【中国編】今、中国で広がるメイカー教育とは?

中国でも、イノベーション人材の不足が懸念されています。2017年に発表された「第13科学技術人材育成5カ年計画」では、宇宙開発、新エネルギー自動車開発での人材ギャップを指摘しています。原因として、教育モデルがイノベーション人材の育成に適していないことが考えられています。その中国でイノベーション人材を育てる手段として広まったのが、メイカー教育です。

メイカー教育とは?

メイカー教育の元となっているのは、2010年代前半ごろに生まれた「メイカームーブメント」という潮流です。個人がデジタル技術を活用しながらものづくりを行うというもので、3Dプリンターやオープンソースソフトウェアなどの発展に後押しされて成長しました。技術の発展により、大量生産を行う従来の製造業のあり方に対して、専門知識をそれほど持たない個人が少ロットでものづくりを行うことが可能になったのです。ものづくりを行う「メイカー」たちが集って情報交換やコミュニケーションを行ったり、ツールを用いてものづくりを行ったりする場所として、「メイカースペース」も世界各地に作られました。

メイカームーブメントは、子どもたちの創造性や課題解決能力を育て、STEM分野への興味を引き出し、生徒中心の学びを実現するものとして、教育にも取り入れられるようになりました。

中国のメイカー教育

中国では2015年にイノベーションや企業文化を根付かせることを目的とした「大衆創業・万衆創新」政策を打ち出しました。ベンチャー企業を支援する環境整備や規制緩和などが行われ、各地にメイカースペースが作られました。
そして2016年に、政府が発行する文書の中で初めて「メイカー教育」という言葉が使われました。
同じ年、「中国のシリコンバレー」とも例えられる深センでは小中学校での試験的なメイカー教育のコース設計ガイドを作成し、江蘇省や成都市などもメイカー教育、STEM教育に関する文書を発行しました。
学校にメイカースペースを設けているところもあるほか、メイカースペースで教育プログラムを実施しているところも多くあります。

一方で、教員の意識改革は課題です。教員や校長ら15人を対象に行われたインタビュー調査では、そのうちの10人が競争への生徒の参加をメイカー教育の主要な目的にあげました。
また、ほとんどの学校のメイカースペースにトロフィーや賞状が飾られ、競争があおられる環境になっていたことも指摘されています。

生徒の創造性を引き出し生徒中心の教育を実現する本来のメイカー教育の形を実現するには、教育現場の意識の変化という壁を乗り越える必要がありそうです。

家庭の教育意識は変わっている

これに対し個人のレベルではすでに意識に変化が起きています。現在親世代になっている80〜90年代生まれの人々はより高い水準の教育を受けており、教育に対しても新しい視点を持っています。
2017年のレポートによると60%以上の親が子どもの教育に年間10,000元以上を投じたいと考えており、実際に2017年の教育市場は30%成長しています。さらに80%の親は学外での学習をサポートしたいと考えています。

このような背景から、中国では学校教育よりも学外での教育の変化が先行している様子がうかがえます。

参照サイト

Wang et al. (2018) “The Status Quo and Ways of STEAM Education Promoting China’s Future SocialSustainable

(https://www.researchgate.net/publication/329212858_The_Status_Quo_and_Ways_of_STEAM_Education_Promoting_China's_Future_Social_Sustainable_Development)

Ying (2018) “The Theoretical Basis and Importance of Maker Education”

(https://www.atlantis-press.com/proceedings/icesem-18/25901024)

Yao et al. (2020) “How Are Different Educational Cultures Incorporating Maker Education? The Case of China” (https://repository.isls.org/bitstream/1/6550/1/2341-2342.pdf)

Yuqing (2020) “Analysis on the Development Trend of STEAM Education in China from the Perspective of International Comparison” (https://dl.acm.org/doi/abs/10.1145/3399971.3399985)

カテゴリ:世界のSTEAM教育
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