2023.04.26│STEAMレポート

STEAM教育に取り組む先生シリーズ第一弾! 大分県立日田高等学校 遠藤源治先生

総合的な探究の時間、探究、STEAM教育等、文部科学省の学習指導要領には様々な学習方針の名称が記載され、新しい教育実践が必要とされています。既に、学校内での交流や校外では地域の方々との交流で教科を越えた学びを実践している先生がいらっしゃいます。

今回は、大分県立日田高等学校で教科横断の授業を実践している遠藤先生から、学校全体でどのように探究学習に取り組まれているのか、先生自身が重視している考えなどをオンラインで伺いました。
新学期を迎えた教育現場で働く全国の先生方にとって、新しい取り組みへのヒントになればと思います。

オンラインインタビューで質問に答える遠藤先生

担当教科・教員歴について教えてください。

担当教科は物理です。
今年で、教員歴は22年になります。

最初に採用されたのは大分県宇佐市の四日市高等学校です。私が着任していた当時は、大学進学、専門学校、就職など生徒の進路は多様な学校でした。様々な個性を持った生徒と関わった5年間でした。
次に進学校である大分舞鶴高等学校に着任して、国公立大学への合格率を上げるべく、どのように生徒たちを大学に進学させられるか、進路指導をメインに関わりました。また、SSH*に指定されているこの学校で、「教科書になく、答えのない問いにどう向き合うか」ということについて初めて触れました。

その後、県北地区の進学校である中津南高等学校に4年間在籍。県内でも強豪の女子バスケットボール部の担当となり、土日は生徒たちと一緒に練習や遠征漬けでした。校内の業務では、ここでも受験指導が主でした。その後、大分県教育庁高校教育課に4年勤務した後、現在はSSH指定校の日田高等学校の2年目が終わろうとしています。

教員は基本的には学習指導要領に示されている担当教科の内容、答えのある問いを教えることが求められています。平成14年から「総合的な学習の時間」がはじまり、そこから教科横断的な視点で取り組むことが重要視されるようになりました。しかし、実際の現場では、どのように授業に取り込んだら良いのかという悩みが多くかったように思います。

「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」へと新学習指導要領に変わるタイミングで、教育委員会に在籍していたことは各学校がどのように探究的な学びを進めていくのかという課題に深く関われたのは良い機会でした。
この教育委員会での4年間はとても大きなもので、この頃、STEMが発展したSTEAMというキーワードにも出会いました。

(*SSHとは・・・
文部科学省では、将来国際的に活躍しうる科学技術人材の育成を図るため、先進的な理数系教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール」として指定し、理科・数学等に重点を置いたカリキュラムの開発・実践や課題研究の推進、観察・実験等を通じた体験的・問題解決的な学習等を平成14年度より支援しています。
(文部科学省サイト:https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/gakkou/1309941.htm より)

教育委員会ではどのような経験をされましたか?

総合的な探究の時間を県内の各学校で推進していくために「理数探究実践講座」を企画しました。内容は、年3回、各学校の総合的な探究の時間の担当者に向けた研修会です。
大分舞鶴、佐伯鶴城、日田高校の大分県内のSSH指定校がこれまで取り組んできた探究的な授業内容を、この研修会で県内の総合的な探究の時間の担当の先生たちに体験してもらいました。ここでは、「答えのない問いへの学習指導をどのように進めるのか」に、先生自身が体験してもらうことがメインでした。「探究ってそもそもなんだ?」というところからの研修です。

先生たちが探究的な学びを学び合う中で、他教科の先生と深く議論する機会を作り、共に学び合う時間を作ることがお互いの考えが深まるきっかけになったと思います。

答えのある問いを解くのは先生たちにとって得意ですが、その逆はとなると苦手な先生もいると思います。各教科の先生の特性によって解決へのプロセスが違うので、ここで他教科の先生と出会い、学び合うことは考え方の違いや解決へのプロセスは様々だと学ぶ良い経験だったと考えています。

実際に取り組んでいるSTEAM教育の内容について教えてください。

現在、私は日田高校では学校全体の探究学習のコーディネートの役割を担っています。
「水郷ひた」として昔から知られている日田市ですので、その地域の特徴である「水」をキーワードに様々な角度から課題解決のテーマを考え、解決の手法を学ぶのが1年生です。2年生では文系・理系とクラスが分かれ理系クラスでは、より科学的なテーマを探究していきます。
3年生では、この2年間で学んできた手法を用いて、社会実装へとつなげていく取り組みをします。論文やポスター、またこれらを発信するためのホームページの作成などをして、様々な形でアウトプットしていきます。

 令和5年度の大分県立日田高等学校の学校案内 (日田高等学校の授業のホームページより抜粋)
日田高校の授業の一部を紹介(遠藤先生より提供)
日田高校の課題研究の一部を紹介(遠藤先生より提供)

