【インド】30年ぶりの教育政策 未来の人材を育てるには

インドでは今年7月、新たな全国教育政策であるNatonal Education Policy 2020(NEP2020)が承認されました。1986年から実におよそ30年ぶりの見直しです。

これまでの教育政策で主な課題として扱われていたのは、教育へのアクセスと公平性でした。新しい教育政策でも公平性は扱われていますが、大きな目標として目指しているのは個人の力を伸ばし、未来のための世界市民を育てることです。

その目標達成に向け、NEP2020はカリキュラムの転換だけでなく学校制度や規制の変更など、あらゆる方面について言及しています。

学校制度の転換として大きなものは、3歳からの早期教育が取り入れられたことです。従来採用されてきたのは、6歳から始まる10・2制です。しかしNEP2020では、3歳から始まる5・3・3・4制を採用しています。その理由として、脳の発達の大部分が6歳以前に起こることと、経済的に弱い立場にいる子どもを中心に多くの子どもが早期教育を受けられていないことをあげています。2030年までには、すべての子どもが早期教育を受けていることを目標としています。

カリキュラムに関する重要な変更の一つは、知識重視のカリキュラムから応用学習への転換です。カリキュラム内容は重要な部分のみに絞られ、削減された分は批判的思考を用いて探求やディスカッション、分析などを行うのに当てられます。二つ目は、体験的な学習の導入です。アートやスポーツ、ストーリーテリングを融合し、教科の枠を固定しない分野横断的な学びを実現することを目指しています。

全体を通して共通するのは「楽しく学ぶ」ことが重視されている点です。生徒が主体的に、楽しみながら学ぶ教育への転換が目標となっていることがわかります。

実現への課題:優秀な教員をどう確保する?

一方でこれらの実現に向けて大きな課題となるのは教員の確保と育成です。教員に求められているのは、認知能力だけでなく、社会的・感情的スキルなども含む多面的な能力を育成することです。さらに、従来の知識重視の教育に比べると体験等を重視する新たな教育手法は教員への負担も大きくなります。優秀な人材を教員に確保した上で、既にいる教員にも新たな教育手法を身につけさせる必要があります。

さらにインド特有の事情として、文化の多様性もあります。教員は、これらの地域的・文化的特性も理解した上で教育を行う必要があります。

地域によらず優秀な人材を教員として確保するための対応策として、NEP2020では地方の学生のための奨学金や地方の学校で働く教員のための住居の確保、異動の廃止をあげています。

しかし、2030年に予想される生徒数に対して教員と生徒の人数比1:35を実現するには追加で700万人以上の教員が必要となると予想されています。また、教員を尊敬される立場に回帰させねばならないと述べていますが、教員の平均給与は年200,000ルピー(約28万円)と高くはありません。このような課題をいかに解決するかが、NEP2020を実現させるかの鍵となりそうです。

参照サイト

India Today “How to implement National Education Policy 2020”

Government of India “National Education Policy 2020”

カテゴリ:世界のSTEAM教育
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