきますか?

大谷氏
これまでの学校教育は実社会と距離を置き、学問的な「知識・技能」を獲得することに重点が置かれてきました。それに対し、学び手が実社会に関わり、変化を起こすことを目指すのが、STEAM 教育の重要なポイントです。知るとつくるの連携がSTEAM教育のそのものです。

共同研究の成果として発表した「STEAM 教育のすすめ」の5つの要件にも入っていますが、「あるべき姿」を起点にするのではなく、まずは「ありたい姿」を見いだし、描くことを起点とするのが STEAM 教育の特徴です。今回の研究でできたSTEAM教育を実践していく土台となるものを、一人でも多くの方々に知ってもらい、現場の先生方の認識を増やしたいですね。

落合氏
私自身が、このプロジェクトを立ち上げようと思ったのは、社員育成サービスを提供しているなかで、「問いが与えられれば答えを導ける人はいても、自ら問いを立てることができる人は少ない」という問題意識があったからなんです。

社会人の企業研修においても、どうあるべきかではなくて、どうありたいかというプロセスに重点をおいていきたいです。

STEAMとは何かをただ学ぶのではなくて、5つの要件が明確になり、どのようなプロセスで学ばせるかという骨組みを作ることが今回、できたと思います。理数系に関しては、日本の教育の良さ、高いレベルを生かしてほしい。強みを生かしながら、そこにSTEAM教育を入れ込んでいくか。先生方の学びの土台となり、日本らしいSTEAMを展開していきたい。時間がかかっても公教育全体にどのように広まるかを重視したい考えています。 

井上
先日、大分県の「女性活躍推進事業」で、2020年に米TIME誌初の「Kid of the Year」、「最も優れた若きイノベーター」を受賞した15歳の女性科学者、ギタンジャリ・ラオさんの講演会を行いました。彼女が、「学生が何か行動を起こしたいと言ってきたら、『YES』と言ってください。学生が一歩踏み出そうとすることをサポートしてください」と言っていたのが印象に残っています。一人ひとりの「ありたい」を大切にするためには、周りの教師、大人たちのサポートも重要だなと感じます。

先生方からは、STEAM教育の要件としてまとまっていくものが求められていました。STEAM教育の推進の要になると思っています。
これをもとに教員研修に用いたり、必要とされている先生方の手元に届けたいですね。

★ 本対談の3名は、一般社団法人STEAM JAPANが行う「STEAM教職者研修」(E-Learning)でも各テーマで講義を行っています。こちらの研修にご興味のある、教育委員会及び学校様はこちら(問い合わせリンク)からご連絡お願いいたします。

関連リンク

一般社団法人 STEAM JAPAN:https://steam-japan.com/institute/

STEAM JAPAN : https://steam-japan.com