3年連続で世界幸福度ランキング1位を獲得するフィンランド。世界でもトップクラスを誇るフィンランドの教育手法は、世界中から注目されています。リーダーシップをとるのは、世界で最も若い女性首相です。今回は、女性首相が推進する注目の教育事情をご紹介します。
2019年12月、フィンランドで世界で一番若い女性首相が誕生しました。サンナ・マリン氏(当時34歳)です。フィンランドでは男女平等化が進んでおり、2020年度の世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ指数」では第3位。彼女はフィンランドで3人目の女性首相にあたります。
マリン氏の父親は、アルコール依存症で、幼い頃に両親が離婚しました。その後、彼女は実の母親と同性パートナーに育てられましたが、離婚後も母親は定職が見つからず、貧しい生活を強いられたそうです。
フィンランドの義務教育・高等教育は無料で「国民は自分の夢の実現や就職のためにすぐれた教育を受ける権利がある」という理念があります。マリン氏も国民の特権を活かして、タンペレ大学で行政学の修士号を取得しました。後に、彼女は「恵まれた環境ではなかったのに、自分がここまで来られたのは、国の福祉制度と学校の先生のおかげ」と語っています。
国家支援と全ての国民に平等な社会を目指すため、彼女は政治家の道を志したのです。
フィンランドの教育の特徴として「教育費が無料であること」と「教師の資質が高いこと」が挙げられます。
国民全員にプレスクールから大学院まで無償で教育が提供されるほか、0歳から保育園に通うことも可能で、初等教育が開始される7歳までの1年間プレスクールに通うこともできます。
7歳~15歳は「基礎学校」(義務教育の期間)として一貫教育を受けます。義務教育を修了すると、高等学校(あるいは職業学校)に2年~4年間通います。応用科学大学・総合大学は3年~5年間です。
また、教師は国民の憧れの職業で、その養成にも尽力しています。教師になるためには、修士号の取得が必須。大学の教育学部は倍率が高く、入学には筆記試験のほか、厳しい面接もあります。
教育学部では、大学1年生から生徒や現場の教員と直に実習するため、教師になる前から実践的な経験を積むことができます。フィンランドの教師の質は非常に高く、生徒の両親からも絶大な信頼を寄せられています。
なぜフィンランドの教育は世界的にも評価されているのでしょうか?
フィンランドでは、子どもたち1人ひとりの個性を尊重し、個性を最大限に引き出すことを目指しています。義務教育では、全国統一試験の実施や校則もなく、生徒の自主性が重視されています。
教育費も無料であることから、生活環境にかかわらず、国民全員が平等に教育を受けられます。地域格差がないよう、フィンランド全土で均等に勉強ができるように配慮されています。
授業は各教員の裁量に任されます。カリキュラムもそれぞれの教師が計画して実践するため、教員はお互いを認め合いながらも、それぞれ独立した存在といえます。
国際的に最高水準の教育制度を誇るフィンランドですが、フィンランド政府は、地域・社会的な経済格差やジェンダーギャップ、移民問題、幼児教育の取り組み、雇用の創出など、まだまだ教育に関して課題を抱えていると述べています。研究・開発・イノベーションに対するGDP支出比率は、2030年までに4%を目指していたにも関わらず、現在は2.8%と伸び悩んでいます。
こういった課題を解決するため、フィンランド政府は、教育に関する4つの大きな目標を掲げています。
中でも「 子どもと若者が元気になる(Children and young people will feel well)」には、フィンランドらしい内容が盛り込まれています。
・母子保健クリニック活動や家族カウンセリング等の機会を提供し、子どもや若者、その家族のために質の高い支援サービスを推進する。移民の親への語学研修を提供する。
・全ての教育レベルにおいて、質の高い学生福祉サービスを提供できるリソースを増やす。
・各教育レベルにおいて学習指導を強化する。移民を含むすべての子どもたちに対して、さらなる教育の機会を提供する。
・学校生活の一環として、自分で選んだレジャー活動を楽しむ機会を保証し、自治体や民間企業等との連携を促進し、平日に無料のレジャー活動を提供していく。
・健康で環境に優しい学校給食を提供し、スナックの配布も視野に入れる。
・教員と生徒にいじめ防止のためのトレーニングの機会を提供し、幼児教育においても特別なプログラムを開発する。
北欧という土地柄はもちろんのこと、教育システムからレジャー活動、いじめに対するプログラムに至るまで、政府主導で改革を促すのは、堅固なリーダーシップを備える女性首相ならではの取り組みといえるのでしょうか。
2020年、マリン氏は子どもたちに向けた新型コロナウィルスに関する会見も行っています。彼女は、娘や家族のことを話しながら「今は不自由な生活になっているけれど、これで、多くの人の健康と将来を守ることができる」と子どもたちに分かりやすく説明しました。
働き方改革にも着手し、1日6時間勤務・週休3日制にするべきだと宣言しました。コロナ対策でも入国規制を厳しくし、感染拡大を食い止めたことでもその手腕は高く買われています。
世界の最先端をいくフィンランドの教育制度。現状に妥協せず、常に前進し続ける姿勢は、マリン氏の姿そのものでしょう。世界の教育制度から、日本も見習うべきところがたくさんあります。自国の文化を大切にしながら、各国の文化や教育制度をうまく取り入れていきたいですね。
World Happiness Report: https://s3.amazonaws.com/happiness-report/2020/WHR20.pdf
Flemish Government; https://valtioneuvosto.fi/en/marin/government-programme/finland-that-promotes-competence-education-culture-and-innovation
design stories: https://www.designstoriesinc.com/panorama/kumiko_hiltnen9/?fbclid=IwAR0zFws-T1Nip-fSdHxMGB_bWddd_x6GsOLksFEcbwAHWnsiCWrhveAtbxk
This is Finland: https://finland.fi/life-society/kids-ask-the-finnish-government-questions-in-corona-info-session/
フィンランドの美術教育とデザインについて: https://core.ac.uk/download/pdf/35431752.pdf
BUSINESS INSIDER :
https://www.businessinsider.jp/post-203966
日経新聞: https://www.nikkei.com/article/DGKKZO6572027031102020EA4000/?unlock=1
HUFFFPOST: https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5f471e71c5b64f17e13848b6