【アイスランド】イノベーションを大事に!ちょっと独自の北欧式教育

アイスランドは、北大西洋に浮かぶ小さな島国。北海道より少し大きいくらいの面積に、品川区の人口より少ない約36万人が暮らしています。そんな小さな国ですが、北欧式の教育と、それを独自に進化させたユニークな側面が見られます。

 アイスランドの学校システムは?

アイスランドの学校は、10-3-3制で、小中が一貫で10年(6〜16才)、高校が3年(16〜19才)、大学が3年間です。日本と同様に高校から就職、進学といった進路ごとに学校が分かれます。

アイスランドの学校の特徴が、私学が少ないことです。2017年時点での統計で義務教育レベルでは169校中僅か12校で、生徒数の割合では2.5%にとどまります。大学は7校あるうち4校が国立で、国立の場合は学費がかかりません。

もう一つの特徴が、国よりも地方自治体および学校の占める裁量が大きいことです。国は国家カリキュラムのガイドラインを作成していますが、具体的な教育内容や年間教育、課外教育活動などについては、各学校が学校に合わせて学校ワーキング・ガイドを作成しています。また、学校の管理や特別支援を必要とする児童のための専門家派遣や環境整備は、地方自治体が行います。このように国が自由度の高い学校運営を認めている仕組みは、フィンランドとも共通しています。

生活にも必須の言語教育

アイスランドでは、外国語として英語とデンマーク語が必修になっています。現在は英語を4年生、デンマーク語を7年生で教える学校が多いようです。これだけ見ると特別早く始まるというわけではありません。しかし実際は、SNSや観光客の増加などから、多くの子どもが学校での英語教育が始まるより先に英会話能力を高めています。

アイスランドの特徴「イノベーション教育」とは

アイスランドの国家カリキュラムガイドには、モデル時間配分が示されています。この中で目立つのが、「arts and crafts」に当てられている時間の長さで、なんと二番目。arts and craftsは日本語では「美術工芸」とも訳されますが、国家カリキュラムガイドには「アートには音楽、視覚芸術、演劇が含まれる。クラフトにはデザインや手芸、織物、家庭科が含まれる」と記されており、日本でいう図工、音楽、家庭科のような内容が含まれています。

このarts and craftsが、アイスランドの教育の特徴の一つである「イノベーション教育」のベースとなっています。1990年ごろにarts and craftsから生まれたアイスランドのイノベーション教育は、北欧諸国で行われている「スロイド」という教育手法にも結びついています。スウェーデンで本格的に始まったスロイドは、様々な道具を使いながら手でものづくりを行うというものです。イノベーション教育ではさらに、身の回りの課題を発見し、そのための解決策を発明したり、既存の解決策を発展・応用させたりするというプロセスにフォーカスしています。特に、アイディアの発想という点が重要視されています。イノベーション教育は単独の必修科目となっているわけではありませんが、国家カリキュラムガイドの中では分野横断的な要素としてカリキュラムに組み込まれています。

成果を発揮する国主催のコンペティションも

イノベーションの成果を発揮する舞台として国が毎年行っているのが、「ナショナル・イノベーション・コンペティション(NKG)」です。これは5〜7年生向けに、教育科学文化省主催で毎年行われているアイディアコンペです。参加する児童たちはアイディアを期日までに送り審査を受けますが、応募の時点では実現に必要な知識は求められていません。ファイナルに選ばれるとワークショップに参加でき、アイスランド大学の教員などのサポートを得ながら、アイディアを実現させるのです。2020年の受賞作品は、目が見えない人がボランティアに連絡するためのアプリ、プラスチックゴミを処理する機械、ブランケット入りの旅行用クッションなどユニークで幅広い技術が用いられています。

男女の意識差が小さい

同じような伝統を持つ工芸教育は北欧の他の国でも行われていますが、その中でもアイスランドは男女共に関心を高めることに成功しています。フィンランド、スロベニア、エストニア、アイスランドの11〜13を対象に工芸・テクノロジーに対する子供の意識を調査した研究では、アイスランドは男女の意識の差が最も小さく、「男女共に工学的現象を理解できる」という設問は男女共に参加国で最高という結果でした。その要因として考えらえるものとして、芸術ベースの織物教育とイノベーションベースのテクノロジー教育が男女共に必修であることが挙げられています。

ものづくりだけでなく、それをどう活かしていくか考えさせる授業は、教師の関わり方も試されそうです。しかし、生徒たちが自信を持ってテクノロジーに触れ、発想を実現できる良い環境作りになっているのかもしれません。

参照リスト

Thorsteinsson “Innovation Education to Improve Social Responsibility Through General Education”

横山悦生「『教育的スロイド』の成立をめぐって」

Dyrfjord et al. “Makerspaces in formal and non-formal learning contexts in Iceland”

Thordardottir “National language in a globalised world: are L1 and L2 adolescents in Iceland more interested in learning English than Icelandic?”

カテゴリ:世界のSTEAM教育
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