(探究学習に取り組む上で)教員として遠藤先生が大事にしているマインドはどのようなことでしょうか。

1つ目は、「生徒が主役になるような授業を心がけること」です。

今までは知識伝達型の学びでしたので、効率よく正しい知識を伝え、生徒はいかに正確にアウトプットができるかがメインの教育方法でしたが、生徒の可能性を引き出せるように心がけています。
例えば、「公式を教える。次は、その公式を使って計算や問題を解く」という流れではなく、公式をツールとして使い考えさせるようにしています。私が答えを教えるだけではなく、生徒自身にその知識の活用方法を考えさせるようにしています。

2つ目は、「生徒のモチベーションが高まる学びの実践」を考えています。

教科書だけの学びではなく、日常生活を軸に学びを深めたり、学校の学びと日常生活をつなぎ合わせて、教科書だけの学びではなく、実体験や現象を元に学びを深められるように考えています。そうすることで、生徒が学びたいと主体性を促すように取り組んでいます。

3つ目は、「失敗を恐れないこと」です。

コロナ禍という状況もありますが、ICT活用教育が全国で進む一方で教育現場ではタブレットを活用した授業にうまく切り替えができる先生もいれば、対応が難しい先生もいます。私自身も生徒と一緒に試行錯誤しながら、タブレット等をどういう使い方がいいのか生徒からの意見も聞きながら、一緒に授業づくりも探究しています。

最後の4つ目は、「新しいことに常に挑戦する気持ちを持ち続けること」です。

教員歴20年以上の私とデジタルネイティブの生徒たちとでは、情報取集の方法・学びの方法が違っています。生徒がどのようにデバイスを使っているのかを知り、私たち教員が頭を柔らかくすることで、新しいことにチャレンジできることも増えてくると思います。
教員自身が探究心を持って、失敗を恐れずにやっていくことを忘れてはいけない。今までのスタンスと教員が変わる必要があると感じています。

教員が身につけるべきスキル・学生たちに身につけさせたいスキルをどのように考えておられますか。

学生たちに身につけさせたいスキルは4点あります。

.課題解決力・・・生きていく上で仮説を立て、分析することで課題を解決するスキルです。

2.連携力・・・コロナによって、連携・連帯・協働などの力が弱まってきているように思います。他人の意見を傾聴や共感することで、多様性を認め合うことを大切にさせたいです。

3.突破力・・・粘り強く、諦めないといった主体性を持つことです。また、人前で失敗することを必要以上に恐れ、怖いと感じる生徒も多いように感じるので、この力を身につけて欲しいです。

4.ICTの活用力・・・SNSも含めて、ICTの活用・応用でできることが増えてきているので、この活用するスキルを身につけるとインプット・アウトプットがスムーズにでき、個人としてもできることが増えると考えています。

教員側には生徒たちにこれら4つの力を身につけさせるために、生徒たちの伴走者になれるかが重要だと思います。

頭を柔らかくし、様々な物事を結びつけて、生徒たちの学びにつなぐことができる「つなぐ力」が求められていると思います。生徒たちをやる気にさせ、自分から主体的に調べ、考え、行動に起こすように導く存在であることが必要です。

ICTを活用しながら進める授業風景(=遠藤先生より提供)
ICTを活用しながら進める授業風景(=遠藤先生より提供)

まざまなご活動の中で苦労したことはなんですか?

生徒たちが取り組む活動について考える場合、教員側が全て対応できるとは限りませんので、その点は、大学の先生に相談して助言をもらい、また地域の方々との繋がりがとても助けになりました。

地域のNPOの代表の方等と接点を持つことができ、その方のおかげで地域の様々な専門家のコミュニティーとつながることができました。「〇〇の分野なら・・さん」などと紹介をしていただき、生徒たちが考え出してきたテーマに教員側で否定することが少なくなりました。
このように外部リソースの活用や外部の方と生徒を繋ぐことも私たち教員の大きな役割だと考えています。

共に試行錯誤する全国の先生方へメッセージをお願いします。

探究学習を進めて行く中で、失敗を恐れないで欲しいです。「うまくやらなきゃいけない」と、考えすぎる必要はないと思います。今までの教育と大きく変わってきている中で、先生が生徒に教えるというスタンスから生徒たちの伴走者というスタンスに転換していく必要があると強く感じています。

また、今までの考え方ややり方に固執してしまうのではなく、発想を柔らかくすることも重要です。
新しいことにいきなり挑戦することが難しい時は、「他の事例を真似」するところから始めてみることを勧めます。「学ぶことはまねぶこと」とも言われますので。
できることから少しずつ試してみる。お金や時間がかからないもの、かけなくてもできるものからチャレンジしていきましょう。一緒に探究を楽しんでいきましょう!

お知らせ

大分県立日田高等学校:https://kou.oita-ed.jp/hita/

大分県教育庁チャンネル 遠藤先生の公開授業動画はこちら:授業まるごと!大分県立日田高校 高1物理基礎 物体の運動とエネルギー 遠藤源治指導教諭