スウェーデンは、若者の起業が盛んな国として世界的に知られています。「ユニコーン企業」の輩出数では、なんと、首都ストックホルムが人口あたりでシリコンバレーに次いで世界トップクラス。音楽配信サービスの『Spotify』や、ゲーム『Minecraft』を開発したMojang Studios、人気パズルゲーム『Candy Crush』を生み出した企業など、その代表例は数多くあります。
こうした背景の一つには、スウェーデンの教育が若者の主体性とアントレプレナーシップ(起業家精神)を育むことに重点を置いていることが大きく関係していると考えられています。今回は、ストックホルムから電車で約30分、約1,400人の生徒が通うTumba高校を訪れ、その教育現場を見学させていただきました!
見学日の当日、Tumba高校では、F1RSTという外部団体と連携したイベントが開催されていました。このイベントは、企業や団体が高校生に対してさまざまな職業の可能性や高等教育の道を提示し、生徒たちの視野を広げることを目的としています。この取り組みは、教育機会の平等や多様性を促進する観点からも重要視されており、毎年多くの生徒が参加しているそうです。イベントでは、生徒たちは自分たちの専攻や興味に関連する企業や団体によるワークショップに参加し、実際の職業に触れる機会を得ます。まず、さまざまな職業について知ることで、生徒たちは自分の興味や関心を広げるとともに、社会の仕組みや働く意義について考えるきっかけを得ます。このような体験が、将来のキャリア選択だけでなく、アントレプレナーシップ教育の一環としても重要な役割を果たしていると考えられます。
また、このような機会だけでなく、多くのスウェーデンの高校では経済プラグラムや選択科目の中に、授業の中で高校生が実際に起業し、会社を運営し、さらには会社を解体するまでの一連のプロセスを経験することができる科目があるそう。これにより、起業の基礎を学ぶことができます。日本のように企業での大量採用が少ないスウェーデンでは、起業することが重要なキャリアの選択肢の一つと考えられているそうです。
若者の起業家精神を支える「Ung Företagsamhet」
F1RSTイベントとは別に、スウェーデンには「Ung Företagsamhet(UF)」という非営利で政治的に独立した教育団体があります。この団体は1980年の創立以来、40年以上にわたり高校生に起業家精神をサポートし、すべての若者を対象に起業家精神を育むことを目指しています。このように外部団体のサポートもスウェーデンの起業家精神の育成に大きな役割を果たしているようです。
Ung Företagsamhetサイトより抜粋
“現在では高校を卒業する生徒の3人に1人がUF会社を運営しています。これまでに累計60万人以上の高校生がこの取り組みに参加しており、実践的な学びの場を提供しています。こういった活動が、スウェーデンの起業家UFの活動は、生徒が主体的に考え、実践を通じてスキルを磨く機会を広げる重要な役割を果たしています。”
参照:https://ungforetagsamhet.se/
Tumba高校では、実践的な学びに取り組むさまざまな専門学科が設置されているのも特徴です。授業内でのインプットで終わらず、リアルに社会につながる経験ができる企業体験が組み込まれています。
スウェーデンの高校生は、16歳になると国から学習補助金を受け取ることができ、このお金で必要なものは自分たちで購入することができます。さらに、教科書や給食費が無料で、交通カードも支給されるため、生徒たちは公共交通機関を使って自由に移動し、学びや活動の幅を広げることができます。こうした充実した社会システムが、若者の自立心や主体性を育む環境を支えているようです。
加えて、生徒たちはやりたいことを実現するための主体性も発揮しています。例えば、卒業イベントの計画に向けてクラスごとに必要な資金をどのように稼ぐかを自主的に計画し実行しています。 日本の高校生では、学校行事の費用を親が負担するケースが多い中、スウェーデンでは高校生であっても自分たちで資金を稼ぐことが一般的です。このような経験を通して、生徒たちは自然と経済的な自立心と、アントレプレナーシップの観点からも重要な主体性を身につけていくのかもしれません。
Tumba高校の学校見学を通じて見えてきたのは、生徒たちが自ら考え行動し、リアルに社会とつながりながら実践を通じて学ぶ姿。スウェーデンの教育における主体性の育成とアントレプレナーシップを重視する姿勢は、若者の可能性を広げる一つの鍵となるかもしれません。